グレタさんだけじゃない。多くのスウェーデン人は飛行機での移動をやめている。

スウェーデン国内の主要空港を運営するSwedaviaによると、これまで、1月からの国内の乗客数は8%低下し、国際では3%低下したという。
飛行機 イメージ写真
飛行機 イメージ写真
John Su via Getty Images

COP25(第25回国連気候変動枠組み条約締約国会議)への参加をめぐって、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさんTwitterで移動手段について「SOS」を訴えていることが話題になっている。チリで行われるはずだった開催地がマドリードに変更されたためだ。飛行機は温室効果ガスの排出が多いため、トゥーンベリさんは移動の際に飛行機を使用しないことで知られている。2019年8月にも、ゼロエミッション(環境汚染する廃棄物を排出しない)のヨットで大西洋を2週間航海しニューヨークに渡ったことで、世界から注目を集めていた。

2019年8月28日 グレタさんがヨットでニューヨークに到着する様子
2019年8月28日 グレタさんがヨットでニューヨークに到着する様子
JOHANNES EISELE via Getty Images

気候変動への対策を求めるストライキを始め、世界に広めたグレタさんは、環境への影響を懸念して12歳で飛行機での移動を辞めた。そして、母国スウェーデンでは、彼女に影響を受けた人々が環境に優しい移動手段を選択する動きが広がっている。

「自分の行動から出る排気ガスを最低限に抑えるため、鉄道を利用しています」とスウェーデン南部、ルンドに住む23歳のRebecka Hoppe(レベッカ・さんは話す。彼女の両親と2人の弟妹たちと、2019年は飛行機を一切利用しないという挑戦をしており、その目標は達成に近づいている。

彼女はこれまでに、3本の鉄道とフェリーを利用して、約1400キロ離れたブダペストに友人と訪れたほか、2週間かけてオランダとドイツを鉄道でボーイフレンドと回った。「私としては、鉄道は1回の休暇で多くの場所を訪れるのにぴったりだと思う。是非またやりたい」と彼女は話す。

Rebecka Hoppeさん
Rebecka Hoppeさん
COURTESY OF REBECKA HOPPE

「これは、自分の意識の表現なんです」と話すのは34歳のKlara Lövgrenさん。彼女は2019年、全てのプライベート旅行、また出張でもほとんどの飛行機移動をやめたという。

ストックホルムの北に位置するウプサラに住み、プロジェクト・マネージャーとして働く彼女は、夏にはクロアチアまでパートナーと鉄道で約2400キロを旅し、春にはイタリアまで鉄道で訪れたという。

「スウェーデンでは、もっと貧しい国に住んでる人たちより、ずっと多くの物を消費します」とLövgrenさん。「もし、環境への負荷がより低い移動手段を選ぶ事でエネルギー消費を削減でき、少しでも変化を起こせるなら、私はやるべきだと思います」

スウェーデンは長い間、「サステナブルな国」としての高い評価を得てきた。再生エネルギーへの大きな投資や、家庭ゴミの1%以下しかゴミ廃棄場に行かない、という事実もある。しかし、消費レベルについてはまだ大きな問題に直面している。WWFの2016年のレポートによると、世界中がスウェーデン人と同様に消費すると、1つどころか4.2個の地球が必要だというのだ。

しかしスウェーデンでは、活動家たちの影響で、士気が高まってきている。人口約1000万人のこの国で、1万4500人の人が国中で行われた「飛行機で移動しない2019年」キャンペーンに参加し、主催するNPOのVi håller oss på jordenによると、2020年は10万人、つまり人口の約1%が飛行機での移動をやめる事を期待しているという。

スウェーデン国内の主要空港を運営するSwedaviaによると、これまで、1月からの国内の乗客数は8%低下し、国際では3%低下したという。

一方、スウェーデンで購入されたインターレイルチケット(ヨーロッパ中を旅できる電車パス)は、過去2年間で3倍に増加した。国内最大の鉄道会社、SJは最近、多くの出張者や旅行客が短距離フライトを避けたことにより、7月から9月までの鉄道利用が2018年の同時期に比べ、15%増加したと発表した。

「これまで長い間、もし誰かに気候変動や環境のために電車を使ってると話したら、周りは気まずくなり、あなたは退屈な人だって思われてたでしょう」とLövgrenさんは話す。

しかし、2018年に破壊的な森林火災が発生。火災は北極圏まで達し、その夏に約2万6000ヘクタールを焼き尽くした。これは、スウェーデンの近代史の中で最悪の火災となり、地球温暖化によってどのような被害が起こるのかを明示した。そしてその9月、グレタさんは気候ストライキを始めた。

「今では、みんなが話題にすることになったと思います」と飛行機で移動をしないことについてLövgrenさんは語る。「あまり自然を気にせず、気候変動がどれだけ人間や生物種にとって深刻かを理解していない人たちも、目を覚ましています」

Facebookで5年前にスタートしたグループ、Tågsemester(電車で休暇を楽しむ、という意)は、2018年頭のメンバー4000人から、10万人に膨らんだ。メンバーはそこで、旅行先やお得情報などを交換している。

スウェーデン人はこれらの動きに合わせ、新たな言葉まで作り出した。tagskryt(鉄道自慢)、smygflyga(秘密で飛行機に乗る)、そして1番有名なのは、flygskam(フライト恥)だ。

スウェーデンの国面積も小さく、強い鉄道インフラがすでに存在していることが、他国と比べてこの移動トレンドが早く広まった大きな要素だろう、とニューヨークの運送アナリストのSeth Kaplan氏は話す。

スイス国内の街間での運行は頻繁で、早く、心地よい。また多くの場合、車内ではWifiが利用でき、多くの出張者にも便利だ。また、スウェーデンとデンマークの首都、コペンハーゲンを繋ぐ橋と鉄道もあり、そこから他の北ヨーロッパ行きの電車に乗り、旅することができる。

日本も国内の鉄道網は整っているが、島国であるため国外に行くには飛行機、もしくは船に乗らなければ現実的に難しく、ここは日本とスウェーデンの大きく異なる部分だろう。

しかし、スウェーデンの「飛行機に乗らない」トレンドを実践している旅行者たちも、物流面、価格面、特に国境を越える旅に関しては、様々な意見があるようだ。

Hoppeさんのブダペストへの旅は、160ドル(約1万7000円)ほどだったが、それは家から最も近い空港からの直行便フライトの格安チケットとほぼ同じ値段だ。「鉄道旅の方が、手荷物になんでも入れられ、チェックインや検査の必要もなく、出発10分前に到着すれば良いからラク」と彼女は話す。

一方、Lövgrenさんはイタリアへの旅行に関して「飛行機の方が安いしラクだし早い」と話す。彼女とパートナーはそれぞれ約600ドル(約6万5000円)を支払い、2本の夜間寝台車に乗り、彼女が見つけた直行便フライトより2倍も高かったという。

ストックホルム在住のアメリカ人、Leah Irbyさんは、ポーランド、イタリア、オーストリアそしてチェコを3週間かけて鉄道で旅したそうだが、アレルギー持ちの彼女は社内での食事の選択肢のなさや、乗り物酔いを経験したという。3歳の息子と旅をした彼女は、「環境を気にしていて、自分のカーボンフットプリントを削減したいけど、子供同伴の私には大変でした」と話す。「もしもう一度この旅をするなら、飛行機で1つの目的地まで行って、近隣を電車で旅するか、どこか近くへ旅行します」と話す。

しかし、スウェーデンでの鉄道移動のトレンドに失速の気配はない。12月、国内の鉄道会社SJは時刻表を変え、深夜鉄道でストックホルムからコペンハーゲンに到着する乗客が、早朝のドイツ鉄道に乗れ、昼までにハンブルグに到着できるようになる。スウェーデンは2045年までにカーボン・ニュートラルを実現する野心的な目標を掲げており、ヨーロッパ大陸への直行深夜鉄道運行を再現するべく、タスクフォースも設置した。

一方、多くの活動家は飛行機での移動をやめるのはパズルの一部でしかない、と話す。航空業界が占めるのは人間によるグローバル温室効果ガス排出の2%。最近の調査では、肉や卵、乳製品の消費を削減することが、地球を救うために個人ができる1番大きな行動だという。

ハフポストUS版の記事を翻訳、編集、加筆しました。

注目記事