163センチ、80キロの自分が「美しい」と思えるようになるまで。コンプレックスを次に進む力に変えて

ネットには無限の「個性的な美」があり、そこでは自分によく似たタイプの人が彼らなりの“美”を表現していた。
プラスサイズモデル・藤井美穂さん
プラスサイズモデル・藤井美穂さん
藤井美穂さんのinstagramより

163センチ、80キロ。

この数字は、Instagramのフォロワー数は6万人以上、アメリカで女優、プラスサイズモデルとして活躍中の藤井美穂さんの身長と体重です。

家族や友人に非難され続けた、太った自分。

自信を持てなかった日本での生活を思い切って手放してアメリカに渡ったら、コンプレックスだった体型は武器になり、自信の源になったと言います。

もちろん、その過程は平坦な道のりではありませんでした。

ありのままの自分を受け止めて、藤井さんはいま、「人間は一人一人、みんな素晴らしいし、美しい」と取材に語ってくれました。

毎日のように「太った」と言われて

日本にいるとき、体型のコンプレックスは本当にしんどかったので、アメリカに来て約5年、楽になれてよかったと心から思っています。

私が太りはじめたのは、13歳くらいのことでした。それまではどちらかというと細い方だったのに、体が大人になる過程で、急に20キロ近く増量。

両親からは毎日のように「太った」と言われ、服を買っても「そんな体型じゃ、何を着ても醜い」という言葉を投げかけられました。

妹がダイエットをすれば「あの子は痩せたのに、どうしてあなたは痩せないの?」「恥ずかしいとは思わないの?」と比較をされる始末。

両親は外見に気を使うタイプなので、「外見が良くないと、人生を上手に渡っていくことができない」と心配していただけなのかもしれない。でも、無条件に自分を肯定してくれる存在である親に、外見のことでは認められたということがない感覚が今でもあります。

中学校は雰囲気に馴染めず、いじられていたので、クラスメイトと言葉を交わすことはほとんどなかったけれど、わざと聞こえるように「太ったよね」と言われたり。この年頃ってそういう残酷なことしますよね? でも、何も言い返せなかった。腹は立つけど何もできない…。

そんな同級生とは離れたくて入学した高校では、部活で“なぎなた”に打ち込んで少し痩せたんです。でも、やめたら、また太ってしまいました。

もちろんダイエットの経験は、人に教えられることができるくらい豊富です。でも「勉強しなさい」と人に言われると、勉強したくなるのと同じような感じというか、人に自分の体型のことを言われると、意地になって痩せたくなくなるというのもあったのかもしれません。どのダイエットも長続きせず、うまくいきませんでした。

今考えると、私、そんなに太ってなかったんですよ。

昔の写真を見せると「え、太ってないじゃん」と言われることもあるくらい。

でもこれが怖いところで、実際にはそんなに太っていなくても、人から「太ってる、太ってる」と言われることで、自分でも「私はすごく太っている」と思い込んでしまう。

人からの言葉からの呪いみたいなもので、その言葉が、自分の中でどんどん大きくなって…。

毎日のように「太っている」言われたら、太っていると思うしかないじゃないですか。自分で自分のことを客観的に見るのが難しくなっていってしまった。

藤井美穂さん
藤井美穂さん
藤井美穂さんのInstagramより

「自分はキレイだ」と自信を持てるようになった

その後、日本を飛び出すようにしてアメリカに渡りました。とはいえ、体型などのコンプレックスから解放されることを期待して渡米したわけではありません。

大学で本格的に演劇を始めて、役者になりたいと思っていたのですが、日本では何の役をやるにも、コメディっぽい、面白い役を演じることが多かったんです。どんなに真剣なお芝居でも、一人はいるでしょう? ちょっと面白おかしい役を演じる人が。それが、だいたい私でした。コメティが得意で、自分が面白いというのもわかっていたので、アメリカのコメディアンが女優になって、映画に出るようなことがしたいなと思うようになりました。

「アメリカなら、私のようなキャラクターが活きるかもしれない。やりたいことができるかもしれない」。そう考えて、アメリカ行きを決断。当時、私の英語は中学生レベルだったから、振り返ると思い切ったことをしたなと感じます(笑)。

ロサンゼルスを拠点に語学学校、演劇学校に通いましたが、もちろん、楽ではなかったです。必死に勉強したし、オーディションは受けては落ちるの繰り返し。

でも、アメリカに移ってしばらくして、気づいたんです。

「体型について、あれこれ言ってくる人がいなくなったな」って。

アメリカでは人の見た目について、あれこれ言う行為はタブーです。

もし言葉にしたとしたら、それはメチャクチャ失礼だし、怒られる。

さらにいうと、ロサンゼルスは、さまざまな人種、文化の人がいて、美しさの基準も異なります。日本はみんな同じような美しさを目指しているから、基準が狭くなっていく一方だけれど、本来、一人一人、みんな素晴らしいし、美しいんです。

体型のことについて周りから何も言われなくなったし、日本にいたときは男性からそんなにモテなくて「藤井ってセックスとかするの?」なんて、失礼すぎてぶっ飛ばすぞ!と思うようなことを言われたこともあったのに、アメリカに来てから、すごくモテるようになったこともあって(笑)、徐々に自分に自信を持てるようになっていきました。私ってキレイだなと思えるようになったんです。

日本では、「自分のことをかわいいと思っている」というのは悪口の対象になってしまうのが怖いですよね。でもアメリカでは、自分のことが好きで自信を持っていること、自分のパートナーがイケメン美人なことも、自分の父親、母親が素敵なのも当たり前。そう言わないとしたら、アメリカ人から引かれてしまう。だから、自分がかわいいと思っていたとしても、それについて周りの人がどうこう言ってくるなんてことはないし、悪口の対象にもなりません。そこは私が見てきたアメリカと日本の大きな違いの一つだと思います。

藤井美穂さん
藤井美穂さん
藤井美穂さんのinstagramより

SNSの中の世界を変えれば、自分も変われる

体型がコンプレックスじゃなくなったら、他のコンプレックスも乗り越えやすくなりました。

例えば、私は顔にアトピー性皮膚炎の発疹やニキビ跡が多くて、すごく気にしていました。でもアメリカに来て、友人に打ち明けたら「お化粧したら、全然わからない」って言われたんですよね。

私はすごく気にしていたけど、周りの人は意外と気にしないんだなと気づいたら、毎日、その日できるベストで生きていけばいいんだと思えた。気にしないということができるようになったら、新しいコンプレックスも小さなものになっていきました。

私は運よく、自分の居場所をアメリカで作ることができているけれど、みんながみんなアメリカが合っているということではないし、日本から出られないという人も多いと思います。

なので、誰でもできることはインターネットを通して見る「世界」を変えることです。

確かにインターネットを開くと、美人やかわいい人たちがたくさん出てくる。

それと同時にインターネットは私たちの美の基準を広げてくれました。昔は日が当たることのなかった個性的な美がインターネットよってスポットライトを浴びて、自分によく似たタイプの人が代表して自分の美を表現してくれています。

インターネットはいまや生活の一部になっています。

これだけフォローする人の選択肢がある時代、画一的な美の基準にとらわれずにいるインフルエンサー、例えばボディポジティブな発信をしている人をSNSでフォローして、毎日見てみてください。すると、いつの間にか気持ちが少しずつ変わってきます。彼らの発言から見える世界が、だんだん普通になっていく。住んでいる国や付き合う友人などの周囲の環境を変えるのは難しくても、インターネットの中の世界を変えるのなら簡単にできるでしょう?

実際、私もプラスサイズモデルとかボディポジティブな発言をしている人をフォローするようになって、だんだんと彼女たちの美の基準が私の基準の中に含まれていきました。これまでと違う “ものさし”で測ったら、私も綺麗なんだと思えたことも、私の中でコンプレックスがなくなる過程に大きな影響を与えています。だからその恩返しというか、同じような悩みを抱えている人の役に立てればと思い、私はいま、InstagramやTwitterで発信をしているんです。

乗り越えるのではなく、上手に付き合う、折り合いをつけるでもなく、コンプレックスに感じてしまう自分のものさしを少し変える。きっとそれで、世界が大きく変わります。

心無い言葉は3000分の1くらいに考える

コンプレックスだけじゃなく、生きていると悩みは尽きません。

でも、みんな、地獄を生きていると思うんですよ。どうして自分だけが地獄みたいな日々を生きているんだと落ち込むこともあるけれど、「みんながそれぞれの地獄を生きている」と考えるようにしています。

ただ、私、コンプレックスって、武器にもなり得ると思うんです。

コンプレックスは、人と違うという意識から生まれるものでしょう。それは言い換えたら、人は持っていない自分だけの個性だとも言えるわけですよね。

じゃあ、コンプレックスを強みにするには、どうすればいいのかという話になるのだけれど、私のようにアメリカに来て武器にして、女優をしている人間もいれば、コンプレックスを治す方法の研究に打ち込むという人もいるかもしれない。

私はこの体型を活かした仕事でもうちょっと食べられるようになりたいけれど(笑)、コンプレックスが一生食べていける仕事になるという可能性は大いにあるわけです。

私がお会いしたことのあるプラスサイズモデルの方たちは、すごく優しい人ばかり。

それまでに受けてきた傷があるから、人に優しくなれるのかなと思ったりします。

他人の心無い言葉って、褒め言葉の3000倍くらい気になるし、自分の中でどんどん大きくなってしまうけれど、そういう言葉を3000分の1に考えるくらいがちょうどいいのではないでしょうか。

自分はその痛みがわかるけど、それを傷とせずに、次に進むための力に変えられたことをありがたいと思っています。

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ハフポスト日本版編集部

コンプレックスとの向き合い方は人それぞれ。
乗り越えようとする人。
コンプレックスを突きつけられるような場所、人から逃げる人。
自分の一部として「愛そう」と努力する人。
お金を使って「解決」する人…。

それぞれの人がコンプレックスとちょうどいい距離感を築けたなら…。そんな願いを込めて、「コンプレックスと私の距離」という企画をはじめます。

ぜひ、皆さんの「コンプレックスとの距離」を教えてください。

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