コロナ禍に見た避難所の「明らかな違い」。医師たちが訴える、豪雨被災地のいま

「備蓄も物資も全く足りない」。人命救助や避難者の診察に奔走する医師たちが見た、被災地の現状とは。
熊本県内の災害現場から状況を報告する医師の稲葉基高さん
熊本県内の災害現場から状況を報告する医師の稲葉基高さん
HuffPost Japan

熊本南部などを襲い、多数の犠牲者や行方不明者を出した九州豪雨。被災地では懸命な救助活動が続いている。コロナ禍の被災者たちが直面している問題とは。今、どんな支援が求められているのか。発災直後から現地入りし、災害派遣の経験が豊富な医師らが7月8日夜、オンライン報告会を開催。足場の悪い中で難航する救助活動や、コロナ禍で生じたボランティア不足の実態を訴えた。

行方不明者の捜索現場(熊本県芦北町)
行方不明者の捜索現場(熊本県芦北町)
ARROWS提供

■備蓄も物資も「全く足りない」

報告会は、認定NPO法人「ピースウィンズ・ジャパン」が運営する「空飛ぶ捜索医療団 ARROWS(アローズ)」が開いた。医師や看護師、レスキュー隊員などで作るARROWSは、豪雨発生直後の7月4日から熊本県南部の災害現場に入った。行方不明者の捜索活動や避難した被災者の診療、物資の配布などに当たっている。

ARROWSメンバーで、NPO法人「アジアパシフィックアライアンス(A-PAD)・ジャパン」(佐賀市)の根木佳織さんは、物資供給の現状を報告。「佐賀県を拠点に被災地にマスクや消毒液、靴下、肌着などの物資を届けている。服が濡れたまま命からがら避難してきている人もいます。予想していたよりも被災者が多く、支援物資や備蓄が全く足りていません」と訴える。

避難先の生活環境の問題点も挙げる。「被災者がブルーシートの上に横になって休んでいる状況の避難所もある。避難所によっては、着替えをする場所の確保も難しい」と懸念を示した。

アジアパシフィックアライアンス・ジャパン事務局長の根木佳織さん
アジアパシフィックアライアンス・ジャパン事務局長の根木佳織さん
HuffPost Japan

■並行する「2つのフェーズ」

土砂崩れで道が寸断されている上、連日の悪天候も救命活動を阻んでいる。

ARROWSリーダーで医師の稲葉基高さんは「避難所の被災者のケアと、孤立集落のレスキューを同時並行で行なっているフェーズ」と話し、救助が難航する実態を報告した。

「崖崩れがあちこちで発生していて、分散避難になってしまっている。通信環境が悪くて連絡が途絶えて、119さえ通じない。通信での情報共有が困難なので、とにかく現場に行ってみないと被災者の状況が掴めません。陸路でたどり着けない場所はヘリで向かいますが、天候が悪ければヘリは飛べない。これまでの水害より変数が多く、大変なミッションだと感じています」

■コロナで明らかな“支援控え”

被災地支援の経験がある稲葉さんは、コロナ禍で初の災害現場での「明らかな違い」を感じていると言う。

「過去の災害現場では、高齢者の体操や子どものケア、物資輸送や炊き出しといった復興に向けての環境整備をサポートする医療チーム以外の様々な団体が現地入りしていました。今回の豪雨災害では、そういった団体が非常に少ない。コロナによる”支援控え”は顕著で、この先への影響を非常に懸念しています」

東日本大震災や熊本地震など過去の災害では、食事や水分を十分に取らないまま、車などの狭い座席で長時間座っていることで血のかたまり(血栓)が血管を流れ、肺血栓などを誘発する「エコノミークラス症候群」が深刻な問題になった。

「従来の被災地では、『エコノミークラス症候群の恐れがあるので車中泊はなるべくしないでください』という立場を取ってきました。ですが今回のコロナ禍では、車中泊は(感染防止のため)ある意味で容認されています。水分補給をしっかりすること、定期的に足の運動をすることをできる限り声がけをしていかなければいけないと感じています」

避難所では感染症対策のためにマスクを配布している
避難所では感染症対策のためにマスクを配布している
ARROWS提供

エコノミークラス症候群以外では、誤嚥性肺炎につながりかねないことから、被災した高齢者の口腔ケアも重要となる。災害の急性期を生き延びても、誤嚥性肺炎によって震災関連死につながる恐れもあるからだ。

だが、稲葉さんはこうした医療的ケアがコロナによって困難になっている現状を指摘する。

「2年前の西日本豪雨で大きな被害が出た岡山県倉敷市真備町では、医師や看護師以外のリハビリテーションチームのボランティアが、誤嚥性肺炎の予防に尽力していました。今回の豪雨の被災地で、現段階ではそういった支援の兆候が見えず、被災者の健康問題のケアまで十分に手が回っていないのが現状です」

■被災地の外からできることは

被災地の外から、何ができるのか。

稲葉さんは「関心を持ち続けてほしい」と訴える。

「電気も通らない、水も出ない。今この瞬間に救出されるのを待ち、不安な夜を過ごしている人たちがいます。そのことをずっと忘れないでほしいです。関心を持ち続けてもらうことが、多くの支援につながると思っています」

「豪雨災害はいつ、どこでも起こりうる。いざと言うとき、どこに逃げるのか、誰に連絡するのか。自治体の避難所マップやハザードマップを確認し、準備しておくことは誰にでもできるはずです。そうした自分自身の『オーダーメード』の避難を前もって準備し、まずは自分の身を守ってください」

現地に入り支援したいと希望する人たちが、コロナ禍のためボランティアを「自粛」する可能性も否定できない。

根木さんは、「ボランティア無しでは、過去の水害を乗り越えることはできませんでした。水害後の復興には、手数が必要です」と断言する。「私個人の考え」と前置きした上で、「体調が悪かったら現場には行かない。被災地に行ったら、毎日の検温と手洗いを徹底して作業に関わる。そういった最低限の感染防止策に留意し、目的を持って動くボランティアが求められていると思います」と話した。

熊本県によると、県内の避難者数は2131人(7月8日午後1時時点)。19市町村計149カ所に避難所が設置されている。

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