同性婚訴訟は正念場へ。最初で最後の尋問「抽象的な同性愛者の話ではなく、目の前の人がどう生きるかという話」

複数の同性カップルが全国5つの地方裁判所で国を提訴している「結婚の自由をすべての人に訴訟」。札幌地裁では8月5日の弁論期日に、原告と証人への尋問が行われる。
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同性婚を認めないことは違憲かーー。全国で一斉に提訴された訴訟が正念場を迎える。

2019年2月以降、複数の同性カップルが全国5つの地方裁判所で国を提訴している「結婚の自由をすべての人に訴訟」。

札幌地裁では第6回目となる8月5日の弁論期日に、原告と証人への尋問が行われる。

「尋問は地裁におけるクライマックス」と語るのは、Marriage For All Japan共同代表理事で、弁護士の寺原真希子さんだ。

裁判における「尋問」とはどういう位置付けなのか、今後の見通しについて話を伺った。

尋問は「最終局面」

2019年2月に札幌、東京、名古屋、大阪で一斉提訴をした後、2019年9月に福岡で追加提訴、2020年3月には熊本県在住の同性カップルも新たに加わった。

各地裁の進行状況は異なり、特に新型コロナウイルスの影響で裁判期日が延期になっている地裁もある中、札幌地裁は他の地裁よりも進行が早く、次で6回目の期日を迎える。

「これまで法的な主張についてのやりとりをしてきましたが、次回は原告や証人に対する尋問が行われます。尋問で話すことは裁判における“証拠”となるので重要な場面です」と寺原さんは話す。

「尋問が終わると判決期日を決めて弁論が終結するため、裁判の期日としては最終局面になります」

寺原さんによると、おそらく10月頃には弁論が終結し、来年の2〜3月頃に地裁判決が出るのではないかと予想しているという。

尋問の目的とは

裁判ドラマなどでもよく描かれる「尋問」シーン。当日は、原告5人に対する“本人尋問”と、原告の姉1人への“証人尋問”の計6人に対する尋問が行われる。

「まず一人ずつ証言台に立ち、原告代理人からの主尋問が行われます。原告や証人は一問一答形式で答えていきます。その後、被告代理人である国側からの反対尋問が行われ、必要があれば裁判官からも補充尋問があります」

寺原さんによると、今回の訴訟では国側はほとんど反対尋問をしてこない可能性が高いという。

「原告や証人は同性婚が認められないことによる不利益など、個人的な話について語っていくことになると思います。(国側も)個人の経験を否定することはできないので、おそらく反対尋問では国はほとんど質問してこないでしょう」

では、原告側にとって尋問が行われる意義は何か。

「今回の訴訟では憲法違反か否かが問われているので、学説などのいわゆる“机の上”での議論に重きをおいて、裁判所が判決を下すおそれがあります」

しかし、憲法13条は「個人としての尊重」を、憲法24条2項は「個人の尊厳」を保障している。憲法違反か否かの判断は、抽象的な議論だけでなく、今この社会に生きている一人ひとりの尊厳が守られているかどうかをしっかり省みて判断されるべきだろう。

「同性婚ができないことで、こんなに深刻な不利益を被ったり辛い状況に追い込まれている、まさに『個人の尊厳』が侵害されているんだということを立証するのが、今回尋問を行う目的です。そのためには、一人ひとりの当事者の実態をしっかりと裁判官に伝える必要があります」

注目の札幌地裁判決

他の地裁に比べて、なぜ札幌地裁は進行が早いのか。

寺原さんによると、一つは「訴訟指揮がしっかりしているから」だという。

「国は当初『憲法は同性婚を想定していない』と繰り返すのみで、実質的な主張をしてきていませんでした。これに対して、札幌地裁では、裁判所が国に対して、『しっかり説明をしなさい』と指示をしました。充実した審理をすることについて積極的な姿勢が伺えます」

一方で、訴訟指揮がしっかりしていることが必ずしも原告に有利な判決に繋がるという訳ではないという。

「訴訟指揮が丁寧であることと原告の主張が認められるかは別問題ですが、判決の結論にかかわらず、裁判所が一つひとつの論点について丁寧な理由を述べることを期待しています」

札幌地裁の判決は他の地裁判決へ影響するのだろうか。

寺原さんは「裁判官はそれぞれ独立した存在なので、他の地裁の裁判官がどのような判決を下しても、自らの判断に従って判決を下すことになります」と語る。

「ただ、同性婚について初めての判決であり、また、札幌は高等裁判所も所在する大きな都市でもありますので、他の地裁の裁判官への心理的な影響は否定できません」

尋問は「最初で最後」

札幌地裁の尋問に続き、今後他の地裁でも尋問が行われるだろう。来年2〜3月と予想されている札幌地裁の判決の後も同様に、東京をはじめ、他のエリアの地裁でも順番に判決が下される。

どちらが勝っても必ず負けた方は控訴し、高等裁判所へ。控訴審判決後も負けた方が上告し、最高裁判所へと続くだろう。

寺原さんは「実は原告への“尋問”が行われるのは、地裁が最初で最後なんです」と語る。

高裁での控訴審は、一回の期日で終わることも多く、期間は半年ほどで終わることも少なくないという。最高裁では代理人による弁論は行われる可能性はあるが、原告の尋問は行われない。

「そのような意味でも、ぜひ札幌地裁の尋問に注目してほしいと思います」

訴訟では、同性婚が認められていないことは、「婚姻の自由」を保障している憲法24条や、「法の下の平等」を保障している14条に違反しているという主張をしている。

「この訴訟の根源に、憲法13条や24条2項が謳う“個人としての尊重”、“個人の尊厳”という視点があることを、裁判官には改めて思い出してもらいたいと思います。尋問は、同性婚がないことによって個人の尊厳が日々傷つけられていることを判決に反映させるための重要な局面です」と寺原さんは話す。

「このことについては、これまで我々弁護士も書面で強く主張してきましたが、やはりご本人から裁判官に対して生の声を直接伝えることでしか、伝わらないことがあります。

この訴訟は、“どこかにいる抽象的な同性愛者”の話ではなく、いま、目の前にいる人が、今日、明日をどう生きるかという話なんだということを、裁判官には改めて認識してもらいたい。今回の尋問はそのために必要なものです」

尋問は8月5日(水)10時から札幌地方裁判所で開かれる。

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