3歳児ひとりを警察官らが個室で聴取。南アジア出身の女性が東京都を提訴、「人種差別意識が根底に」

3歳の長女は過呼吸などに苦しみ、PTSDの疑いとの診断を受けている。女性側は、警察官がトラブルの相手に女性の住所などを許可なく提供したとも訴えている。
記者会見を開く女性。個人情報を漏らされ、日常生活を脅かされていると訴える(手前)
記者会見を開く女性。個人情報を漏らされ、日常生活を脅かされていると訴える(手前)
HuffPost Japan

警視庁の警察官に、個人情報を同意なくトラブルの相手に提供されるなど違法な対応を受けて精神的苦痛を受けたとして、南アジア出身の40代女性が9月22日、東京都を相手取り、損害賠償を求めて東京地裁に提訴した。

女性は提訴後の記者会見で、「人生で最悪の出来事があってから、娘は不安感や抑うつ状態、過呼吸に苦しみ、男性を怖がるようになりました。警察官が私たちの個人情報を提供してから、危険にさらされているように感じています」と訴えた。3歳の長女は、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の疑いとの診断を受けているという。

母子に何があったのか

訴状などによると、女性は南アジア出身で、10年前に来日した。

2021年6月1日、女性と長女は、2人で都内の公園を訪れていた。長女が滑り台で遊んでいたところ、近くにいた男性が、女性と長女に対して「息子が(長女に)蹴られた」と主張し、トラブルになった。女性は長女から目を離しておらず、長女は蹴っていないと否定。だが、男性から「在留カード出せ」などと詰め寄られたという。

その後、計6人の警察官が駆けつけた。女性は日本語でのコミュニケーションがほとんどできず、仲裁に入った30代男性によると、トラブルの相手の男性が外国人に対する差別的な発言を繰り返していた。一方、警察官らは制止しなかったという。

仲裁に入った男性は、一人の警察官が長女に対して「お前がどうせ蹴ったんだろ」「本当に日本語しゃべれねえのか」などと追及していたと証言している

母子がトラブルに遭った東京都内の公園の砂場
母子がトラブルに遭った東京都内の公園の砂場
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「帰宅や休憩も認めず」と訴え

女性と長女は公園で約2時間の聞き取りを受けた後、警察署への同行を求められ、署で再び聴取をされた。その際、女性と長女を引き離し、長女ひとりに対して最大5人の警察官が個室で聴取を行った。長女が泣き続けていることに耐えかねた女性が部屋に入るまで長女単独での聴取は続き、少なくとも10分以上にわたった。

訴状によると、女性が同意していないにもかかわらず、女性の氏名や住所、電話番号といった個人情報を、公園でトラブルになった男性に対して警察官が提供した。女性は連絡先の提供を拒否したが、警察官は「終わらない」と繰り返し、執拗に承諾を求め続けたという。

加えて、女性側は

・警察署では約3時間にわたり事情聴取され、帰宅や休憩の要望も聞き入れられなかった。女性がトイレに行くことや、長女のオムツ替えも認められなかった

・署内で、担当の警察官が任意であることを女性に説明せずに、女性と長女の写真を撮影した

といった点も訴えている。

聴取の間、女性の母語の通訳は用意されず、電話を介しての英語通訳のみだったという。

「根底に明らかに人種差別意識が流れている」

弁護団は、担当警察官らの一連の対応が、「任意処分の限界を超えた令状なき強制処分で、職務上の法的義務に違反し、国賠法上違法である」と主張している。

西山温子弁護士(左)と中島広勝弁護士
西山温子弁護士(左)と中島広勝弁護士
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さらに、「警察官らによる一連の違法行為は、その根底に明らかに人種差別意識が流れているものであり、人種差別を容認し助長するのみならず、自ら差別的行為に及んだもので、断じて許されない」と訴えている。

弁護団の中島広勝弁護士は、「警察組織の中に、『外国人は治安を脅かす存在なんだ』という認識がどこかにあるのではないか」と指摘。「この裁判を通じて、背景にある人種差別意識に、裁判所は踏み込んだ判断をしてほしい」と強調した。

女性の代理人の西山温子弁護士は、外国人が警察官から差別的な扱いを受け、恣意的な職務質問や捜査(レイシャル・プロファイリング)の被害にあうことは珍しくないと指摘。

「在留資格を剥奪されれば日本から退去しなければならず、外国人にとって、警察とトラブルを起こしたり目をつけられたりすることが日本での生活に影響する。身の安全を考えた時に、不当な扱いを受けても『おかしい』と言えない。弱い立場に置かれた外国人に対し、通常は許されないような職務執行が行われている」と問題提起した。

警視庁はコメントせず

弁護団によると、女性は聴取を受けた後に、警視庁と法務省が設置する外国人を対象とした相談窓口に連絡したものの、いずれも対応してもらえなかったという。

署側は、弁護団の聞き取りに対し、長女ひとりへの聴取は「女性の承諾を得て行った」と説明。個人情報をトラブル相手の男性に提供したことについては、「男性が民事訴訟を起こす」ことを理由とし、「女性の承諾を得ていた」と主張しているという。

女性と弁護団は、謝罪や処分を求めて7月、東京都公安委員会に苦情申出をしている

苦情申出をめぐり、警視庁はハフポスト日本版の取材に「個別具体の案件については回答を差し控えさせていただきます」として一切回答していない。

今回の提訴についても、警視庁は「訴状が届いていないのでコメントできない」としている。

【UPDATE】2021年11月2日午後2時40分

提訴の受け止めについて、警視庁はハフポスト日本版の取材に「係争中のため、回答は差し控える」とコメントし、違法性の認識を明らかにしなかった。

(國崎万智@machiruda0702/ハフポスト日本版)

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