出産費用“100万円“に悲鳴…「#出産を無償に」の動きも。地域差大きく

「妊産婦を中心とした費用や制度の設計を」と署名を進める団体は求めています
出産のイメージ
出産のイメージ
FatCamera via Getty Images

「高い。産みたくてもこの金額では産めない」

「子供を持つことはこの国ではすでに『贅沢品』だ」

子育てに関わる提言を行う団体が出産費用についてアンケートを行ったところ、こうした悲痛な声が上がった。

出産のための入院でかかった費用だけでも10万円以上の自己負担が発生することも少なくない中、「#出産を無償に」と求めるオンライン署名も行われている。

背景には、出産費用が年々上がり、出産の際に健康保険から支給される「出産育児一時金」の42万円では足りないケースが発生している現状がある。岸田文雄首相は一時金を増額する方針を示しているが、署名を行う団体は「妊産婦を中心とした費用や制度の設計を」と求めている。

「高額でびっくり。高い理由もわからない」

妊娠・出産は帝王切開などを除いて費用は自己負担となる。加入する健康保険から、負担軽減を目的として「出産育児一時金」(子ども1人につき42万円)が支給されており、これを出産費用に充てることになる。

しかし、42万円で出産費用をまかなえない人も多いのが実情だ。

2021年に東京都内で出産した会社員女性は、無痛分娩の費用12万円を含めると総額91万円かかったという。産後のエステやお祝い膳の費用もパッケージとして含まれていて、部分的に断るという選択肢はない。42万円を差し引いても自己負担はなお49万円。高いが、自宅から30分圏内で無痛分娩が可能な産院はここしかなく、予約も激戦の病院だ。他も検討したが、同様に100万円近くかかる病院も多かった。

「何も、『セレブ産院』で産みたかったわけではないんです」と女性。「ただ、安全や、妊婦健診での通いやすさを考えて自宅近くの病院を選択した結果、高額になりました。他に選択肢がなかっただけなんです」

市民団体「子どもと家族のための緊急提言プロジェクト」が2018年以降に出産した人を対象に2022年4月に行ったアンケートには、47都道府県の1236人(有効回答1228件)から回答があった。

子どもと家族のための緊急提言プロジェクトによるアンケート結果
子どもと家族のための緊急提言プロジェクトによるアンケート結果
子どもと家族のための緊急提言プロジェクト

出産入院でかかった費用が42万円以下だったのは7%。51-60万円が最も多く30.4%、61万円以上の人は47.3%と半数近くを占めた。91万円以上だった人も9.1%いた。

こうした価格の中には、本人の希望に関わらず入院中に施されるエステやお祝い膳などもパッケージとして含まれている場合もあった。分娩を予約する際に「予約金」を求められた人も54.4%いた。

自由記述には高額な負担に困惑・疑問の声が数多く集まり、第二子の妊娠・出産をちゅうちょしたという声も上がった。

「高額でびっくり。高い理由もわからない」

「子どもを産みたいけど、出産費用を見たら、二人目は悩む時期があった」

「教育にも多額の負担があるのに、(子育ての)入り口の出産でなぜこんなにお金がかか るのか」

「産まれた後の準備も考えると赤ちゃんが贅沢品と言われても仕方がない気がする」

さらに、病院ごとのサービスが分かりにくい・選べないという声や、妊婦健診も含めた自己負担が重いと指摘する声もあった。

「サービスにより費用が異なるのは当たり前だが、基本の⽔準がわかりにくい。どれくらいが高いのかわからないまま急いで分娩予約をしないと枠が埋まってしまう」

「エステとかなくていいから安くしてほしい」

「毎月の妊婦健診で 4千~1万円が飛び、その末の多額出費は痛かった」

プロジェクトでは、出産を原則無料にするよう求めるオンライン署名も始めた。出産費用の実態調査と費用高騰の要因究明、 出産費用の公定価格化・出産の原則無償化を求めており、「“少子化危機”といわれる日本で、なぜ出産する人たちに高額な自己負担を強いる状況が放置されているのでしょうか」と問題提起している。

「妊娠・出産に関する制度や費用の考え方、提供側中心になってないか」

出産費用の平均値
出産費用の平均値
厚労省の資料をもとにハフポスト日本版が作成

厚労省が社会保障審議会で示した資料によると、出産費用の全国の平均値は52万4182円(室料の差額など含む)で、平均でも一時金を10万円以上上回っている。

こうした状況は国も把握。

審議会で示された資料では「出産費用は年々増加しているが、どのような要因により増加しているのか明らかではない」と不透明さが指摘されており、さらに、「医療機関において、必ずしも事前に出産費用が明示されておらず、費用やサービスによる選択が難しくなっている」と、利用者が選択しづらい面があることにも言及されている。

朝日新聞などによると、岸田文雄首相は一時金を増額する方針を示しており、2023年度からの実施を目指すという。

ただ、費用は地域ごとの差が大きい。

室料差額などを含めない公的病院での出産費用は、最も高い東京は平均約53万円だったのに対し、最も低い島根は約34万円。その差は20万円近く、負担感が地域によって大きく違う結果となっている。全国一律の一時金増額では負担の地域差は解消されない。

出産に関しては妊婦健診でも補助を使ったとしても自己負担が重いなどの課題もある。「子どもと家族のための緊急提言プロジェクト」事務局長の榊原智子さんはこう訴える。

「エステやお祝い膳など、分娩の際のオプションの有無も選べない。妊婦健診の自己負担も重い。妊娠・出産に関する制度や費用の考え方が、提供側中心になっていませんか?妊産婦中心じゃなくなっていませんか?と問いたい。当事者の声を聞いてほしい」

〈取材・文=小西和香 @freddie_tokyo / ハフポスト日本版〉

注目記事