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産みたいのですか、育てたいのですか?――特別養子縁組で親になるという選択

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毎年4月4日は「よーしの日」。2016年の日本財団でのイベントで。photo: Eri Goto

親が育てられない子どもを引き取り、法律上も親子となって育てる特別養子縁組。生まれた家庭で育つことが難しい子どもたちに、新たな家庭を見つける方法として、欧米諸国を中心に広く根づいています。日本でも昨年、児童福祉法が改正され、全国の自治体で今まで以上に積極的に、特別養子縁組の拡充に取り組んでいくことがうたわれました。

私は6年前、まだ「特別養子縁組」という言葉が話題に上ることが今ほど多くなかった頃に取材を始めました。養子を育てているご夫婦や、養子を迎えようと児童相談所や養子縁組団体に登録したご夫婦に話を聞くうちに気づいたことがあります。それは、子どもを迎えた人、迎えたいと思っている人のほとんどが、不妊治療の経験者だということです。

考えてみれば、あたりまえのことかもしれません。特別養子縁組は子どもたちを救う方法であるのと同時に、子どもと出会い、家族をつくるための選択肢の一つとなりうるからです。

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妊娠相談と養子縁組仲介を手がける一般社団法人「アクロスジャパン」(小川多鶴代表)はこのほど、団体に養子縁組を申し込んだ100組の夫婦に、養子縁組を検討するまでの不妊治療経験の有無、治療の内容や期間などを尋ねました。すると、100組すべての夫婦が、何らかの不妊治療を経験していました。

治療内容のうちわけは、「体外受精まで」が42組、「人工授精まで」が26組、「タイミング療法まで」が15組で、ほかにもホルモン療法や漢方療法、非配偶者間人工授精(AID)、海外での卵子提供を試みた夫婦もいました。養子を迎えようと団体の門をたたいた夫婦はみな、期間の差はあれ、「みずから産む」ことを目指してさまざまな治療を試みていたことがわかります。

アンケートに答えた100組のうち、実際に特別養子縁組が成立した夫婦は35組で、彼らの平均治療期間は「4.9年」、委託時の平均年齢は、妻が39歳、夫が41歳でした。

30代半ばで治療を始めた夫婦が、なかなか妊娠・出産にいたらず、40歳前後で、このまま治療を続けるのか、子どもをあきらめるのか、ほかに選択肢はないのかと模索する。そのとき初めて、特別養子縁組という選択肢が視野に入り始めるというのが、アンケート結果から見えてくる一般的な流れでしょう。不妊治療から特別養子縁組への「心の切り替え」ができるようになるのは、治療を終結させたあと、ということになります。

「心の切り替え」遅れがちに


いま、国内で不妊の悩みを抱え、治療を受けている人は約47万人。カップルの6組に1組は不妊治療を受けているといわれます。日本産婦人科学会の2012年のデータをみると、年齢別の総治療周期数あたりの生産率は、34、5歳で急激に減少し始め、40歳で10%を切り、45歳ではわずか0.8%まで落ち込みます。

年齢が高くなるにつれ、妊孕性(妊娠のしやすさ)が低くなることは、さまざまな統計データが示しています。それでも、治療を受ける側にすれば、1%でも可能性があるならそこに賭けたい、と思うのは自然なことです。いつまで治療を続けるのか、何をもって「終わり」とするかは、当事者にしか決められません。このため治療は長期化し、患者の年齢は高くなる傾向にあります。

不妊治療の長期化・高齢化は、子どもを「産む」ことではなく、「育てる」ことが最終ゴールである人たちにとって、特別養子縁組への心の切り替えの遅れにつながります。アクロスジャパンの調査でも、縁組が成立した夫婦はそれ以前に平均5年間の不妊治療をしています。心の切り替えには相応の時間が必要ですが、その結果、養子を迎えることもかなわなくなってしまう可能性があるのです。

法律に明記されているわけではありませんが、特別養子縁組制度の運用をみると、育て親にも事実上の年齢制限があるといえます。養子縁組を前提にした里親委託をおこなう全国の児童相談所では、育て親と子どもの年齢差を「おおむね45歳以下」としています。赤ちゃんを委託することの多い民間団体も、行政の基準にならう形で育て親の年齢に制限を設けているところが多いです。このため、赤ちゃんから育てたい場合は「45歳」が育て親になる(事実上の)タイムリミットになります。

40歳前後で思うような治療の結果が得られなくなり、数年かけて納得して治療を終え、特別養子縁組へと踏み出そうとしたものの、育て親としての年齢制限を迎えてしまった――。取材の過程で、こうしたケースにいくつか出合いました。心の切り替えが遅れて親になる機会を逸してしまった方、子どもには出会えたものの、「数年早くこの選択肢を知っていたら、もう1人迎えられたのに」と言う方もいました。

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特別養子で長女を迎えたアヤさん。2人目の養子となる長男を娘と一緒に迎えました(アヤさん提供)

アクロスジャパンの調査結果では、申し込みから試験養育期間を経て特別養子縁組が成立するまでに平均20.8カ月かかっています。養子を迎えると決め、アクションをおこしてから、名実ともに「わが子」となるまでに2年近くを要していることになります。

ここから言えることは、夫婦にとって子どもを育てることが最終ゴールであるなら、治療を始めるタイミングで、特別養子縁組という選択肢も視野に入れて情報を集めたり、経験者に会って話を聞いたりといった「準備」を始めたほうがいいということです。

「不妊治療」と「特別養子縁組」という二つの世界は、親になる人たちにとっては、同じゴールにつながっているはずですが、心理的な距離は思う以上に遠いものだというのが取材を通じての実感です。不妊治療にたずさわる医療関係者(医師や助産師、不妊カウンセラーなど)には特別養子縁組への理解や知識が不足しているし、養子縁組に関わるソーシャルワーカーたちにとっては、子どもの福祉の問題を、個人の私的な問題である「不妊」と結びつけて語ることへの抵抗が大きいのだと思います。

でも、育て親になりうる人たちは、子どもを育てたいと心から願う人たちであるはず。不妊と養子縁組という二つの世界に、自然な形で橋をかけられたら、家庭を必要とする子どもたちにとっても、親になりたいと願う大人たちにとっても、幸せな未来が待っている可能性は高いのです。

実際、不妊治療に関わる医師の中にも、二つの世界をつなぐことに目を向ける人たちが現れ始めています。獨協医科大学越谷病院リプロダクションセンター教授の杉本公平医師らは、今回のアクロスジャパンの調査結果と国内の不妊治療(体外受精)の年齢分布とを照らし合わせ、不妊治療の患者さんたちに特別養子縁組について知らせるタイミングを探りました。そして、「治療中、あるいは治療開始時から、養子縁組を選択肢の一つとして周知する必要がある」と結論づけています。

親を必要とする子どもと、子どもを育てたいと願う夫婦とをつなげるのが、特別養子縁組です。赤ちゃんとの出会いを求めて、病院に通っているみなさんに、考えてみてほしいのです。

あなたは子どもを産みたいのでしょうか、それとも、育てたいのでしょうか。

後者であれば、思いをかなえる方法はあるのです。それを知ってほしくて、『産まなくても、育てられます』という本を書きました。

家族をつなぐものは、血のつながりだけではありません。これからも、このブログの発信を通じて、家族のかたちについて考えていきたいと思います。