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「Orphe」は"光と音と動きが自由に行き来できる世界"のハブ:no new folk studioが目指すもの

2015年07月30日 23時55分 JST | 更新 2016年07月28日 18時12分 JST

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9軸センサや100以上のフルカラーLEDを搭載し、動きに合わせて光を制御できる「Orphe」。クラウドファンディングサイトIndiegogoで6万8450ドル(約840万円)の資金調達に成功し、日本発のハードウェアスタートアップとして注目されている。Orpheのこれまでとこれからを、no new folk studio代表の菊川裕也さんに伺った。

(文:大内孝子 撮影:加藤甫)

「Orphe」はアーティスト、パフォーマーのためのスマートシューズ


「Orphe」は動きを検知して光の強さ、色、光のパターンを制御できるスマートシューズ。そう言葉で説明されただけでは、どういうプロダクトなのかよく理解できないかもしれない。デモムービーはこちら。

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菊川さんが、この「動きと連動して光る靴」のアイデアを初めて形にしたのは2014年3月に開催されたヤマハの音楽系ハッカソン「Play-a-thon」だ。それからわずか1年余りでクラウドファンディングに進んでいる。このプロジェクトで何が起きているのだろう。一見飄々とした印象だが、菊川さんはいったい何を考えているのだろうか。

音楽をやっていた頃からのコンセプト「no new folk」


「電子楽器の研究を始める前は、バンドとか一人で弾き語りとか音楽をやっていました。ギター、ベース、歌、鍵盤、アコースティックも打ち込みもやります。no new folkというのも、その頃に考えたコンセプトです」

首都大学東京大学院で電子楽器を研究していたというあたりから始めてもらおうと話を向けると、菊川さんから、いまの社名につながるコンセプトが出てきた。「no new folk」は、ブライアン・イーノの『No New York』というコンピレーションアルバム、No Waveという音楽のジャンルのへの憧れ、自分の中でfolkを一番大事にしたいというところを掛けあわせたものだという。そもそも「folk」というものは自分の民族、生まれ育ち、自分の「個」というものに対し向き合う行為なのだ、とも。

「テクノロジーが自分たちの生活にはあふれている。ということは、自分たちの生活に対して正直に表現行為をするとすれば、それも含まれたものになるはずじゃないかと思うんです。だから、フォークミュージックがアコースティックなものしか使ってはいけないというのには違和感があった。フォークという考え方のもとにテクノロジーと向き合いつつ、自分というものにも向き合うというのが、もともと音楽をやっていたときからコンセプトだったんです」

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no new folk studio代表の菊川裕也さん。

「始まりから終わりまでを一人でやれるように」という串山・馬場研究室時代


大学は一橋大学商学部、エリートコースになじめないまま軽音楽部にばかり行っていたような学生だったという菊川さんは、音楽だけじゃ食べていけないということに気づく。「じゃあ、どういう形でやっていこうか」と。楽器を作れば、結局それは音楽を作ることになるということに徐々に考えを進めていく。そして首都大学東京に進み、馬場哲明准教授(当時は助教)の研究室で電子楽器の研究を始める。

串山・馬場研究室のポリシーは企画からプログラミング、電子工作、筐体もモデリングして提案し、最終的に論文にすることだ。当然プログラミングや電子工作の勉強も研究室に入ってから。最初はプログラミングにも苦労をしたという。ここで菊川さんは、同じ研究室のメンバー(金井隆晴さん、鈴木龍彦さん)と「PocoPoco」(ポコポコ)という電子楽器を作った。

PocoPoco。「押す」「つかむ」「回す」といったシンプルな操作で簡単に音楽を演奏することができるデバイス。

菊川さんたちは、このPocoPocoをGUGEN2013に応募。PocoPocoは見事、優秀賞を受賞した。

ビジネスとして、たくさんの人に楽器を届ける


しかし、そのままPocoPocoの製品化を目指すという方向にはいかなかった。もともと大量生産をイメージして設計していたわけではなかったため、だ。ビジネスとしてどれくらいの利益が出せるかというと、また別の話になる。そこに、大量生産の中で人に使ってもらうものを作るというこだわりがある。

「楽器は、作った人が使い方を決めているうちはまだ本当じゃないと思っている部分があります。ギターも言われたとおりの弾き方をしていたら面白くない。どこかにこすりつけてみたり、フィードバックさせてみたり、思いもよらない演奏がされることで初めて面白くなってくると思っているので、不特定多数の人たちの手に届けたいという強い願望があるんです」

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ただ、GUGEN2013をきっかけに起業を意識するようになった。このときGUGENの崔熙元さん、ABBALab代表の小笠原治さんなど、現在につながるキーパーソンに出会っている。

「音」と「動き」と「光」が一体となったときの体験の強さ


次の一歩として、菊川さんはヤマハのハッカソンイベント「Play-a-thon」に参加。ごく自然な流れだった。一人でできることはたかが知れている、ある部分のプロが集まる場で一緒に何かものづくりができるというのは、それだけでも価値があると考えたからだ。

そこでアイデアを提案し、形にした「LuminouStep」は、バスケットシューズ(オールスター)にLEDを巻きつけ、圧力センサを付けてある程度踏んだということを検知したらLEDを点灯し、同時に音を出すというもの。原理試作のレベルだが、「もの」としての体験は面白いものだった。音と動き、光が一体となったときに、音だけではない、視覚でも楽しめる「こと」が起こる。PocoPocoで直感した「アウトプットの有機的な組み合わせが起こす効果」を、靴を通して、踏む、歩く......などの行為に展開したのだ。

靴であることの必然性


靴であることから、フィードバックを付加する必要がないことも菊川さんにはポイントだった。菊川さんは、これまでの研究の中でも楽器には演奏者へのフィードバックが重要であると考えてきた。フィードバックがなければ自分の操作と起こる効果の関連がつかみにくい。たとえば、「ここを押すことでこの音が出る」ことが分からなければ再現できない。表現する道具として用いるのは難しいだろう。靴はそもそも、踏んだり、蹴ったりしたとき、自分の身体にフィードバックがある。あえてフィードバックを付加する必要がないのだ。また、もともとタップダンスやフラメンコでは靴を楽器として使うシーンがあり、それを拡張すると考えれば、音楽の歴史の中でもすごく自然なものと考えられる。

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手応えを感じた菊川さんはLuminouStepを持ち帰り、開発を続けた。同年3月末から留学していたバルセロナのポンペウファブラ大学music technology groupでも、そのまま開発を続け(バルセロナでは当初孤独な生活だったというが、その分研究に打ち込んでいたそう)、演奏ができるレベルにまでブラッシュアップ。そして、6月のMusic Hack Day Barcelonaに参加し、スペイン産業省賞、Sonar賞、XthSense賞の3賞を受賞した。しかし、このときはまだ、楽器として「このLuminouStepが面白いよ」という提示だった。これが、さらに発展することになる。

夏に帰国した菊川さんはABBALabの小笠原さんにLuminouStepでの起業をプレゼンする。演奏ができるようになったとはいえ、当時の試作レベルはまだまだという状態。小笠原さんはそれでも「やってみたら」と言ってくれたという。

起業、no new folk studioの誕生


2014年8月、GUGENのHiramekiハッカソンに参加。このときのモチベーションは「仲間を集める」ことだったという。ハッカソンでは予想以上に良いチームになり、LuminouStepをブラッシュアップするだけではなく、ネットにつないで光るパターンを共有するというアイデアが加わり、プロトタイプのアプリを開発した。

そして、菊川さん(当時博士課程在籍)、金井さん(修士課程卒業後就職していたが退職して参加)、Hiramekiハッカソンのときのメンバーも何人かジョインする形で起業。no new folk studioの誕生だ。

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既製の靴のソール部分を取り除いて靴を分解し、構造を調べていった。作りが見えてきた段階で靴職人と相談して、ソールは自分たちで、アッパーを自分たちのコンセプトに合わせて作ってもらうという形で開発を進めている。

開発はまだまだ試行錯誤中


Orpheに限らず、小さなスペースの中に実装したい機能を収めるというのは容易なことではない。約100個のLEDを個別制御するにはICを使う必要があるし、9軸センサ、マイコン、無線モジュール、バッテリとパーツの数も多い。加えてコストダウン、安全性......。実際、まだまだ試行錯誤中だ。

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フレームワークとして提案するOrphe


開発を続けるためにクラウドファンディングを行うことになったが、すでにLuminouStepという「光る靴」だけの提案ではない。システム、フレームワークとしての提案だ。名前も「Orphe」に。これは、ギリシア神話のオルフェウス(竪琴で人々を魅了する、音的な要素を持っている)から。Orpheシステムというものが広がっていって、靴だけではなくて照明、いろいろな動きを計測するもの、あらゆるものがOrpheになってもいいというような名前にしたかったからだ。

現在開発中のOrpheのI/O部分のデモを見せてもらった。Orpheの中に入っている9軸センサの値を取得、解析し、CGで描画している。

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Orpheからの情報をもとに描画するアプリ。

このように、ハブとして、入力と出力を仲介してくれるものとして、使いやすいI/Oのソフトを開発者向けに提供する予定だ。この動き(ゼスチャー)のデータを使って何をするかというのは、開発者が考える部分ということになる。例えば、ヘッドセットを作っている人がVRで歩いたらその中を歩いているようにする、あるいはヘルスケア分野など、さまざまに活用することが可能だ。「できるだけ精度が高くて遅延がないものをフレームワークとして用意するので、みんなで作りませんか」という提案なのだ。

もちろん、iOSやAndroidのアプリとして誰でも使えるものも準備している。また、音楽/マルチメディアに特化したビジュアルプログラミング言語の「Max」や「Pure Data」向けに、APIも公開する予定だ。

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Bluetooth LE でスマートフォン・タブレットと通信し、アプリで簡単に光の強さや色を設定できる。全体の色をぱっと変えたり、部分部分を塗り絵のように変えたりもできる。このアプリ、操作が非常に気持いい。このほか音響や音圧に合わせて光らせたり、メタデータ的に音楽情報を拾ってきて曲に合わせて光りを制御できるものなども考えているとのこと。

目標は作りたい文化に近づくこと


ここまで話を聞いて、すでに楽器という範ちゅうから大きくはみ出してきた印象がある。

「説明が難しいんですが、僕にとって楽器というのは、"楽器"という範ちゅうにおさまっている必要がないんです。思ってもみない使われ方をすることこそ楽器の本分と思っているので、もっと思ってもみない人に使われて、結果的にこんな楽器になったんだというような進化が見たいんです」

スポーツの分野で使わせてほしいという要望も実際にあるという。スポーツ分野における開発の過程で、動きを可視化するという方向性で精度の高いものができれば、誰かがまた楽器として使いたいとなったときに洗練された入力部分が使えるということになる。連鎖的にインターフェースの精度が上がっていって良いものになっていくというのが重要で、最終的に"作りたい文化"に近づくことができれば、どういう名前、概念で受け取られても、そこにこだわりはないという。

「作りたいのは、光と音とインタラクション、動きが自由に行き来できる世界。たとえばスマートハウスがあったとして、部屋の照明を消そうと思ってもすぐにはできない。何かアプリを立ち上げたりする必要がある。そのプロセスが要るということは、まだ変換がうまくいっていないということ。そもそも楽器は動き、ゼスチャーを音に変換するものなので、その精度が高まっていくほど自由に表現ができるようになると思っていたりするので、作りたい世界というのはそれです」

大量生産のビジネス展開を考えるときに、フレームワークというより単体のプロダクトのほうが訴求しやすいように思える。しかし、Orpheは単体のプロダクトであることを越え、ハブを目指している。そもそもアイデアやプロトタイプの変遷を聞くと、ターゲットと機能を絞っていってプロダクトを作るという従来の流れではない。これについて菊川さんは、スタートアップの場合どれだけ広げられるポテンシャルを持っているかという観点も求められるのではないかという。

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「僕たちはどち?