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高校サッカー心を揺さぶる物語。3年間、選手と共に戦った女子マネージャーは監督の娘(安藤隆人)

2014年01月13日 16時35分 JST | 更新 2014年03月14日 18時12分 JST

第92回全国高校サッカー選手権大会が12月30日開幕となりました。全国で本当にあった青春ストーリーを集めた『高校サッカー心を揺さぶる11の物語』(カンゼン、安藤隆人監修)から、女子マネージャーの奮闘を描く「監督の娘は、女子マネージャー」を一部にはなりますがご紹介します。

■お父さんの応援に。そこにいたお姉さん

毎年、正月になると、東京へ家族旅行に出かけていた。家族旅行なのに、行きも帰りもお父さんはいない。そりゃそうだよね、お父さんは名門高校サッカー部の監督。

行先は東京で開催されている全国高校サッカー選手権大会。お父さんが指揮を執る高校は毎年のように出場していて、幼いころから家族で応援に行くことが恒例となっていた。

 

私が小学生になると、土日は決まってお父さんのチームの練習や試合を観に行っていた。

必死でサッカーボールを追いかけるお兄さんたちの脇で、負けじと一生懸命働くお姉さんたちの姿があった。

「何をしているんだろう?」。私は幼心に思っていた。

「さっちゃん、私たちはね、選手のみんながサッカーに打ち込めるようにがんばっているんだよ」。お姉さんは、私にそう言ってくれた。

「私もやってみたい!」

その日から私もお姉さんたちの手伝いをし始めた。ボトルに水を入れたり、ボールを片付けたり......。それが楽しくて、楽しくて仕方がなかった。

「さっちゃん、ありがとう」

お兄さんたちが、お姉さんたちが、笑顔で言ってくれる。私はその笑顔が見たくて、夢中になって手伝っていた。 

そして、家では見せないような、厳しくも真剣なお父さんの姿があった。試合に勝つと喜び、試合に負けると悔しがる。私はお父さんのことがますます好きになった。いつしか、私の夢はお父さんの高校サッカー部のマネージャーになることになっていた。

■「3年間、お父さんのそばにいたい」

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そして、中3の夏休み、初めてその思いをお父さんに打ち明けた。

「私、サッカー部のマネージャーをやりたい!」。すると、お父さんは少し驚いた表情をした後、笑い始めた。

「何がおかしいの!?」。でも、すぐにわかった。その笑みは照れ隠しだと。

「本当にいいのか?」。お父さんは真剣な表情になっていた。

「うん。決めたから」

私がこう決断したのは、実はもう一つ理由がある。昔から、お父さんは家にいなかった。私たちが眠るころに帰ってきて、起きたころには練習に行ってもう家にはいない。お父さんのいない朝食と夕食が日常だった。

長期遠征で家を空けることも多くて、特に夏休みや春休みはほとんど家にいなかった。授業参観や運動会、文化祭もほとんど来てくれなかった。 

 

サッカー部の試合や練習では会えるけど、なんだか向こう岸にいる存在のように感じていた。だから、私は他の人よりお父さんとの思い出が少ない分、高校3年間はお父さんと濃い時間を過ごしたいと思った。中学3年になると、だんだんその気持ちが強くなって、自分の中で抑えきれなくなった。

「3年間、お父さんのそばにいたい」。恥ずかしいけれど、それが私の本心だった。

■監督の娘であることの難しさ

私はサッカー部のマネージャーになった。だけど、すごく大変な日々が私を待っていた。

サッカー部では、学年ごとに2人ずつの女子マネージャーがいることになっていたのに、私がマネージャーになってから1ヶ月後、一つ上の先輩が2人とも辞めてしまった。同学年には私1人しかいなかった。一番きつい夏の前に、3年生2人と私、たった3人のマネージャーになってしまった。

 

3年生のマネージャーとも、なかなかうまくいかなかった。先輩のサッカー部員の中には、昔から知っている人もいたから、私によく声をかけてくれた。そのことが3年生マネージャーにとっては、面白くなかったのだろう。

「1年生のくせに3年生部員と仲良くしちゃって......」。嫌味を言われることは、日常茶飯事だった。

 

先輩マネージャーの仕事ぶりも、気になっていた。

練習後の片付けはすべて私が1人でやっていた。その間3年生のマネージャーは部員たちとおしゃべり。私は毎日暗くなるまでグラウンドにいた。ずっと立ちっぱなしで、重い水を運んだりするから、身体が悲鳴を上げることもあった。ヘトヘトになって家に帰って、ご飯も食べずに寝ることもあった。

朝の練習でも、私は始まる1時間半前にグラウンドに行って準備をしていたけど、先輩マネージャーたちは練習開始に間に合わないこともあった。

部員たちは、全国大会を目指して必死に戦っているのに......。マネージャーが遅刻するような伝統は、絶対に作りたくないと強く思った。

■やりがいのあるマネージャーの仕事

私がマネージャーの仕事を楽しく感じるようになったのは、高校2年生から。後輩がマネージャーとして1人入ってきて、私にとって彼女はかわいい"妹"になった。彼女となら、辛いマネージャーの仕事もこなすことができた。

3年生になるとマネージャーの後輩が2人増えて、仕事を教えながら、うまく分担できるようになっていた。

 

それに私には力強い"仲間"がいた。同じ学年の部員たちだ。彼らは私をチームメイトとして受け入れてくれた。

「さっちゃん、今日もありがとうね。次の試合、絶対に勝つから」

笑顔で話しかけてくれる。グラウンドを離れても、いつも一緒にバカ話をしたり、将来の夢を語り合ったりしていた。お父さんには内緒だけど、恋愛の話も(笑)。

 

私は1年生のときから、みんなが載っている新聞や雑誌の記事を全部切り取って保管していた。3年生の夏ぐらいから進路を決めなきゃいけないとき、これまでの活動についての資料が必要になる。

事前に準備をしている部員なんていないから、この時期になると「どうしよ、どうしよ」って困る部員が多くて、そんなときにこの冊子を手渡すと、みんな大喜びしてくれる。サッカー部の先輩にも渡していたし、同級生にも渡してあげた。

いつしか私は、みんなの中で"お母さん"みたいな存在になっていたみたい。"お姉ちゃん"くらいが良かったんだけど、みんな子供だから仕方ないよね。みんなの笑顔を見ることが、私にとっての幸せになっていた。

 

そして、お父さんとも長い時間を一緒に過ごした。練習中や試合では厳しかったけど、合宿や遠征先での宿舎では、父と娘の関係に戻って親子の会話をたくさんすることができた。

■初戦敗退、止まらない涙

でも、そんな日々も終わりを告げるときがくる。最後の選手権。予選を突破して、本大会への出場を決めた私たちは、優勝候補と言われるほど注目されていた。だけど、結果は初戦敗退――。

試合終了間際、私はベンチで控えの仲間たちと肩を組んで、ピッチを見つめていた。

「みんな、大丈夫! 大丈夫! 絶対に勝てるよ!!」。必死で笑顔を作っていた。

 

試合終了を告げる笛が鳴った瞬間、私は泣いてしまった。すぐに涙を止めなきゃって思ったけど......、止まらなかった。「もっとみんなと一緒にいたかった」っていう気持ちが抑えきれなかった。

私には後悔していることがあった。夏のインターハイで敗退したときのことだ。私は負けたことがショックで、一生懸命戦ったみんなに、「次があるよ、みんながんばったよ」って言ってあげるまでに時間がかかった。選手を励ますのがマネージャーの務めなんだと、後悔していた。

だから、このときもすぐに言葉を掛けなきゃと思ったのに、涙が邪魔をして言葉が出ない。

「さっちゃん、3年間ありがとうね」

泣いている私に声をかけてくれたのは、キャプテンの貴博くんだった。私より選手のほうが悔しいはずなのに......。

試合後のロッカールーム。監督は、泣きじゃくる選手たちをじっと見つめ、静寂を破ってこう語りかけた。

「みんな、ここで終わりじゃない。人生の節目の一つなんだ。次のステージで精いっぱいがんばってくれ。これまでお前たちはいろんな人に支えられてきたんだから、感謝の気持ちは忘れずに生きていってほしい。ここでの経験は財産なんだから」

お父さんだってショックだし、本当は悔しいはず。マネージャーとして、娘として、ずっと一緒にいたから、お父さんの気持ちは手に取るようにわかった。やっぱりお父さんは素晴らしい監督だった。誰よりもみんなのことを愛し、懸命に指導してくれた。偉大なる存在なんだと、あらためて感じた。

■大好きなお父さんのエール

「さちこ!」

私の名前だ。ハッとして顔を上げると、そこにはお父さんが立っていた。

「3年間、よくがんばったな」と、握手を求めてきた。

私は、「もう少し、一緒にいたかった......」と口にした。

「これが運命だよ......。まあ、俺はまたこれからもがんばるさ。だから、お前も明日からまたがんばれ」

大好きなお父さんのエールは、私の心の奥まで響いた。また、涙が止まらなくなっていた。

 

宿舎に戻ると、私は部員一人ひとりの部屋に、「ありがとう」と声を掛けに回った。試合の後に泣いてしまったことを後悔していたし、どうしても全員に一人ずつ感謝の気持ちを伝えたかった。

自分の部屋に戻ってきて、ベッドの上に座っていたら、「さっちゃん、本当にありがとうね!!」。大声と共に、みんなが部屋に入ってきた。

私がびっくりしていると、みんなの手にはコンビニのケーキが。一切れずつケーキを選んでくれたらしく、ショートケーキやチーズケーキにモンブラン、それにチョコレートケーキ......、いろんなケーキが目の前に並んだ。

「こんなに食べたら太っちゃうよ!」。笑いながら言ったけど、心の中ではまた泣いていたよ。

「ここまで連れて来てくれて、みんなありがとう! 私、幸せだった」

そう言うと、みんなは一斉に笑顔をくれた。

卒業式の日にさらなるサプライズが!?

続きは『高校サッカー心を揺さぶる11の物語』にて紹介しています。

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(2014年1月12日「フットボールチャンネル」より転載)