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内田篤人が愛される理由(ダビド・ニーンハウス)

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クラブにとって内田とはどのような存在なのか。選手やスタッフ、ファンから愛される男が、ドイツで過ごす日々とは。シャルケ04でのこれまでをクラブ関係者の話をもとに紐解いていく。

■ コイツは上手にドイツ語を話せるんだぜ!」(ジョーンズ)

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内田篤人【写真:原田亮太】

強い日差しが注ごうが、氷のように冷たい雨が降ろうが、内田篤人の髪型はいつもキマっている。そう、彼の顔に浮かぶ微笑みのように。シャルケの小柄な日本人選手が、イヤな雰囲気を漂わせていることはまずない。そのムードが、チームメートをしびれさせるのだ。人気者の内田は、シャルケの誰とでもうまくやっていける。

シャルケで中盤の守備を司る「タフガイ」ジャーメイン・ジョーンズは、インタビューを受けている25歳のサイドバックを見つけると、腕に絡め取って、記者に笑みを向けた。「コイツは上手にドイツ語を話せるんだぜ! 言い訳なんか、許しちゃダメだ」。

「ウッシー」と呼ばれるルール地方の人気者は、首を振って同僚の発言を否定した。もちろん、ドイツ語が分かればこそ、である。

内田はもちろんドイツ語を理解できるが、ドイツ語だけで行われる会話は彼には難しすぎるものだ。ゲルゼンキルヒェンでの生活が3年目に入っても、それは変わらない。

「言葉を学ぶということに関して、彼は一番頑張っている中の一人だ」とのシャルケのスポーツディレクター(SD)、ホルスト・ヘルトのコメントがメディアに紹介されたことがある。内田は「話し合いでは強く意見を言う」し、「ユーモアも秀逸」とのことである。

■「ドラクスラーは、ずっと僕のことをからかい続けるんです」

 今季開幕前には、こんなシーンも目撃された。開幕前のクラブ公式イベントで、内田はW杯予選突破に対するサポーターからの拍手に応えようとした。数千人のファンの前でマイクを握ると、間に「ダンケ(ありがとう)」を挟みながら「ふざけんな」と2度も口にして、すぐにマイクを離してチームメートのティム・フーフラントの影に隠れた。

 このおかしな一幕に、同僚のセアド・コラシナツは「ふざけんな、だって!?」と笑いをこらえることができなかった。これに関しては、ジョエル・マティプが内田に吹き込んだとの噂が出回っている。だが、本当にマティプにかつがれたものなのか、あるいはそれを逆手にとった意図的なものなのか、Youtubeの動画を見ても、ファンはいまだ判別できずにいる。

 シャルケファンは、内田のこんなお茶目な一幕を、悪くとらえてなどいない。むしろ、その反対である。では、内田の"(ピッチ外での)守備"はどうなのだろうか?

「ロッカールームでは、ユリアン・ドラクスラーが隣に座っています」と話す内田は、こう付け加えることも忘れなかった。「ドラクスラーは、ずっと僕のことをからかい続けるんです」。稀有な才能を持つ攻撃的MFの前には、内田もたじたじなのかもしれない。

 ドイツ代表にも選ばれるドラクスラーは、チーム内で内田の一番の友人である。あるスポーツ雑誌によると、内田はパーティーが終わった後でさえもドラクスラーの家のソファに居座り続け、その様子は「学生寮のようだった」とされている。

■ 「クレイジーなヤツだぜ、ウチダ!」(ドラクスラー)

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内田は確かに自分の居場所を確保している【写真:原田亮太】

こうしたコミュニティの中で、ドイツ人のメンタリティに慣れることを学んでおり、ドラクスラーもこう語っている。「内田は親しみやすくて、皆を笑わせてくれるんだ」と、これまで会った中で最も礼儀正しいと人物評をしている。「彼と一緒だととても気分が良いし、僕らは本当に仲良くなったんだ」と、シャルケの攻撃陣の宝石はうれしそうに語る。

オーストリアでのキャンプでは、この2人のスターは同部屋となり、内田はまたもドラクスラーを笑わせることとなった。『内田は練習へ行き、戻っておりません』と書いた手紙が自分のベッドの上に置かれているのを見つけたドラクスラーは、すぐにこの様子を写真に収めて自身のフェイスブックのページに投稿した。

「僕のルームメイトのウッシーは、練習前に素晴らしいメッセージを残していってくれたから、どこにいるか分かるんだ。クレイジーなヤツだぜ、ウチダ!」。

ドイツでは、「アツトが来てから随分経つ」といった印象を受ける。だが、ヨーロッパにやって来た直後から、ウチダは新しい文化の中で自己を見いだすということを学ばなければならなかった。

ドイツにやって来た最初のシーズン中、「ルール地方をドライブするのが大好きなんです」と内田は語っている。ドイツのアウトバーン(高速道路)のスピードに対する恐怖は、とうに忘れた。当初は日本の米が恋しかったが、それも今では小さな問題にしか過ぎないのかもしれない。

内田には、もはやドイツに慣れるための時間などない。シャルケはチャンピオンズリーグでヨーロッパ中を旅しているし、日本代表選手としても歴史を築いていかねばならないのだ。その中で、内田は確かに自分の居場所を確保している。

■ 「僕らが疲れている時や弱っている時に、ファンが助けになります」

自分のチームの右サイドを思い描き、「ウッシーがジェフ(ジェフェルソン・ファルファン)と一緒に右サイドでプレーするのを見るのは楽しいね。いつもライン際で上下動を繰り返している」と、ドラクスラーは2人を称賛する。

実際に、ゴールを奪う責任を負っているのはファルファンの方ではあるが、内田もゴールを狙える場面はそれなりにやってくる。専門家の目には内田のゴールへの意識は物足りなく映っており、ゴールを奪うのは珍しいことだ。

チャンピオンズリーグのステアウア・ブカレスト戦での内田のゴールの後、「ウッシーの非常にクレバーなプレーだったね。ちらりと見やっただけで、あとはボールをファーサイドのコーナーに蹴り入れたんだ」と、ヘルトSDは顔をくしゃくしゃにして笑った。

クロスがゴールになった場面は、2013-14シーズンにもう一つあった。フランクフルト戦で送った鋭いクロスが、ヨハネス・フルムに当たってオウンゴールになったのだ。

こうして内田は、シャルケでカルト的な人気を得る選手への道を歩んでいる。かつてはイヴェス・アイゲンラウフという人気選手を呼ぶ声が「イーーーーヴィス」とスタジアムに響き渡ったものだが、今ではその声は「ウッシーーーーー」に変わっている。

ファンは「ウッシー」を愛しており、本人もこの環境を楽しんでいる。「シャルケのファンはとても情熱的で、パワフルです。素晴らしいですね」と25歳のライトバックはビデオインタビューで語っている。

「僕らが疲れている時や弱っている時に、ファンが助けになります。全力で後押ししてくれるから、おかげで僕らは前へと進むエネルギーを取り戻せるんです」

■「ファンを喜ばせて、笑みを浮かばせてあげたいんです」

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内田が感じる好循環がまさにシャルケの原動力となっている【写真:原田亮太】

ヨーロッパ最高峰の舞台でも、内田はチームとファンの期待に応えているし、本人も「ここでプレーすることを誇りに思う」と語っている。日本にいる時もチャンピオンズリーグのことをテレビや雑誌でチェックしていたようで、「ファンを喜ばせて、笑みを浮かばせてあげたいんです」と言っていた。

そういう感覚が僕ら他の選手の背中選手を後押しし、その姿にファンが触発される。「ファンと選手が一丸となっていることが感じられます。そういう一体感がとても好きなんです」と、内田が感じる好循環がまさにシャルケの原動力となっている。

そうした一体感が一際強くなるのが、ルール地方のライバルであるドルトムントとのダービーだ。「この地域でのサッカーの重要性を感じます」と、内田がインタビューの際に語ってくれたことがある。

「ファンは誠実で、常に情熱にあふれています」というのが、この地域への印象だ。それだけに、ドルトムントとのライバル関係には敏感に感じるものがある。「相手のチームがどこであっても、ファンはいつも『ドルトムントのくそったれ!』と歌っています」と内田は笑う。

ドイツに来て最初に習ったことは、黄色い服は着てはいけないということ。もちろんドルトムントのチームカラーであるからだが、そんなことはシャルケの一員としてとっくに重々承知している。

■「シャルケにはできるだけ長くいたいと思います」

だが、そのルール・ダービーを内田がもう楽しめない可能性もあったのだ。今季開幕前には、アーセナルが内田に興味を持っていると言われていた。他方からは、シャルケが内田とのトレードでルーカス・ポドルスキをゲルゼンキルヒェンに連れて来たがっているという話も聞こえてきた。

実際にクラブ間の話し合いまで進んだかは定かではないが、ガナーズは700万ユーロをテーブルの上に置く用意があったと報じられた。この移籍とトレードの両方ともに成立することはなく、今もシャルケで背番号22のユニフォームに身を包んでいるが、内田は再び海を渡る自分を容易に想像することができると話す。

「2015年を過ぎてもシャルケが僕にいて欲しいと思ってくれるなら、喜んでここに残ります。でも、もしシャルケがもう必要とはしていないよと言うなら、イングランドに行くことも想像できます」

だが、こう言って内田は微笑むのだ。

「シャルケにはできるだけ長くいたいと思います。僕はこのクラブが好きなんです」

仲間たちとの相思相愛の関係が終わりを迎える日がやって来るなど、今はまだまったく想像することができない。

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(2014年フットボールチャンネル「ドイツ人記者が探る、内田篤人がシャルケで愛される理由」より転載)

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