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フォルランがセレッソに与えるいい刺激。山口蛍「簡単にポジション渡さない」

2014年02月02日 16時07分 JST | 更新 2014年04月03日 18時12分 JST

日本のサッカーファンが衝撃を受けたディエゴ・フォルランのセレッソ加入。選手たちはどう思っているのだろうか。練習場で生の声を聞いた。スター選手のJ参戦をポジティブにとらえつつも、いい刺激を受けているようだ。

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■"W杯MVP"J加入という衝撃

その日、日本のサッカーファンはとある男の話題で持ちきりだった。

日本時間23日早朝、ウルグアイ代表FWのディエゴ・フォルランが自身のTwitter上でセレッソ大阪に加入する意向を発表したのだ。フォルランは移籍の第一報を自動翻訳した日本語でツイートし、その呟きはまたたく間に拡散。

多くのサッカーファンは衝撃のニュースで目覚めを迎えることになった。セレッソ大阪からの公式発表こそないが、クラブスタッフはすでに事実関係を認めている。まもなく来日する予定で、早ければ来週にもトレーニングに合流するという。

これは夢ではない。2010年、南アフリカの地で八面六臂の活躍を見せた男が、まもなく日本に上陸し、私たちのJリーグで戦うのだ。

叶わぬ恋に思えた。何せ、あのフォルランである。W杯という世界最高のイベントを半年後に控え、遠く離れた日本でプレーするのは、決してリスクが低い選択肢ではない。地球の裏側で暮らす家族にとっても、原発事故が完全に収束したとは言えない環境に最愛の人を送る決断は、簡単なものではなかったはずである。

しかし、恋は成就したのだ。セレッソ大阪サポーターは歓喜し、他クラブのサポーターもフォルランの加入を好意的ないしは興奮気味に受け止めていた。まさに、日本のサッカーファンがフォルランに"湧いた"1日であった。では、セレッソ大阪の選手たちはフォルランの加入に何を感じたのだろうか?

電撃移籍が発表された数時間後、セレッソ大阪のトレーニンググラウンドで選手たちに直撃した。

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■南野「自分のプラスに変えていきたい」

冷たい冬風が吹きつけるお昼前、舞洲ヤンマーグラウンドには100人余りのファンが桜の戦士たちを出迎えていた。もちろん、その8割近い観客が若い女性であったことは言うまでもない。

基礎練習と体力づくり中心のトレーニングを終えた選手たちは、ファンサービスを終えてクラブハウスへと帰ってくる。グラウンドからクラブハウスまでのおよそ100m弱の沿道は、選手とサポーターが心を通わす神聖な空間なのだ。

まずクラブハウスに到着したのは、昨シーズンのベストヤングプレーヤー賞に輝いた南野拓実だった。年始にはU-19日本代表としてベトナム遠征にも帯同し、世界を相手に才能を発揮した。

南野はフォルランについて「世界レベルの選手」と評価した上で、「一緒にプレーして感じるものは必ずあると思う。自分のプラスに変えていきたい。自分もチームの一員として結果を残せるように頑張っていかないと」と話してくれた。南野は記者からの質問にもいつもしっかりと目を見つめて答え、およそ19歳とは思えないような堂々とした受け答えを見せる。

そんな南野だが、フォルランのイメージを尋ねられると、「W杯(2010年)や日本戦(昨年8月)を見ても巧い。けれど、一緒にプレーするなんて全く思っていなかったから、それくらいのイメージしかない」と少々現実に戸惑い気味で、「ほんまに来るんかなぁと思っていた。まだ実感がない」とも漏らしていた。

■扇原「まさかフォルランとチームメイトに...」

ちなみに、フォルランの加入が決まった朝はチームの中でも話題になっていたようで、最も白熱した内容は「彼をロッカールームのどこに座らせるか」だったとのこと。現在は昨シーズン在籍したブラジル人選手の席が空いているらしい。

南野はさらに「フォルランだけではないけれど、このチームには自分にとってお手本になる選手がたくさんいて、すごく幸せな環境でやれている」と、自分の置かれた環境が恵まれていることを強調した。

次にやって来たのは、昨年フル代表デビューも果たした扇原貴宏である。いつもは囁くように静かに話す扇原も、フォルランの加入には流石に驚いたようで、「まさかフォルランとチームメイトになる日が来るとは思わなかった」と笑みを浮かべて語りだす。

「心強い選手が来てくれた。セレッソというチームの期待も高まると思うし、タイトルを目指してプレーしている以上、なおさらタイトルを獲らないと。素晴らしい選手が来たことで、Jリーグ全体も盛り上がる。すごくいい効果」と続けている。

また、「どのような人間なのかにも興味がある。世界のトップレベルで活躍していた選手がどのような人間で、練習からどうプレーするのか。見習うことはたくさんある」とも話していたことは興味深かった。

ちなみに、セレッソ大阪の練習では、最後に選手たちがリフティングゲームを行うことが恒例となっている。そのゲームにフォルランを誘えそうかを問われると、しばらくその姿を想像し、「誘えないっす」とはにかんだ。やはり、世界的スターの到来を心待ちにしているようだった。

■山口「セレッソになかったフリーキッカーという役割も」

コーチたちが私服に着替えてクラブハウスを後にする頃、ファンサービスの列は残る選手は2人だけになっていた。そのうちの1人が山口蛍だ。髪の毛をブロンズ色にした山口は、今シーズンから登録名を「螢」から「蛍」へと変更している。

山口といえば、海外サッカーに精通していることでも知られている。香川真司が出場したUEFAチャンピオンズリーグも、深夜に起床して観戦していた。山口はフォルランについて「何でも出来る選手。右足も左足も使えるし、これまでのセレッソになかったフリーキッカーという役割もこなすことできる。得点源としてかなり期待はできる」とそのイメージを語った。

「セレッソは個人のレベルが高い。スター選手が加入するからといってみんながやすやすポジションを渡すわけではないから、みんなさらに頑張ると思う。チームの競争も高くなって、個々のレベルも高まっていけば」とも話しており、チームにとってもほどよい刺激となっているようだ。

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■柿谷「ピリピリしてるねんこっちは」

最後にクラブハウスへと帰ってきたのは、やはり昨年大ブレイクを果たした背番号8、柿谷曜一朗だった。柿谷は昨シーズン、J1で21得点を記録し東アジアカップでフル代表デビューを果たすと、欧州遠征でも活躍。世間的にも大きく認知される1年となった。

そんな柿谷は、右手にプレゼントの袋をいっぱいにして記者の前へと現れた。練習が終わってからはおよそ1時間が経過している。その間、柿谷は爽やかにファンとの交流を楽しんでいた。

柿谷のコメントは、これまでの選手のものとはいささか雰囲気が異なっていた。「(フォルランとは)ポジションが被っている。ベンチや」と冗談めかしくその緊張感を口にし、「今からしっかりアピールしなければならない。ピリピリしてるねんこっちは」と付け加えた。

また、フォルランの加入に対する率直な感想を求めると、「あのような世界でプレーしていた選手とプレーできるのは全員にとっていいこと」としながらも、「同じチームになる以上は試合に出ないと」とやはり危機感を強調。「自分とフォルランが出るなんて決まっていない。新しい監督なのでみんな頑張るだけ」と締めくくった。

ちなみにこの柿谷、ファンから受け取ったプレゼントはクラブスタッフなどには渡さず全て1人でクラブハウスへと持ち帰るらしい。歩く度にプレゼントの袋と袋がこすれる音が鳴り響くのを見て、こういった細かな気遣いができるのも、彼が人気である理由なのだと感じた。

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■フォルランがもたらすもの

さて、まもなくフォルランがやって来る。

フォルランは2010年W杯でMVPを獲得し、大会最多タイとなる5得点を記録した正真正銘のストライカーだ。あのリーガ・エスパニョーラでも2度の得点王に輝いており、08-09シーズンにはラスト5試合で9得点を記録するなど、終盤の固め取りは圧巻であった。

フォルランがもたらすものは間違いなく大きいだろう。山口が指摘した通り、フォルランの魅力は両足から繰り出されるパンチ力と、距離を問わないそのシュートレンジだ。

今シーズン、ギラヴァンツ北九州から加入したGKの武田博行も、昨シーズンのヴィッセル神戸戦で自身がポポに喫した直接FKを例にあげ、傑出した外国人選手の存在がGKにとっても成長の一助になると話している。

セレッソ大阪の選手だけではなく、対戦相手にとっても学ぶものは少なくない。昨年、多くの新規ファンを獲得したセレッソ大阪。そんなクラブがフォルランを獲得した背景には、きっと「このムーブメントを一過性のものにしない」という意味合いもあったことだろう。これまで、ガンバ大阪というライバルチームの後塵を拝すことが多かったセレッソ大阪は、次のレベルへと進もうとしている。

そしてそれは、Jリーグも同じであるべきだ。

今年はW杯イヤーである。国民のサッカー熱は次第に大きくなり、Jリーグへいかに動員するかが注目されている。2ステージ制という変革期を直前に控え、Jリーグはこれ以上ない援軍を手に入れたのだ。

世界中にJリーグを発信していくべきであり、Jリーグの価値を訴求する千載一遇のチャンスである。まだまだ課題の多いJリーグのPR力が試されそうだ。

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(2014年1月26日、「フットボールチャンネル」より転載)