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浦和レッズへの無観客試合処分は妥当か?英国人が見た「JAPANESE ONLY」と日本における差別意識(海老沢純一)

2014年03月21日 23時01分 JST | 更新 2014年05月21日 18時12分 JST

来日30年。マイケル・プラストウ氏は、日本サッカーの黎明期から見つめ続けている英国人ジャーナリストだ。人種差別の問題や、J3創設、2ステージ制、秋春制以降問題などJリーグは新たな転換期を迎えている。プラストウ氏は、そんな日本サッカーの現状をグローバルな視点から語ってくれた。第1回は、浦和レッズが、サポーターの差別的横断幕によって無観客試合という処分を下された事件について。

■問題は対応の鈍さ

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マイケル・プラストウ氏

――浦和レッズに対する無観客試合の処分は妥当だと思いますか?

「妥当だと思います。Jリーグはそれくらいのことをしなければならなかった。FIFAが人種差別に対して厳しい姿勢を取っているので、Jリーグも同じような姿勢を取らなければならなかったでしょう。そうしなければ、FIFAがJリーグに対して何かするかもしれませんでした。

 そして、それとは別にグローバルな流れで皆が意識する必要があるでしょう。このような事件と厳しい罰は、日本社会のためになることでもあります」

――サポーターの問題行動の責任はレッズにあると思いますか?

「レッズにとっては不運だったと思います。他のクラブで起こっても対応出来たかは分かりません。出来たかもしれないし出来なかったかもしれない。レッズは出来なかった。

 レッズはクラブとして、間違いなく"人を差別する"ということをしたく無いし、そういうクラブではない。そういうクラブは世界中を見渡してもありません。

 ただ、問題が発生したときの対応の鈍さ、鈍感さは問題だった。レッズ側から見ると、自分たちが横断幕を出したわけではないので、非常に厳しいと見えるかもしれない。

 金がかかるし、多くの人々に迷惑をかけている。レッズの評判とJリーグの評判がかなり悪くなったとも思います」

■「イングランドだったら、サポーターが互いに注意する」

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【写真:Kazhito Yamada / Kaz Photography】

――レッズの対応にはどのような問題があると思いますか? また、改善するためにはどう取り組んでいけばよいと思いますか?

「今回大きな問題となったのが『縦の組織』。現場の人が決断することが出来なかった。それはなぜでしょうか。多分、今の時代だったら警備員本人がすぐ降ろせたはずです。降ろす前に、上に報告する必要も無かったと思います。

 そこは警備員自身の意識の問題もあったと思いますが、それとは別に下の人が決断出来るか出来ないか。出来なければ機能しません。現場で即決できる必要があります。それが出来なければセキュリティーとは言えないでしょう。

 サッカーは3万人から4万人が入るスタジアムです。その場で決断出来れば良かったですね。仮に間違いだったら、あとで判断すればいい。『その横断幕を出しても良いですよ』とね。それには大した害がないはずです。逆に決断しないと、大きな害となる可能性があります。

 ですから、組織の部分が課題じゃないでしょうか。日本は縦社会。下の人が上の人の意見を待つ風習がある。

 もう一つは、他のサポーターの意識も高めることです。イングランドだったら、サポーターが互いに注意するでしょう。

 私は普段プレス席に座っているから、皆がどういう行動を取っているのか、何を言っているのか詳しくは分かりませんが、相手を注意する勇気は必要ですね。

 ただ、かなり勇気が必要な場合もありますね。このようなことをする人は、ちょっと怖い人かもしれません。いろんな面で。でも、サポーターの皆さんにその勇気を持って欲しいですね」

■「協力する方がいい、相手を受け入れる方がいい」

――「JAPANESE ONLY」は、どんな受け止められ方をしますか?

「間違いなく差別です。『人種差別』かは微妙ですが、文化的か、国籍がどこか、その広い範囲の中では差別的な行動ということは間違いない。日本人が外国へ行って同じ光景を見れば、日本人を特定しなくても同じように嫌な気持ちになるはずです。

 そういうことを許さない社会になった方が皆のためになる。人間は深いところで、内側と外側に分けたがる。どんな国でも、いろんな面で差別することがあります。

 でも、近代的な流れでは、隣の村同士の虐殺もなくなったし、いい町になって、いい国になって、つながりが非常に深くなりました。つながりの範囲が非常に広くなりました。外がどんどん小さくなっています。

 その過程で皆のためになったのではないでしょうか。協力する方がいい、相手を受け入れる方がいい。そういう行動を出来る社会の方が、かなり幸せだと思いますよ」

――なぜ、サッカーのスタジアムでこのような事件が起こるのでしょうか?

「サッカーの場合、非常に本能的なサポートが多い。族みたいになることがありますね。それによって、内と外の分け方が非常に酷になってしまいます。

 本能を抑えることが出来るからこそ、社会は成り立つ。サッカーのいい面は、皆のアイデンティティや絆を強くする面です。でも、あくまでもいい形で、絆でつながっていかなければ逆効果になる。社会のためにならない。

 特に、Jリーグが立ち上がった頃は、スポーツ文化や、もっといい社会を作るためという面で、皆が真剣に取り組んでいたと思います。でも、その材料は人間ですから、もちろん皆の考え方にはズレもあります。

ある段階で、何の行動を受け入れるか、何のルールがあるのかをはっきりしなければならないことは当然だと思います」

■「意識していなかったからこそ、まだ差別の問題がある」

――このような問題は、イングランドを含めて世界的にも起こり得るでしょうか?

「差別は日本だけに限ったことではありません。他の国でも同様。たとえば、40年前のイングランドではレッズと同じ対応だったと思う。『これはいけないんじゃないかなぁ~、でもどう対応するか分からない』というような感じだったと思います。70年代の終わり頃はそんな感じでしょう。

 70年代の初めの頃だったら、問題にもならなかったと思う。日本も何年前かは分からないけど、問題にならなかった時代があると思いますよ」

――実社会においても、差別的な空気を感じたことはありますか?

「現在ではJリーグは、日本のスポーツの中でもかなり新進的だと思います。大相撲やプロ野球でも外国人に対して、いろんな課題が出ていますね。

 でも、現実はどんどん日本人が快く外国人を受け入れていると感じます。個人的なところでは差別は少ない。ただ、組織的なレベルでは、まだ結構あると感じますね。"外国籍だから外の扱い"という雰囲気は少なからずありますよ。

 外部からのアドバイザーや専門家、労働者として使うことはありながら、組織の中で昇進したり、基本的な組織を作る分野にはまだ少ないと思います」

――今回この事件を起こしたサポーターに差別の意識はあったのでしょうか?

「意識していたかというより、意識していなかったからこそ、まだ差別の問題があると思いたいですね。意識していたら誰もしないでしょうから。誰でも悪質なことをしようとする訳ないですからね。もっと意識する必要があることの証明です。

 この事件があったからこそ、みんな非常に敏感になると思う。Jリーグのクラブだけではなく、スポーツ界全体、日本の社会に波が広がると思う。これは、日本の社会にとって良いことだと思います。

 もちろん、イングランドだったら時々こういう刺激があった方がいいですね。皆が完璧に人間になれるものではないし、少し災害が繰り返すと多くの人が準備するのと同じように、こういう危機がないと進歩も無いでしょうね。でもレッズは可哀想でしたね」

■「この事件を読んだ人には、これしか頭に残らない」

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【写真:松岡健三郎】

――浦和レッズは、これまでもサポーターが問題を起こすことがありました。なぜこのように多くの問題が起こるのでしょうか?

「レッズのようなクラブに起こるのは、確率として高い。レッズの行動ではなく、人気があり、お客さんがたくさん集まるから。その中にはいろんな考え方を持った人がいるのは当然です。

 仮にJ3のチームだったら、誰も気付かなかったかもしれない。レッズがサッカーを色々な意味で最先端を走っているからこそ、皆のための犠牲になるようなことも時々起こると思います。

 ただ、こういうサポーターは来ない方がクラブのため。『そんなサポーターはいらない』と、はっきり言えた方がいいですね。興奮している人が集まると問題が起こる。それは避けられない部分があります。

 でも、繰り返すことは無いと思いますよ。違う形の問題が出たら、また教訓にしなければならないでしょうけど。でも、今回は皆の意識に残る教訓になったと思います」

――この事件によって、海外諸国が日本に悪い印象を持つ可能性はあるでしょうか?

「これは、日本が悪いか良いかという話ではないと思います。でも、日本に都合の悪い話ではありますね。事件の記事を新聞で読んだ人は世界的に多勢いると思います。

 これまでの20年間、ほとんどの試合で何の問題もなかったことについての記事は一人も読んでいないでしょう。そして、この事件を読んだ人には、これしか頭に残らないし、これは日本に常にあることだと思い込んだ恐れがあります。

 日本が差別国として評判が広がる可能性もあります。隣同士の国だったら、例えばイギリスとフランスだったらこういう事件があっても、大した問題にはならないでしょう。イギリス人は常にフランスへ行っているし、フランス人は常にイギリスに来ている。個人レベルで数多く行き来しているので、他の記憶が沢山ありますからね。

 日本は、昔よりは馴染みがありますが、ヨーロッパから遠い国ですから、この情報しかないかもしれません。まあ、"しかない"というのは大げさですが。

 でも、わずかな情報しかない中で、こういう情報は日本にとって、非常に都合が悪い。そのことについても、日本は非常に厳しく対応しなければならないでしょうね。特に、韓国と中国に対しては都合の悪い事件でしょう。向こうに何人かの人々がわざと操作するかもしれないし、写真を悪いように使うかもしれない。

 日本のイメージダウンは避けられないでしょうね。悪い面を見せると、その面しかと思われることが困りますね」

■「今回の件は、昔だったら当然で普通の考え方だったかもしれない」

――この事件を教訓にして、日本はどのようなリアクションを取るべきでしょうか?

「差別には陰湿な面がある。相手を人間以下扱いしていることがあります。今回の件は、昔だったら当然で普通の考え方だったかもしれない。

 しかし、社会は常に変わるもの。今いけないものは絶対にいけないと、はっきり言わなければならない。逆戻りの時期があるかもしれない。しかし、流れの中で他の人のことを感じたり、尊敬したり、認めたり、受け入れたりする傾向が世界的なこと。

 日本は民主主義国家で、戦争も最近はやっていないし、治安もいい。10才の子供を処刑しているようなことも無い。日本は間違いなく、かなり進んでいる方。でも、それでもまだまだ進歩する必要があるでしょう。どの国もそうです」

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プロフィール

マイケル・プラストウ

1959年、英国ウェスト・サセックス州のクロウリー出身。1980年の来日以来、30年以上日本サッカーを見守っている。1991年からはイギリスのサッカー専門誌「World Soccer」の駐日記者として、日本代表、Jリーグを取材。日本サッカーの魅力世界に発信している。また、NHK国際局などで、放送原稿の執筆、翻訳業務を担当。群馬大学、日本大学の講師も歴任。著書に「FOOTBALL ENGLISH―サッカーを愛するあなたに捧げる用語と写真」ほか多数。

(2014年3月22日「フットボールチャンネル」より転載)