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30年ぶりの「衆参同日選」論に「2つのシナリオ」

2015年12月06日 02時29分 JST | 更新 2016年12月03日 19時12分 JST

衆参同日選説がにわかに飛び交い始めた。

来年7月に予定される参院選に合わせて衆院を解散し、同日で投開票をしてしまおうというものだ。「7月10日投票」という日程まで、ひとり歩きしている。

自民党の佐藤勉国対委員長は11月28日の講演で「来年、ダブル選があるかもしれない」と発言。翌日、谷垣禎一幹事長も「いろいろな可能性はある」と含みを持たせた。

誰ひとり「やる」と断言してはいない。ただ、衆院解散は首相の専権事項。党幹部といえども、話題にすることはタブーだ。それだけに谷垣氏らの発言は、永田町にさざ波を立てるに十分な効果を与えている。過去同日選は1980、86年に2回行われ、いずれも自民党が勝っている。もし来年、同日選になれば30年ぶりとなる。

鉄則は「早期解散」

実は同日選論には、2種類ある。どちらも「7月10日」を念頭に置いているのだが、そこに至る政策決定の道筋や想定する争点が違う。

1つ目のシナリオは消費税率が2017年4月に10%に上がるのを前提とした話だ。税率を上げると、景気にも悪影響が及び、政府・与党の支持は下がる。さらに同年6月には東京都議選がある。前回2013年の都議選は、自民、公明の両党は全候補者が当選する完勝だっただけに、次回は議席を減らすのは覚悟しなければならない。

消費税アップ、景気後退、支持率減、都議選敗北......という負のスパイラルに巻き込まれると、解散を打つタイミングを失ってしまいかねない。

過去の選挙データを調べると分かるが、任期満了に近づいた衆院選は、与党が苦戦することが多い。

最近では、解散のタイミングを見失った麻生太郎首相のもとで2009年に行われた任期満了に近い衆院選で、自民党が大惨敗、下野したことが記憶に新しい。

「解散を能動的に打てるタイミングで早めに打つ」というのが長い間政権を維持してきた自民党の鉄則。それに沿えば、来年の同日選は、魅力的な日程なのだ。

この「消費税増税前に」という発想の同日選論は、実は今春ごろから自民党執行部や選対関係者の間で極秘に温められてきたシナリオだ。

昨年の成功体験 

そして、ここに来て「もう1つ」の同日選案が浮上している。

経済情勢は、7~9月の国内総生産(GDP)が前期に続いて連続マイナス成長となるなど芳しくない。今のままで消費税率を上げると景気が極端に落ち込むと心配する声が上がり、17年4月の税率アップを先送りすべきだという意見が、日増しに強くなっている。その場合、税率アップ先送りを争点に国民の信を問う。

これが「もう1つ」の同日選案だ。

消費税率はもともと、今年10月に10%に上がるはずだった。それを1年半先送りすることを争点に行われたのが昨年暮れの衆院選だ。1年前に圧勝した成功体験からも「増税先送り」の選挙は戦いやすいという判断もある。

このように消費税を予定通り上げることを前提に、その前に解散を打つという考えと、消費税を上げるのを再延期するために解散を打つという考えが、混然一体となって同日選風が吹いているのだ。

来夏の同日選となると、前回の衆院選以来、わずか1年半たらずでの選挙となる。選挙基盤、財政基盤の弱い若手議員らは、早い選挙を嫌がるかもしれない。しかし、昨年の衆院選も任期半ばで行われた。2005年の郵政選挙も、前の選挙から2年に満たないで行われている。1980年の同日選に至っては前回衆院選からわずか9カ月後。来夏の衆院選は決して「早すぎる」わけではない。

与党有利とは限らず

ただ、過去2回の同日選で勝ったからといって3回も勝てるとは限らない。この30年の間に、政治情勢は大きく変わった。80年代、自民党は曲がりなりにも「国民政党」と評価されており、投票率が上がれば議席を増やす政党だった。

同日選は、有権者の関心が高まり投票率が上がると言われる。過去2回は、当時としても高い70%以上の投票率で、そのおかげで自民党は得票を伸ばした。

ところが今は、後援会組織に守られた戦いが中心で、低投票率になれば勝つ政党になっている。創価学会票という強固な組織票に支えられる公明党と連立を組むようになってから、その傾向は一層顕著となっている。今、同日選となれば、自民、公明党にとってむしろ不利となるかもしれない。

そもそも公明党には、創価学会の負担が大きい同日選への拒否反応がある。公明党の山口那津男代表は、12月3日の会見で「公明党としては以前からダブル(同日選)は望ましくないと言ってきた」と不快感をあらわにした。

そして忘れてはならないことがある。もし同日選となった場合、その正当性が問われる選挙となるのだ。昨年の衆院選の1票の格差は2倍を超えており、最高裁からは違憲状態との判断を突きつけられている。

今、有識者でつくる衆院選挙制度調査会が、不平等改正のための改革案をつくっているが、法改正、選挙区割りの画定、周知期間を考えると、どんなに急いでも来夏に間に合わない。「違憲状態」のままの選挙となれば、その強引な手法に非難の声も上がるだろう。

「勝利の方程式」のはずの同日選が、結果として逆の結果となりかねない。30年前も今も、同日選は危険な賭けであることは変わらないのだ。

野々山英一
ジャーナリスト

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(2015年12月4日新潮社フォーサイトより転載)