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中国が台湾の「AIIB参加」を拒んだ理由

2015年04月16日 16時31分 JST | 更新 2015年06月15日 18時12分 JST
SAM YEH via Getty Images
Parliament speaker Wang Jin-pyng (4th R) speaks after a meeting with Premier Mao Chi-kuo (5th R), main opposition Democratic Progressive Party (3rd R) party Ker Chien-ming (R) and other party representatives and government officials pose in Taipei on April 1, 2015. Taipei on March 31 issued a letter of intent to join the Beijing-led Asian Infrastructure Bank (AIIB), a Beijing initiative seen as a counterweight to the Washington-backed World Bank and the Japanese-led Asian Development Bank (ADB). AFP PHOTO / Sam Yeh (Photo credit should read SAM YEH/AFP/Getty Images)

中国政府は4月13日、台湾のアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加を当面認めないとの判断を下した。これで台湾はいわゆる「創始国メンバー」に入れないことが確定した。中国政府にこの件を決定する「権限」があるのかどうかにも疑問が残らないではないが、もともと中国側は台湾の参加を拒否しない意向を示しており、台湾もだからこそ参加を申請した。しかし、中国が極めて重視する「1つの中国」に関わる台湾の名称問題が絡むため、AIIBだけの問題でなくなり、とりあえず参加を拒否せざるを得なくなったと見られる。

中国側は、「台湾が適切な名称で参加することを歓迎する」と表明しているように、台湾の参加自体を拒んだわけではない。しかし、台湾問題においては常に「適切な名称」のあり方がトラブルの種になってきた。日本でも昨年、「國立」を故宮展の名前に付けるかどうかをめぐり、台湾側の抗議で展覧会の延期寸前までこじれた事態につながったことは記憶に新しい。

「台北故宮の日本展で浮上した『國立』という名称問題」2013年10月26日
「『國立問題』その後:台湾総統夫人の仕切り直し訪日の意味」2014年8月3日

国民党の苦しい事情

中国側は「名称問題に関する台湾側の見解について注目している。今後も各方面の意見を聞きながら、台湾の参加問題については妥当な解決を見つけたい」と述べている。

ここで言われた「見解」とは、台湾の馬英九政権が「中華台北(チャイニーズ・タイペイ)」を使用することを「ギリギリの許容できる線」と最近表明したことを意味していると思われる。

中国は「1つの中国」の原則のもと、国際機関などに対して、台湾が国名である「中華民国」を使って参加することは厳格に認めない。一方、台湾は自らが「中華民国」という主権国家であるという立場を崩していない。ただ、名称において「国扱い」よりワンランク落とした形は現実的に許容してきた。

例えば、五輪などの国際スポーツ大会ではこの「中華台北(チャイニーズ・タイペイ)」が使われている。アジア太平洋経済協力(APEC)も同様に「中華台北」でメンバーに入っている。一方、世界貿易機関(WTO)については、台湾の地名を取った「台湾、澎湖、金門、馬祖個別関税領域」という奇妙な名称になっている。

そして、今回のケースでおそらく参考にされるのは、AIIBのライバルでもあるアジア開発銀行(ADB)におけるその名称の扱いである。

ADBにおいて、台湾の名称は英語表記で「Taipei,China」、漢字では「中国台北」と訳される。これは、1986年に中国がADBに加盟した際、ADB当局の判断でそれまでの「中華民国」から変更された経緯で生まれた。当時、台湾側は抗議したが、聞き入れられず、今日までこの名称が使われているが、台湾側は基本的に不満を抱いている。なぜなら「中国台北」はあたかも台湾が中国の一部であるかのような印象を与えるからだ。

一方、「中華台北」は中華民国の名称も一部入っており、中国側との区別がされている語感があり、台湾にとっては受け入れられるものだ。今日、台湾では中国との距離感をしっかり取らないと、ヒマワリ学生運動のように、有権者の反感を買ってしまうことになる。2016年1月の総統選挙を控えるなか、AIIBへの参加は国民党にとって対中関係改善の成果としてアピールできるものなので、進めたいのは山々だ。しかし、台湾の主権が損なわれていると野党の民進党や世論から批判される「中国台北」などの名称を受け入れることもできない。

交渉カードに!?

そんな事情から、馬政権は先手をうって「中華台北」の実現を強く求めることに傾いたため、中国側も驚いて待ったをかけたのだろう。中国が自らの庭で作り上げたAIIBで、ADBの「中国台北」よりも台湾にとって有利な「中華台北」をすんなり認めるとは思えない。

あるいは、うがった見方かもしれないが、関係は良好だが選挙情勢で劣勢にある国民党に恩を売るより、中国との対決姿勢を示すと予想される民進党政権の誕生に備えて、台湾に中国の「善意」を示すための交渉カードとしてAIIBの参加問題を利用することを考えたのかもしれない。AIIBの発足は年内とされているが、少なくとも来年の台湾総統選挙に決着がつくまで、この問題はたなざらしされるのではないだろうか。

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野嶋剛

1968年生れ。上智大学新聞学科卒。大学在学中に香港中文大学に留学。92年朝日新聞社入社後、佐賀支局、中国・アモイ大学留学、西部社会部を経て、2001年シンガポール支局長。その後、イラク戦争の従軍取材を経験し、07年台北支局長、国際編集部次長。現在はアエラ編集部。著書に「イラク戦争従記」(朝日新聞社)、「ふたつの故宮博物院」(新潮選書)、「謎の名画・清明上河図」(勉誠出版)、「銀輪の巨人ジャイアント」(東洋経済新報社)。

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(2014年4月16日フォーサイトより転載)