「甘利」「宮崎」スキャンダル発覚でも「反転攻勢」が遠い野党の内情

大手マスメディアの世論調査を見ると、安倍内閣支持率はむしろ上昇気味で、逆に野党の政党支持率はほとんど上がっていない。

甘利明経済再生担当相の辞任や宮崎謙介衆院議員の議員辞職など、ここのところ安倍内閣と自民党に不祥事が相次いでいる。また、島尻安伊子沖縄・北方担当相や丸川珠代環境相らの失言もあり、安倍政権はお世辞にも波静かとは言えない状況だ。

ところが、大手マスメディアの世論調査を見ると、安倍内閣支持率はむしろ上昇気味で、逆に野党の政党支持率はほとんど上がっていない。野党共闘の構築は暗礁に乗り上げつつあり、国会の論戦も、野党側に迫力がない。不祥事に加えて、不安定な日本経済、選挙制度改革など、政府・自民党に対する攻撃材料に事欠かない局面が続いているにもかかわらず、野党は有利な環境をまったく生かし切れていない。

「秘めた覚悟」はあったか

民主党は1月30日、東京・芝公園の東京プリンスホテルで定期党大会を開催した。大会には民主党との合流が取りざたされている維新の党の松野頼久代表も来賓として招かれていた。

その松野氏も耳を傾ける中、民主党の岡田克也代表はあいさつの中で次のように発言した。

「昨年12月に維新の党と民主党の間で4項目の合意をした。合意事項の中にも『結集も視野に』と確認している。新党結成も選択肢として排除されていない。いろんな困難もある。はたして乗り越えられるかどうか、胸襟を開いてしっかり話をしていきたい」

これを受けて、松野氏は記者団に対して、「覚悟が感じられた良いあいさつだった」と、岡田氏の発言を前向きにとらえた。たしかに岡田氏の「新党結成も選択肢」という発言は、民主党との新党を目指す維新の党にとっては心強く聞こえただろう。だが、それ以降の発言中に「困難」「乗り越えられるか」など否定的な言葉もちりばめられており、あいまいな印象も残る。

岡田氏のあいさつを好意的に解釈した松野氏に対して、記者団は矢継ぎ早に質問を繰り出した。

記者「岡田代表のあいさつの中には、合流に関する踏み込んだ発言はなかったと思うが」

松野氏「非常に秘めた覚悟が伝わってきた」

記者「党内では、岡田氏が踏み込んだ発言をしなければ民主党との合流を白紙に戻すという意見もあった。今日の岡田氏のあいさつの内容で、党内を(民主党と新党を結成するという方向で)まとめられるのか」

松野氏「十分じゃないですか。『合流も視野に』と発言されているので」

記者「秘めた覚悟をどこで感じたのか」

松野氏「今の発言がそうではないか」

記者団と松野氏のやりとりはまるで噛み合っていない。松野氏は岡田氏の発言をなんとか前向きにとらえようと懸命になっているのに対して、記者団の受け止め方は違った。新党結成に否定的な民主党内の雰囲気を肌で感じているので、岡田氏のあいさつを聞いても、肯定的な発言だと、記者団には感じられなかったのだ。

「新党」が必要なワケ

そもそも岡田氏の言う「新党」は、維新の党が考える「新党」とは異なっている可能性がある。もともと両党議員は合併に対する意識が異なっている。民主党は衆参両院で約130人の所属議員を擁する野党第1党である。これに対して、維新の党は衆院21人、参院5人の小政党。民主党からすれば、両党は対等合併ではなく、民主党が維新の党を吸収する形になるべきだと考えるのが自然だ。民主党議員の多くが思い描く新党は、民主党が維新の党を飲み込む形の政党である。

しかし、維新の党には、単なる意地の問題とは別に、民主党にいったん解党してもらわなければならない事情がある。今の民主党が存続したままの吸収合併は維新の党の参院議員5人の切り捨てにつながるからだ。

維新の党の参院議員はいずれも比例代表選出である。国会法109条の2は原則として比例代表議員が当選した際に所属していた政党を離党して他党に移った場合には失職すると規定している。

ただし、例外規定がある。おおざっぱに解説すると、①当選時に存在していなかった新党②当選時の所属政党が他党と合併、あるいは分裂してできた政党――への入党は認められているのだ。

ところが、維新の党の5議員は実は全員、当選時は、今は消滅した政党「みんなの党」所属だった。その後、5人は例外規定にのっとって、当選時に存在していなかった新党「結いの党」に移るなどの経緯をたどり、現在は維新の党の一員になっている。しかし、現時点で「みんなの党」は存在しないため、例外規定②の適用は不可能。つまり、民主党による維新の党の吸収合併では、5人は入党できずに取り残されてしまう。

これに対して、民主党と維新の党の双方が解党してまったく新しい政党を作れば、例外規定①を適用して、5人は参加できる。だからこそ、維新の党は民主党の解党を求めているのだ。

最優先課題

しかし、大政党である民主党からみれば、小さな維新の党の議員を救うために、なぜ民主党が解党しなければならないのかという疑問が当然わく。

岡田氏は2月5日の記者会見で、「『解党』っていう言葉を使うことはきわめて問題がある。私は禁句にしている。(中略)自分の党を解散すべきだっていう話がまず来るというのはよく理解できない。何、ばかげたことを言っているのかと思う」と述べた。これは、維新の党に対する発言ではなく、民主党内部での「解党」にまつわる議論を牽制した発言ではあるが、いずれにしても民主党解党を全面的に否定しているように聞こえる。

この問題に関連して、1月26日、民主党の枝野幸男幹事長はテレビ番組に出演して次のように発言した。

「野党から何人の候補が出るのかということこそが大事なのであって、その中の1パーツとしての民主党と維新の党がどうなるかというのは、小さな話だ」

これに対して、維新の党の石関貴史国対委員長は「それでは、枝野さんが考える大きな話というのは何なのか。まったく理解できない」と反発した。維新の党が生き残りをかけた新党構想について、「小さな話」だと言われては、怒るのも当然だろう。

だが、枝野氏の言い分にも一理ある。なぜなら、野党共闘の目標は、自民党1強体制を打破することにあり、そのためには、7月の参院選で野党候補を数多く当選させることが最優先課題だからだ。

進まぬ候補者一本化

この対自民党の戦いの主戦場はどこか。制度上の特性ゆえに与野党の獲得議席数に大きな差が出にくい比例代表は決戦の場ではない。勝ち負けが極端に偏る傾向がある全国32カ所の1人区(改選数1の選挙区)こそが天下分け目の戦いになるのである。

野党は1人区で、自民党候補1人と野党候補1人の一騎討ちの形に持ち込みたいところだ。複数の野党候補が乱立したら、票が分散して勝ち目がないからだ。この目的を達成するためには、いずれかの野党が候補を擁立した選挙区には、他の野党が対抗馬を立てなければいい、要するに野党候補者を一本化すればいいのであって、民主党と維新の党の合併は関係ない。

もちろん、野党各党が話し合いで候補者を一本化するよりも、合併して1つの政党になってしまったほうが候補者調整をしやすいという利点はあるが、枝野氏の言うとおり、やはり合併は最優先課題ではない。非情な言い方だが、維新の党の参院議員5人(今回、改選期を迎えるのは4人)を救済することの優先度は低く、枝野氏の発言の理屈は通っている。

だが、肝心の候補者一本化作業もなかなか進んでいない。昨年12月にかろうじて熊本選挙区で民主、共産、維新、社民の野党4党統一候補の擁立が決まったほか数カ所で具体的な話が続いているものの、その他の選挙区では難航している。象徴的なのは新潟選挙区。すでに共産党、生活の党、維新の党がそれぞれ候補者を抱えているところに、2月になって民主党が現職衆院議員を参院に鞍替えして出馬させることを決定したため、混乱している。

他の野党は民主党議員の鞍替え出馬に猛反発している。

「筋道、大義からはずれた非常に姑息なやり方。どうも野党結集をあまり真剣に考えていないのか、どうしていいのか分からないのか、やる気がないのか......」(小沢一郎・生活の党代表)

「新潟の候補者擁立は禁じ手まで使った。信義則違反だ。小沢さんが激怒するのも分かる。ぼくも激怒している」(江田憲司・前維新の党代表)

求心力を働かせて結集すべき野党共闘は今や逆に遠心力が強まり、崩壊寸前である。

そんな野党にあって、やや余裕を見せているのが、野党共闘にもっとも積極的な共産党だ。反自民党票を一手に集めるはずだった野党共闘が失敗に終わったとしても、行き場を失った反自民党票の受け皿の役割が共産党に回って来ると予想できるからだろう。

「5党でしっかり守っていこう」

一方、自民党は逆に求心力を高めている。

「甘利氏の一件について、世論は相変わらず自民党を支持するということで、まったく支持率が下がっていない。無理矢理、本会議を開かせたり、審議拒否したりという(野党の)いやがらせ工作が一般社会の皆さまから見抜かれていて、別にそういうことをして何があるねん、ということが浸透している」

これは自民党議員の発言ではない。甘利氏の辞任から数日後の2月2日に開かれた「おおさか維新の会」代議士会での馬場伸幸幹事長のあいさつである。甘利氏の不祥事に関して、自民党を責めるのではなく、むしろ野党の国会対策戦術を批判しており、露骨に自民党にすり寄った発言である。

2月9日、自民党の伊達忠一参院幹事長は国会内の「日本のこころを大切にする党」(「次世代の党」が党名変更)の控室を訪問した。手にしていたのは、安倍晋三総裁(首相)、谷垣禎一幹事長、茂木敏充選対委員長らの連名による書状だ。内容は、町村信孝前衆院議長の死去に伴って4月に実施される衆院北海道5区補欠選挙で自民党候補を推薦してほしいという依頼書である。

伊達氏はさらに、「日本のこころ」の所属議員2人の地元が宮城県であることを踏まえ、「宮城でもお願いしたい」と自民党候補への支援を要請した。

「日本のこころ」の所属議員は衆院0人、参院わずか4人。党の存続、あるいは所属議員の生き残りのためには自民党の力を借りたいところである。これに対して、自民党にとっても、実は「日本のこころ」という政党は必要不可欠な存在である。

この会談後、「日本のこころ」の中野正志幹事長は周囲に次のように語っている。

「5党でしっかり守っていこうということだ」

改憲への道筋

5党とは、自民党、公明党、日本を元気にする会、日本のこころを大切にする党、新党改革である。5党の共通点は昨年9月、安倍内閣が命運をかけた安全保障関連法案の参院採決で賛成票を投じたことだ。

参院の総定数は242。安倍首相の悲願である憲法改正の発議には、この3分の2にあたる162議席が必要だ。今、自民、公明の与党両党は合計135議席しかない。

ほかに、憲法改正に積極的な政党は、野党でありながら安保関連法に賛成した元気、日本のこころ、改革の3党であり、その合計議席数は9。さらに、改憲派に数えられる「おおさか維新の会」(7議席)も足せば151議席になる。まだ11議席足りないが、7月の参院選でなんとか手の届くところまできている。つまり、改憲派の議席という意味で、自民党は、日本のこころなどの3党を大切にしたい。逆に3党にとっても自民党の支援は生き残りのために必要だ。

5党は、生き残りと憲法改正というそれぞれの目標を見据えた共生関係にある。現実に憲法改正に到達できるかどうかは不透明だが、崩壊寸前の野党共闘を尻目に、改憲5党が自民党を中心に結束を固めつつあるのは事実だ。

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(2016年2月15日フォーサイトより転載)

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