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いま自衛隊は戦えるか?:「百発百中」でも守れないかもしれない「理由」--林吉永

2017年04月25日 17時02分 JST

「集団的自衛権の行使」「駆けつけ警護」「共同防護」「北朝鮮の弾道ミサイル迎撃」といった「自衛隊の武器使用を伴う事態対処」は、今や自衛隊の当然の職務として受け容れられている。しかし、多くの人に「自衛隊が守ってくれるから自分たちは安全だ」という自衛隊過信の錯覚が生じていないだろうか。

弾薬量の基本単位=BL

自衛隊員の能力、自衛隊の装備・技術が抜きん出て優れ、火器の命中精度が「百発百中」であっても、相手の攻撃を阻止できない「どうしようもない状態」に陥ることは考えられる。それは、 "Ammunition Basic Load (BL)" が底をついて戦えない状態が発生することである。「BL」とは、「作戦戦闘の勝利に必要な弾薬・火器などの量を示す単位」であると、『米陸軍省 FM(Field Manual)4-30-13, 1 March 2001, "AMMUNITION HANDBOOK : Appendix A Ammunition Basic Load"』に概念付けされ、自衛隊においても準用している。

例えば、ベトナム戦争参戦の米陸軍戦闘員1人の標準装備「1BL」は、「M16ライフル銃1丁・同18発入りマガジン(弾倉)19個・同18発入り曳光弾マガジン1個・同200発連続射撃用送弾倉/手榴弾4個/煙幕手榴弾2個/M60拳銃(拳銃帯付)・同100発入り弾帯2本/火器整備用キット/鉄帽とヘルメット/カラビナとロープ/マチェテ(鉈)/ガスマスク/戦闘服(予備)/アルミ製リュックサック/弾倉袋/ポンチョ/携行食/飲料/タバコ/髭剃・歯磨き洗顔セット/虫除け剤/メコンデルタ用泥除けオーバーシューズとパンツ」(www.vietvet.org/bscload.htm)であり、ベトナムでは、毎日、ヘリコプター、あるいはボートでBLの補充が繰り返された。

日本のBL事情

北朝鮮弾道ミサイルを迎撃する改良型パトリオット(PAC3)の場合は、発射ランチャーに4発(M901発射機)または16発(M902発射機)の対空ミサイルを搭載したPAC3の1単位を1BLと言う。例えば、全弾発射後の再装填可能回数を含めて3BLは、3回の射撃が可能な戦闘力を表わす。

同様に、要撃戦闘機の場合、ミサイル・ランチャーすべてに空対空ミサイルを装着して出撃する1回分を1BLと言い、2BLは、同じ条件で2回出撃できるということを表わす。他方、1.5BLは、2回目の出撃時、1戦闘機に半数のミサイルしか搭載されていない、あるいは、全ランチャーにミサイルが装着され再発進できる戦闘機が半数に減少することを意味する。このように、BLは、「戦い続ける弾薬の備蓄が有るか否か」の継戦力も示している。

F35やTHAADミサイル(終末高高度防衛ミサイル"Terminal High Altitude Area Defense Missile")など最新の装備を保有していても、弾が無くなれば戦えない。米国のランド研究所が行った「日中戦争シミュレーション(Jan. 2016)」では、「5日間で日本の敗北」となったが、「日本のBL事情」が敗因の1つであったことが考えられる(2016年2月13日「『日本は対中戦争5日で敗戦』――米ランド研究所シミュレーションの含意」参照)。

航空作戦の場合、米軍来援の要件は、日本の作戦運用システムとの連接性・相互運用性の確保、および日本からの武器弾薬・燃料・修理/整備用部品の補給である。米軍が、「手弁当」で日本のために馳せ来ることを期待するのは虫が良すぎる。米軍の来援は、作戦所要のBLを日本が提供できるなど、米軍が日本で戦える環境を整えておくことで確かさと信頼を増す。ところが現在は、来援米軍はもとより、日本固有のBLでさえ、予期する様相に適応できていないのではないかと危惧されるのである。

「身を伴う防衛力の整備」を

北朝鮮は弾道ミサイルを何発、核弾頭を何個保有しているのだろうか。迎え撃つ日本が質と量で優位に立つには何BL必要なのか。BLの備蓄量は、装備の「最新・最高性能」といった優越だけではなく、戦術的優位を維持できる数量を確保すべきである。

過去、自衛隊の場合、BLは作戦所要によって自ら決めるのではなく、大蔵省(現財務省)の予算配分が決めてきた。

1980年前後の航空自衛隊の平時BLは、戦闘機が2回出撃すると丸腰になるので3度目の発進はできなかった。当時の地対空ミサイルは、航空攻撃が2波にわたり来襲するとBLが底をついた。有事の重要防護対象に指定されていた弾薬庫は、作戦開始時、警備の隊員が張り付いているが、中は空っぽという「笑うに笑えない」現実が、今日の「笑い話」となっていることを願いたい。

防衛・安全保障政策は、国民に安心感を与えるところに原点が在る。専守防衛レジームの転換が行われた今日、法体系の整備にそった実を伴う防衛力整備に改めなければならない時期にある。その最優先が「BL」である。(林 吉永)

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林吉永

はやし・よしなが NPO国際地政学研究所理事、軍事史学者。1942年神奈川県生れ。65年防衛大卒、米国空軍大学留学、航空幕僚監部総務課長などを経て、航空自衛隊北部航空警戒管制団司令、第7航空団司令、幹部候補生学校長を歴任、退官後2007年まで防衛研究所戦史部長。日本戦略研究フォーラム常務理事を経て、2011年9月国際地政学研究所を発起設立。政府調査業務の執筆編集、シンポジウムの企画運営、海外研究所との協同セミナーの企画運営などを行っている。

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(2017年4月25日フォーサイトより転載)