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文民統制と「政治家の資質」

2015年07月29日 01時42分 JST | 更新 2016年07月27日 18時12分 JST
ASSOCIATED PRESS
Japanese Prime Minister Shinzo Abe, looks up during a plenary session at the lower house in Tokyo, Thursday, July 16, 2015. Japan's lower house of parliament on Thursday approved legislation that would allow an expanded role for the nation's military in a vote boycotted by the opposition. Shigeru Ishiba, the minister for Vitalizing Local Economy in Japan is seen at left.(AP Photo/Shuji Kajiyama)

国の防衛・安全保障に関わる文民統制の概念は、文民の政治が軍事に優先すること、言い換えれば政治家が軍隊を統制することである。

自衛官は、最高指揮官である内閣総理大臣の指揮を受け、自衛隊の各級部隊において行動する。しかし、内閣総理大臣であっても好き勝手に自衛隊を動かせるわけではない。国民の負託を受け、期待に応えるという大原則を貫くために国会の承認を得なければならない。

国会承認は、政治家が武力集団である自衛隊の行動を統制することにつながる。よって、政治家もまた国民の負託を受けて文民統制を適正に行う責任を有する。従って政治家には、国の命運を左右する事態、および国民の生命財産を損なう事態に対応できる知見に裏づけされた識見、責任感、使命感などに優れた資質が求められる。

ところが、大臣、副大臣、政務官は、得手不得手に関わらず単に当選何回の条件で任命されるといった傾向もあるから、適任者が就かない場合もある。しかしながら政治家には、国の政治、外交、防衛、経済、教育など政府が所掌する全分野に理解力、判断力、指導力が求められる。言い換えれば、政治家は抜きん出たジェネラリストたるべしということでもある。

幹部自衛官は、専門家として、および指揮官、幕僚としてその位階に相応しい教育訓練を受け所望の能力レベルに達していることが義務付けられている。各級指揮官は、「武力行使」の現場において付与された任務を担う立場から、指揮統制の分限内において部隊を運用する。部隊の規模が大きくなるほど、状況判断、決心の結果が及ぼす影響は大きく、国家の命運に及ぶ深刻な事態に直面することが考えられる。このため、別けても自衛隊の高級幹部には格別の教育訓練が課せられ、ジェネラリストたる象徴として「将官(ジェネラル)」の階級と職責を与えられる。

近代日本の歴史には極めて貴重な経験と教訓がある。明治維新後、日本が国際社会において実力を有する大国として認められたのは、国家指導者に人を得ていたからである。この時代、長州の「松下村塾」、薩摩の「若衆宿」、大坂の「適塾」などは、武家社会から優れた若者を輩出する土壌となって人材を育て、その多くが維新の富国強兵と国際社会における駆け引きを担った。しかし、他方で軍人を含めて官僚色の濃い環境に育った次世代は、国力において劣勢にもかかわらず国民を勝利の暗示に陥らせ、アジア・太平洋戦争を行って「予期された敗戦」に導いた。

クラウゼヴィッツが言う「戦争が政治に従属する」ことは、「文民統制」に象徴されている。その文民統制を担う一部国会議員の浅学菲才、品位すら疑われる危うい言動が問題になった。別けても与党自民党の多数勢力をもって「そこのけそこのけ自民が通る」の「驕り・傲慢・高ぶり」の顕れは如何なものか。しかも、日本の防衛・安全保障に関わる自衛隊の「武力行使」「武器使用」の範囲を拡大する法制審議を行っている最中、不穏当な言動によって国を再び危機に陥れる危惧を想起させる資質を露呈している人たちに文民統制を任せられるのか、このような懸念に駆られる現実に思いを致したい。

他方で国民は、文民統制を負託して、国の防衛・安全保障に関与する国会議員を選挙する立場に在る。従って国政に与る国民の代表を送り込むに際しては、国民の側にも責任が問われることを付言しておきたい。

林吉永

NPO国際地政学研究所理事、軍事史学者。1942年神奈川県生れ。65年防衛大卒、米国空軍大学留学、航空幕僚監部総務課長などを経て、航空自衛隊北部航空警戒管制団司令、第7航空団司令、幹部候補生学校長を歴任、退官後2007年まで防衛研究所戦史部長。日本戦略研究フォーラム常務理事を経て、2011年9月国際地政学研究所を発起設立。政府調査業務の執筆編集、シンポジウムの企画運営、海外研究所との協同セミナーの企画運営などを行っている。

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(2015年7月9日フォーサイトより転載)