「人物ドキュメンタリー」という仕事

「被写体を決めて、どういう場面を撮るか、あるいは何を捨てるか。それを作り手の解釈のもとに編集する。これがドキュメンタリーの表現です」

映画監督・園子温(54)。これまでに『冷たい熱帯魚』や『ヒミズ』といった問題作を世に問い、昨年は『新宿スワン』『ラブ&ピース』『リアル鬼ごっこ』『映画 みんな!エスパーだよ!』と一気に4作品が公開された、今もっとも注目を集める邦画界の鬼才だ。

この鬼才を約1年に亘って密着取材した長編ドキュメンタリー映画が、新宿シネマカリテ他で5月14日から公開される。タイトルは、『園子温という生きもの』。テレビ番組「情熱大陸」(TBS系)などで人物ドキュメンタリーを撮り続けている大島新監督(47)の、長編第2作である。

テレビでは表現できない部分を映画で

きっかけは「情熱大陸」(2014年6月15日放送)での取材だった。園監督は2012年、福島の原発事故に翻弄される家族を描いた『希望の国』を製作する一方で、総理官邸前で行われたデモに参加し、時には演説もしていた。

「映画も見ていましたが、特に東日本大震災以降の園さんの、社会に対する発言や映画作りにすごく興味を持ち、取材したいなと思いました。現役の映画監督で、自分の作家性で勝負しながら、社会に対してモノ言う園さんを撮ってみたい、と」

この取材の終了間際、大島監督は園監督が久しぶりに自主製作映画を撮る、ということを知った。やはり福島を舞台にした『ひそひそ星』である。

「『ひそひそ星』を撮っている期間の園子温を撮りたい、と思いました。またテレビでは表現しきれなかった部分を、映画というメディアでやりたいという気持ちもありましたね」

右手に「大きな花束」左手に「小さなナイフ」を

大島監督は映画監督・大島渚の次男として、1969年に生まれた。早稲田大学第一文学部を卒業後、フジテレビに入社。以来、1999年の退社も挟んで約20年、ドキュメンタリーを作り続けてきた。しかも、対象のほとんどが人物である。

「自分のキャリアの中で、自分なりに納得できて面白かった、人からの評価も高かったのが、人物ドキュメンタリーだったということですね」

人物ドキュメンタリーの被写体はもちろん生身の人間。

「被写体を決めて、どういう場面を撮るか、あるいは何を捨てるか。それを作り手の解釈のもとに編集する。これがドキュメンタリーの表現です」

中でも大事なのは被写体との距離感だ、と大島監督は言う。

「被写体は圧倒的なものですから、これにある程度合わせていくという資質は必要です。そのうえで被写体を見つめるために、まずは普通の人間関係を作ること。ただそこからの距離感というのは相手によって違い、なかなか難しい。近づけるものなら近づかないと、撮るものも撮れないでしょうが、近すぎるがゆえに、客観性とか批評性を失ってしまうと、それはそれで違う」

近すぎず離れすぎず、という物理的心理的距離感をどう表すか。

「"右手に大きな花束を、左手に小さなナイフを持って取材する"というものです。あなたが好きで、ちゃんと見つめて撮りたい、と花束で伝えながら、"そこはホントかよ"という部分には、ナイフを差し込んでいく」

それは『園子温という生きもの』でもいかんなく発揮されたようだ。

「園さんはこの映画を見て、相当いやだったらしいんです。先日久しぶりにお会いしたときに言っていました、"おれの嫌なところばかり、みんなが面白いと言うんだよ"と。これを聞いて、ぼくは成功したなと思いました」

ほくそ笑む大島監督。

「被写体が見せたくないものも映ってないとダメだと思う。見せたくないものだけというのもおかしいですが、それが結果として一部映っている、というのがいいんじゃないか。そのさじ加減は難しいのですが」

こうして園子温という"生きもの"をとらえた大島監督だが、次なる被写体は考えているのだろうか。

「今回の作品を見たある映画関係者が"角川春樹さんを撮ってほしい"と言ってくださった。映画としては最初に唐十郎さんを(2007年製作『シアトリカル 唐十郎と劇団唐組の記録』)、今回園子温さんを取り上げて、次が角川さんなんて、ぼくが"クリエイティブな仕事をしているややこしい大物担当"ということなんだと思うと、うれしかった。実現できれば絶対面白いし、貴重な記録になると思います」

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