12月を前に「Giving December」を考える--磯山友幸

12月が「寄付月間」だということをご存じだろうか。

12月が「寄付月間」だということをご存じだろうか。

NPOや大学、企業、行政など寄付にかかわる関係者が連携して行う全国的なキャンペーン期間として、2015年に始まった。2016年には28のリードパートナー(13法人と15人の個人)と945の賛同パートナー(384法人と561人の個人)が「寄付月間」を支援。公式認定企画として、71に及ぶキャンペーンやイベントが全国で繰り広げられた。

「カンパイチャリティ」

「Giving December」というメッセージと、カラフルなモザイク模様で「12」をかたどったオシャレなロゴを目にした人もいるだろう。もともと日本では、「歳末たすけあい運動」が定着していたこともあり、12月の1カ月間を様々な寄付について考え、実行していく月にしようと、民間主導で始まった。2017年の今年で3年目を迎える。

米国では、2012年から「Giving Tuesday」と名付けられた運動が始まっている。クリスマス休暇が始まる前に国際的な「寄付の日」を作ろうという運動で、クリスマス商戦が始まる感謝祭翌週の火曜日を指す。日本では、こうした特定の日を設けることが難しいため、12月を「寄付月間」とした。

「欲しい未来へ、寄付を贈ろう。」が寄付月間のキャッチコピーである。パンフレットにはこうある。

「一年の終わりに、考えたいのは未来のこと。(中略)寄付は意思、寄付は投資、寄付は応援、寄付は願い。寄付で未来は変えられるのです」

弱者を助けるというだけでなく、明るい未来を作るための投資として、年末に寄付する習慣を始めてほしいと訴えているのだ。

企業や団体が協賛するイベントは様々。チャリティで寄付を募ったり、寄付について考えるシンポジウムを開いたり、それぞれのアイデアで実施している。

2015年に「寄付月間企画大賞」を受賞したのは、「あいちコミュニティ財団」が主催した「カンパイチャリティ」。業務用総合卸販売「マルト水谷」が協力、参加飲食店で生ビールを頼むと1リットル当たり1円が寄付されるというもの。2015年12月から翌年3月まで実施され、東海地方の1938店舗が参加、寄付金額は420万円にのぼった。

2016年の「寄付月間企画大賞」は、「公益法人協会」と「日本フィランソロピー協会」が実施した「寄付川柳」。全国から5390作品の応募があった。最優秀作品は「募金箱 素通りさせぬ 子らの声」だった。

このほか、各地の自治体や公益財団法人などが様々なセミナーやシンポジウムを開催。「日本NPOセンター」と「電通」が「ソーシャル・ポスター展」を開いたり、西武信用金庫などが「遺贈寄付セミナー」を開くなどした。

返礼品がなくても

リードパートナーとして企画段階から参画しているファンドレイジング(NPOが行う資金調達)支援会社「ファンドレックス」取締役のイノウエヨシオ氏は、「世の中の寄付に対する姿勢が明らかに変わってきた」とみる。日本ファンドレイジング協会が発行している「寄付白書2017年版」によると、2016年の個人寄付の推計総額は7756億円と、前回調査の2014年の7409億円から増加した。東日本大震災があった2011年は1兆円を超えたが、それ以前は5000億円前後だったので、震災を境に寄付総額は大きく増えたことになる。

日本人の45.4%が金銭による寄付を行ったとみられるという。寄付金額の平均は2万7013円。男性が3万2785円、女性が2万2039円だった。

寄付の種類は「緊急災害支援や国際協力・交流(カテゴリー1)」「共同募金や日本赤十字、宗教関連、自治会・町内会(カテゴリー2)」「ふるさと納税(カテゴリー3)」の3つに分かれる。カテゴリー1が1万2298円、2が8797円、3が7万531円と、ふるさと納税の効果が大きい。

ふるさと納税は高額の返礼品にばかり焦点が当たり、返礼品目当ての寄付が多いように指摘されているが、「必ずしも返礼品だけが目的で増えているわけではない」と、前出のイノウエ氏は解説する。

ふるさと納税している人の中には、ほとんど自己負担がなく、地方税で賄える上限を超えて、他の自治体にふるさと納税しているケースがかなりの数にのぼる。はじめは返礼品がきっかけだったとしても、応援したいという気持ちが芽生えてくるとみていいだろう。最近は返礼品がなくても、ふるさと納税するケースが増えている。

例えば、自然災害などに被災した自治体をふるさと納税で応援する仕組みなどでは、返礼品を辞退する例が少なくないという。「何に使うのか、なぜそのおカネが必要なのかを明確にすれば、応援しようという人はたくさん出てくる」とイノウエ氏は言う。

目標の倍額を突破

最近、「コレクティブ・インパクト」という言葉が頻繁に使われるようになった。行政や企業、NPO、財団法人など立場の異なる組織が、組織の壁を超えてお互いの強みを生かし、社会的な課題解決に取り組もうというものだ。そうした「コレクティブ・インパクト」にふるさと納税を活用することができるのではないか、という試行錯誤が始まっている。

広島県神石高原町は、認定NPO「ピースウィンズ・ジャパン」と組み、犬の殺処分全国ワーストだった広島県から殺処分を無くす目標を掲げた。神石高原町にふるさと納税すると、その資金がピースウィンズの「ピースワンコ・ジャパン」プロジェクトに回る仕組みを構築。全国からふるさと納税が集まり、広島県の犬の殺処分はゼロになった。

2016年10月からは目標金額10億円を掲げて、全国での殺処分ゼロを目指すプロジェクトを始めた。期限は今年いっぱいだが、すでに5億9200万円を超す資金が集まった。寄付者には返礼品も用意しているが、大半は神石高原町産の農産品や食品など。返礼品目当てというよりも、殺処分ゼロという「目的」が共感を呼んでいる。ふるさと納税を活用できるが、それ以上の寄付をする人も少なくない。自治体が目的を掲げて資金集めをする「ガバメント・クラウドファンディング」になっている。

東京都文京区がふるさと納税の仕組みを使って寄付を呼びかけた「こども宅食」プロジェクト。「命をつなぐ『こども宅食』で、1000人のこどもと家族を救いたい!」と訴えた。文京区と5つのNPOが共同で運営、1000世帯の自宅に1~2カ月に1度食品を届け、それを突破口に子どもの貧困問題を解決したいと始めた。

今年7月から12月末の予定で2000万円を目標に始めたが、1カ月あまりで目標を突破、11月末には4000万円を突破した。日本の子どもの7人に1人が貧困状態にあるとされる中で、世の中の人たちの共感を得たのだ。

自然災害が起きると、その地域の復興を目的とするふるさと納税のメニューを、他の自治体が作るケースも増えた。被害にあった自治体では、ふるさと納税の申し込みがあっても災害対応で事務に手が回らない。他の自治体が実質的にその事務を代行することで、短時間のうちに必要な義援金が被災者にわたるというわけだ。こうしたプロジェクトにも、必ずしも返礼品目的ばかりでない寄付者が増えている。

「使い道」で調べる

イノウエ氏は、「日本には寄付文化はない、と言われますが、ウソではないでしょうか」と話し、こう繋ぐ。

「日本語には寄付を意味する言葉がたくさんあります。献金、寄進、喜捨、浄財、義援、奉加、おすそ分け、カンパなどなど。明治以降、京都の小学校は寄付でできたし、それ以前にも大阪の大きな川に掛かる橋の多くは、民間人が資金を出し合って作った。もともと日本人には"寄付のDNA"があるのだと思います」

年末の12月は、ふるさと納税の申し込みも増える時期だ。ふるさと納税の人気サイトである「ふるさとチョイス」の検索でも、寄付の「使い道」を調べられるようになっている。使い道でヒットするプロジェクトの多くに、「返礼品はありません」という記載がある。返礼品目当てでなく、純然たる賛同者を求めているわけだ。

前出の「寄付白書」によると、緊急災害支援などのカテゴリー1に寄付した人(17.9%)と、ふるさと納税をした人(10.2%)のうち、両方に寄付した人は2.1%に過ぎないという。つまり、寄付している人の層はダブっていないわけで、まだまだ純然たる寄付に人々が向かってくる余地はある。

2014年の個人寄付総額が名目GDPに占める割合は、米国の1.44%に対して、日本は0.2%に過ぎない。日本人のDNAに眠る寄付の精神に火が付くのはいつか。12月の「寄付月間〜Giving December〜」に、改めて思いを巡らしてみてはいかがだろうか。

磯山友幸 1962年生れ。早稲田大学政治経済学部卒。87年日本経済新聞社に入社し、大阪証券部、東京証券部、「日経ビジネス」などで記者。その後、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、東京証券部次長、「日経ビジネス」副編集長、編集委員などを務める。現在はフリーの経済ジャーナリスト。著書に『国際会計基準戦争 完結編』、『ブランド王国スイスの秘密』(以上、日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)、編著書に『ビジネス弁護士大全』(日経BP社)、『「理」と「情」の狭間――大塚家具から考えるコーポレートガバナンス』(日経BP社)などがある。

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(2017年11月30日「
」より転載)

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