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米大統領選「アイオワ州党員集会」勝敗の意味

2016年02月04日 00時03分 JST | 更新 2017年02月02日 19時12分 JST
ASSOCIATED PRESS
Democratic presidential candidate Hillary Clinton embraces former Arizona Rep. Gabrielle Giffords, center, and her husband astronaut Mark Kelly during a campaign stop, Wednesday, Feb. 3, 2016, in Derry, N.H. (AP Photo/Matt Rourke)

2016年米国大統領選挙の幕開けとなるアイオワ州党員集会が2月1日に行われたが、共和党、民主党ともに熾烈な争いとなった。共和党では、2015年6月に出馬表明を行った翌月から同党の大統領候補指名獲得争いで事実上の「フロントランナー」の立場を維持してきた実業家兼テレビパーソナリティのドナルド・トランプ氏が重要な初戦で勝利を収めることができず、保守派のテッド・クルーズ上院議員(テキサス州選出)に土をつけられた。

他方、民主党では、集計率99%時点でヒラリー・クリントン前国務長官が49.9%、バーニ―・サンダース上院議員(無所属、バーモント州選出)が49.6%とほぼ互角の戦いを展開。最後の最後でアイオワ州民主党本部がクリントン氏の勝利を発表するとともに、クリントン氏自身も自らの勝利を誇示する勝利宣言を行った。

「敗北」しなかったクリントン氏

民主党の指名獲得争いについては、地元有力紙『デモイン・レジスター』が党員集会直前に最新世論調査結果を公表し、「クリントン支持」45%、「サンダース支持」42%とほぼ互角の展開で党員集会になだれ込むかたちになった。8年前の2008年1月に行われた同党員集会で、クリントン氏はバラク・オバマ上院議員(イリノイ州選出、当時)に敗北しただけではなく、ジョン・エドワーズ元上院議員(ノースカロライナ州選出、当時)にも敗北し、3位に沈んだ苦い過去がある。

当時、クリントン氏は「無敵」と見られていたが、同党員集会での躓きを契機として選対本部内での不協和音が表面化し、「変革(change)」を訴えるオバマ氏を支持する党内の勢いを止めることができず、最終的にオバマ氏に民主党大統領指名獲得を奪われる辛酸をなめることになった。

当時と今回を比較して共通しているのは、オバマ氏、サンダース氏とも、熱心な若年層に選挙キャンペーンが支えられている点である。サンダース氏は格差の是正、富裕層に対する増税強化、最低賃金の大幅引き上げ、ウォール街批判などの主張を選挙キャンペーンの柱に位置付けており、各種世論調査でクリントン氏と比較した場合、世代別支持で見ると若年層の間でクリントン氏を大幅に上回っている。

また、党員集会の直前に国務長官時代の22通の私的メールに最高機密情報が含まれていたことが明らかになり、サンダース氏の猛追も報じられる中、クリントン陣営には重苦しい空気が漂っていた。

8日後の2月9日のニューハンプシャー州予備選挙では、隣接州であるバーモント州選出のサンダース氏の優位が各種世論調査で明らかになっているため、クリントン氏がアイオワ州でサンダース氏に敗北しなかったことは、今後のクリントン氏の選挙キャンペーンを展望するうえで非常に大きな意義があったと筆者は考えている。

8年前のオバマ氏と今回のサンダース氏との決定的違いは、サンダース氏には当時のオバマ氏のような「変革」を体現できる若さが欠如している点である。74歳になるサンダース氏は、若年層を中心とした有権者が現在抱えている「不満の受け皿」にはなるであろうが、ホワイトハウスを視野に入れる民主党大統領候補にはなり得ないであろう。やはり、クリントン氏の優位は今後も揺るがないと考えられ、民主党の指名獲得争いの「敗者」になるシナリオは見えない。

今後に暗い影落とすトランプ氏の「敗北」

共和党では、アイオワ州党員集会を控えた選挙キャンペーン終盤、トランプ陣営は、クルーズ氏が米国生まれではなくカナダ・カルガリー生まれでカナダとの二重国籍であったことや、とうもろこしなどの主要産地である農業州アイオワ州のエタノール業界が支持している「再生可能燃料基準(RFS)」について、クルーズ氏が「企業助成政策(corporate welfare)」の一環であるとして段階的廃止の立場を明確にしていることを繰り返し攻撃してきた。

また、ティーパーティー(茶会党)支援勢力の間で依然支持されている、2008年大統領選挙の共和党副大統領候補であったサラ・ペイリン元アラスカ州知事の支持も取り付け、トランプ氏は勝利をめざしていた。実際、党員集会直前に公表されたデモイン・レジスター紙の最新世論調査でも、「トランプ支持」28%に対して「クルーズ支持」は23%と5ポイントも引き離し、トランプ氏がリードを広げるかたちでアイオワ州党員集会を迎えた。

それだけに、米有権者やメディアの最大の関心は、「トランプ氏はアイオワ州で勝利できるか」の一点であった。ところが、トランプ氏は勝利という結果を残せず、大事な初戦で敗北を喫したことは、今後の選挙キャンペーンにも暗い影を落とすことになるのではないかと考えられる。

ルビオ氏「善戦」で今後の可能性

今回の党員集会で注目すべき点は、単に24.3%の支持で2位となったトランプ氏が3.4ポイント差で27.7%のクルーズ氏に敗北したことだけではない。筆者が最も強い印象を受けたのは、トランプ氏に次ぎ3位となったマルコ・ルビオ上院議員(フロリダ州選出)の、期待を上回る「大善戦」である。ルビオ氏はトランプ氏に1.2ポイント差にまで迫る23.1%の支持を獲得しており、党員集会直前のデモイン・レジスター紙公表の世論調査での支持率15%から大幅に伸長させる結果となった。

また対照的に、ジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事、ジョン・ケイシック・オハイオ州知事、クリス・クリスティ・ニュージャージー州知事といった共和党主流派の穏健派政治家らは、相次いで惨敗を喫した。なかでもマイク・ハッカビー元アーカンソー州知事は早速撤退を表明したが、今後、他の候補も次々に撤退を余儀なくされ、共和党主流派勢力の間からルビオ氏への一本化を図る動きが鮮明になるものと予想される。

クリントン氏が民主党大統領候補の指名を獲得した場合、現時点での仮想対決で、共和党候補の中でクリントン氏にとり最も手ごわい相手となり、8年ぶりに共和党が政権を奪還できる可能性の高い候補はルビオ氏であるとの世論調査結果が明らかになっている。今後は、共和党主流派勢力や共和党系の政治資金調達者(ドナー)らにとり、ルビオ氏が「エスタブリッシュメント候補」として益々注目される存在となるだろう。

始まったばかりの共和党の指名獲得争いを展望するうえで、トランプ氏に迫る3位というルビオ氏のアイオワ州党員集会の結果は非常に重要な意味があると考えられる。

足立正彦

住友商事グローバルリサーチ シニアアナリスト。1965年生れ。90年、慶應義塾大学法学部卒業後、ハイテク・メーカーで日米経済摩擦案件にかかわる。2000年7月から4年間、米ワシントンDCで米国政治、日米通商問題、米議会動向、日米関係全般を調査・分析。06年4月より現職。米国大統領選挙、米国内政、日米通商関係、米国の対中東政策などを担当する。

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(2015年2月3日フォーサイトより転載)