キューバが絡む「JFK」超機密:トランプの公開延期のナゾに迫る--春名幹男

カストロ暗殺計画との関連

ケネディ大統領暗殺事件に関する米政府文書を大統領権限で25年間のうちにすべて公開するという1992年の「JFK暗殺記録収集法」。

10月26日に、同法施行からちょうど25年の期限を迎えた。その前日に、「長く期待されていたJFKファイルの公表は明日。非常に興味深い」とトランプ大統領が弾んだ調子でツイートしていたので、いやが上にも期待感が高まっていた。

しかし当日になって、公開が想定された約3200件の文書のうち、公開されたのは2891件だけ。残り約300件は、半年後の来年4月26日までに、公開か非公開か見直す、という失望的な結果が明らかにされた。

大統領があえて自らの権限を全面的に行使せず、公開を見送った理由は一体何だったのか。

カストロ暗殺計画との関連

実は、この25年間にわたる情報公開で、事件の真相をめぐる論議は劇的に変化していた。暗殺事件にキューバが絡んだ新事実が次々と明らかにされていたのだ。その「変化」を日本に紹介したのは、2015年12月16日の拙論「連載インテリジェンス・ナウ 『ケネディ暗殺』と『カストロ暗殺計画』の点と線:CIA機密文書」くらいしかなかった。

1961年のケネディ政権発足後、「ピッグズ湾侵攻作戦の失敗」「キューバ危機」と、世界を核危機に陥れるほど冷戦が深刻化。現実に、米中央情報局(CIA)がカストロ首相暗殺工作を画策中にケネディ大統領が殺されたのだった。

事件直後に逮捕されたリー・ハーベイ・オズワルド。しかも2日後に彼も警察署内で射殺され、陰謀論が噴出した。犯人はマフィアか、CIAか、副大統領から大統領に昇格したリンドン・ジョンソンか。事件を調査する「ウォーレン委員会」が発足したが、カストロ暗殺の秘密工作が進行中だったため、CIAはキューバが絡んだ情報は同委に一切報告しなかった。

しかし、1991年封切りのオリバー・ストーン監督の映画『JFK』を受けて、情報公開への機運が高まって新法が発効した。

KGBの暗殺担当スパイと面会

法律に基づき公表されたCIAや連邦捜査局(FBI)などの複数の文書から、驚くべき新事実が次々と明らかにされた。

第1に、オズワルドが暗殺の2カ月前にメキシコ市を旅行、ソ連およびキューバ大使館を訪れていたことだ。しかも、彼の行動をCIAとFBIは逐一監視していた。メキシコ政府の協力を得て、CIAは両大使館の電話を盗聴していた。

第2に、オズワルドがソ連大使館で、ソ連国家保安委員会(KGB)のスパイと会っていた事実だ。

同年9月28日にソ連大使館でオズワルドが面会したのは、バレリー・ウラジミロビッチ・コスチコフという人物。コスチコフはKGBの第13総局(サボタージュ、暗殺担当)の指示を受け、工作に当たっていたことが知られていたという。

こうした事実は暗殺事件の翌日、1963年11月23日付で「計画担当CIA次官補」あてに提出されたCIA文書で明らかにされている。

キューバが絡んだ事実の調査を進めているラリー・サバト・バージニア大学教授によると、1964年6月のFBIの報告書で、オズワルドがキューバ大使館でケネディ暗殺に言及していたことが明らかにされているという。

オズワルドはカストロを敬愛し、「キューバの公正な扱いを求める委員会」のビラをニューオーリンズで配っていたことが知られている。

報復を口にしたカストロ

今回の情報公開ではめぼしい文書はあまり見当たらないが、前回7月24日の公開では3810件の文書が公表され、新事実の発見があった。

その中で、1975年4月15日付のCIA内部メモが極めて興味深い。それによると、カストロ首相は1963年9月7日にハバナのブラジル大使館で行われたレセプションの際、AP通信記者との非公式インタビューに応じ、米国によるキューバ侵攻作戦を厳しく非難して「ケネディはバカ」と発言。また「米国の指導者がキューバの指導者を消すテロ計画を支援すれば、彼ら自身も安全ではないだろう」と警告した。

AP通信のこの記事は、ニューオーリンズの地元新聞も掲載しており、オズワルドも読んで、メキシコ市訪問につながった可能性も十分あり得る。

この事実から、カストロ首相はCIAが自分の暗殺を計画中であることを知り、報復を示唆したとも受け取られている。

責任逃れの情報機関

では、情報公開を自ら楽しみにしているともみられたトランプ大統領が、なぜ約300件もの文書公開を見送ったのか。

オバマ前大統領の業績をすべてひっくり返そうとしているトランプ氏。米国とキューバとの関係改善もその1つだ。

もし、キューバがケネディ暗殺に何らかの形で関わった可能性に言及した米情報機関の文書があった場合、その公開は明らかにトランプ氏にとって有利、と考えたかもしれない。

他方、CIAなど情報機関側はキューバ絡みで「情報源」および「情報収集の方法」を秘匿する必要性から公開に反対した。サバト教授によると、キューバでは関係者が存命の可能性もあるという。

さらに、もう1点。CIAやFBIはオズワルドを常時監視し、ケネディ暗殺を実行する可能性を事前に探知していながら、大統領警護の任務を負うシークレット・サービスに連絡していなかった可能性がある。

いまだにケネディ暗殺を悼む米国民が多い中、CIAもFBIも、責任を追及されたくないと考えるのは当然だろう。

春名幹男 1946年京都市生れ。国際アナリスト、NPO法人インテリジェンス研究所理事。大阪外国語大学(現大阪大学)ドイツ語学科卒。共同通信社に入社し、大阪社会部、本社外信部、ニューヨーク支局、ワシントン支局を経て93年ワシントン支局長。2004年特別編集委員。07年退社。名古屋大学大学院教授、早稲田大学客員教授を歴任。95年ボーン・上田記念国際記者賞、04年日本記者クラブ賞受賞。著書に『核地政学入門』(日刊工業新聞社)、『ヒバクシャ・イン・USA』(岩波新書)、『スクリュー音が消えた』(新潮社)、『秘密のファイル』(新潮文庫)、『米中冷戦と日本』(PHP)、『仮面の日米同盟』(文春新書)などがある。

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(2017年11月6日
より転載)

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