究極の「小泉シナリオ」次第という「内閣改造」の成否--辻原修

「1強」と言われた安倍政権は激震に見舞われ、最大の試練を迎えている。

7月2日の東京都議選は自民党の歴史的惨敗に終わった。小池百合子都知事が率いる「都民ファーストの会」は圧勝し、都議会第1党に躍進。国政進出も十分可能な得票力を示し、小池氏も「初の女性首相」への野心を隠していない。

「1強」と言われた安倍政権は激震に見舞われ、最大の試練を迎えている。野党第1党の民進党の命運にも大きく影響することは必至だろう。

オウンゴール連発した自民

自民党惨敗が決まった直後、安倍晋三首相がまず動いたのは公明党との結束確認だった。首相は2日夜、公明党の山口那津男代表に電話をかけ、「これからも国政では協力してもらいたい」と申し入れたという。

翌3日、首相官邸で行われた政府・与党連絡会議後、首相は山口氏を執務室に招き、党首会談を行った。山口氏は「謙虚に説明責任を尽くす姿勢をしっかり保って頑張っていただきたい」と要請し、首相も応じて自公連立の結束を確認した。

都議選で公明党が都民ファーストの会と選挙協力し、自民党と争ったしこりを解消する狙いだった。

42選挙区で実施された都議選で、自民党が獲得した議席は全127のうち23議席。想定を超える過去最低の惨敗となった。

自民党が行った都議選の情勢調査では、5月中旬まで、自民党の獲得議席は49議席と予測されていた。

しかし、学校法人「加計学園」による獣医学部新設問題を巡る政府の対応や、改正組織犯罪処罰法を強引に成立させた国会運営が国民の不信を招き、内閣支持率が急落したことから、獲得議席の予測も急落した。

通常国会閉会後も自民党のオウンゴールは続いた。

「このハゲーー!」

『週刊新潮』が報じた豊田真由子衆院議員の政策秘書に対する暴言・暴行の反響は大きかった。豊田氏は2012年12月、自民党が政権復帰し、第2次安倍内閣が発足した衆院選で初当選した「安倍チルドレン」で、首相の出身派閥である細田派。

新人が大量当選したこの期は「魔の2回生」と呼ばれ、これまでもスキャンダルが頻発していたが、豊田氏の暴言・暴行は衝撃的な音声が公開されたこともあって凄まじい破壊力を示した。

自民党の獲得予想議席は都議選告示(6月23日)後の25日段階で41議席に低下した。その後も稲田朋美防衛相が都議選応援演説で「防衛省、自衛隊、防衛大臣、自民党としてお願いしたい」と失言したことなどが自滅に拍車をかけた。

「公明の裏切り」への反発

それでも投票までわずか1週間前の予測で41もあった議席が、23まで落ち込んだことについて、自民党関係者は「調査で2、3ポイント以内の僅差でリードしていた20人近くのほとんどが落選した。組織的に落としにかかったとしか思えず、そんなことができるのは公明党・学会だろう」と指摘する。公明党が創価学会票の力を誇示し、自民党への発言力を強めるために、選挙協力していた都民ファーストの会への集票を最終盤でさらに強めたというわけだ。

その効果は明らかで、惨敗により、自民党はあらためて、もはや公明・学会票なしでは選挙ができないことを痛感している。首相が急いで山口氏に協力要請せざるをえなかったのには、そうした背景があった。今後、政府・与党内での公明党の発言力は強まりそうだ。

首相が目指す憲法改正を巡って、山口氏は「政権が取り組む課題ではない」としており、今後もけん制を強めていくだろう。

それだけに自民党内では、「公明党の裏切り。やり過ぎだ」(党関係者)などの反発も出ている。自民党都連では、公明党の太田昭宏前代表が出馬している衆院東京12区での今後の選挙協力に否定的な声も強く、しこりが残るのは確実だろう。

「小泉進次郎」入閣はあるか

首相は強引な政権運営や首相周辺の失言、スキャンダルで都議選惨敗を招いたことから危機感を強めている。政権基盤は揺らぎ、このままでは悲願とする憲法改正も難しくなるからだ。

首相は8月3日に党役員人事・内閣改造を行い、人心を一新し、出直しを図りたいと考えている。すでに稲田防衛相と、「共謀罪」の国会審議で度重なる失言などで野党に追及された金田勝年法相の交代が有力視されている。

その切り札と見られているのが、自民党屈指の人気者となった小泉進次郎衆院議員の入閣だろう。

6月25日に地元・横須賀市長選で、自民党推薦候補が2連敗していた現職に雪辱し、足元の地盤を固めることができたが、その際、党本部から手厚いサポートを受けたことから、「お返しの仕方はいっぱいある。恩は決して忘れてはいけない」と、都議選応援に回った。

街頭演説では「自民党に対する逆風は否定しようがない。自民党自身がまいた種だ」と相変わらずの歯切れ良い弁舌で反省の姿勢を強調し、聴衆の支持を集めていた。しかし、小泉氏入閣の可能性は低そうだという。

党関係者は、小泉氏のバックに父親の小泉純一郎元首相がいるからだと解説する。

小泉元首相は2001年、圧倒的不利と言われた3度目の総裁選で勝利して党総裁、首相に就任。2005年の「郵政解散」で圧勝するなど、並外れた政局勘をもつ勝負師として知られる。

ここで小泉進次郎氏が要請に応じて入閣すれば、安倍内閣と命運を共にすることになる。一方、今回は入閣せず、安倍内閣の支持率が回復しないまま下落を続けて来年9月の自民党総裁選を迎えた場合、党内はパニック状態に陥る可能性がある。

12月の衆院任期満了を前にして、小池知事が都議選圧勝の余勢を駆って国政に進出してきた場合、自民党が対抗できるかどうか、わからないからだ。

非自民勢力の組み合わせ次第によっては政権交代の可能性さえ出てくるかもしれない。「そうなれば、ポスト安倍と言われた石破茂前地方創生相や岸田文雄外相らも吹き飛び、進次郎氏しか最後の切り札はいないという待望論が起こるかもしれない。

小泉元首相なら、このぐらい大胆な政局シナリオを考える」(党関係者)というのだ。

安倍首相にとっても、小泉進次郎氏に打診してもし入閣を固辞されれば、それだけで改造人事は失敗した印象が強くなる危険がある。究極の「小泉シナリオ」がささやかれる中、確実に受けてもらえる保証がなければ簡単に打診もできないため、小泉氏への入閣要請は見送られる可能性が高いだろう。

稲田氏などの問題閣僚を一掃し、批判の強いお友達人事を排して、適材適所で実行力のある内閣を作らなければ、政権浮揚は難しい。しかし、改造が失敗して裏目に出れば、支持率低下に歯止めがかからなくなる可能性もあり、首相は慎重にならざるをえないだろう。

都議選惨敗直後は7月中に改造人事もありえるとして、人事の前倒しも言われたが、7月中は熟考し、8月3日に断行することにしたようだ。

民進は解党も視野

自民党惨敗の陰に隠れて注目されていないが、民進党の状況も深刻だ。前回の15議席から5議席へと過去最低を更新し、公明党はもちろん、共産党さえも下回る都議会第5党に転落した。

都議選前から候補者の離党が相次ぐ「離党ドミノ」により、18あった議席が7まで減り、投票の結果、さらに議席を減らしたのだ。

同党の岸本周平衆院議員はブログに「民進党の歴史的大敗」と題して、「2大政党の一翼を担う政党とは言えない大惨敗です。巷間、自民党の歴史的敗北が取りざたされていますが、民進党は論評の対象にさえしてもらえない厳しい状況です」と書き込んだ。

すでに藤末健三政調会長代理が離党届けを提出するなど、国会議員の離党ドミノも始まっている。その一方で、蓮舫代表の責任論は表面化しておらず、赤松広隆前衆院副議長のグループら反執行部側は野田佳彦幹事長の交代を求めるなど、党内抗争が始まっている。

民意を無視して党内の主導権争いに終始するようでは、国民から見放されるのも当然だろう。民進党を支持する連合からも「大阪で日本維新の会に負け、今度は東京で都民ファーストの会に負けた。もはや野党第1党とは呼べない」と突き放す声が聞こえてくる。

このままでは、小池氏の「"国民"ファーストの会」に、「政権批判票の受け皿」という役割を奪われるかもしれない。そうなれば次期衆院選でも惨敗は必至で、解党も視野に入ってくるだろう。

辻原修

ジャーナリスト

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(2017年7月10日フォーサイトより転載)

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