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経済苦境のはずの「ナイジェリア」に満ちる自信--白戸圭一

2017年01月12日 23時55分 JST | 更新 2017年01月12日 23時55分 JST

アフリカ経済が厳しい状況に直面している。

国際通貨基金(IMF)の2016年10月時点の予想では、2016年のサブサハラ・アフリカのGDP成長率は1.4%に終わり、2017年は2.9%になる見通しだという。人口増加率は年率2.6~2.7%だから、これでは1人当たりGDPはマイナスないしは横這いである。

この予想値が発表されたのは米国大統領選挙の前の月だったので、予想値の算定に当たって「トランプ当選」は織り込まれていない。今後、トランプ政権が様々な政策を打ち出していけば、世界経済に関する見通しは大幅な修正を迫られる可能性があるが、アフリカ経済が全体として厳しい状況にあることは疑いない。

 

とりわけ苦境に陥っているのは、原油価格下落の影響をまともに受けた産油国である。そのうちの1つナイジェリアに、昨年11月下旬に行ってきた。行き先はギニア湾に面した人口2100万の巨大都市ラゴスと、国のほぼ中央部に位置する人工的に建設された首都アブジャであった。

自国のポテンシャルを確信

ナイジェリアはサブサハラ・アフリカ49カ国のGDP総額の35%を一国で生産している地域大国だが、輸出の90%以上を原油に依存しており、経済は瀕死の重症である。IMFは2016年のGDP成長率がマイナス1.7%に終わると予想しているが、最終的な数値はこれを下回る可能性もある。ブハリ政権は積極財政で景気浮揚を図ろうとしているが、なにせカネがない。

外貨準備高は最高だった2008年のおよそ3分の1に減り、中央銀行が外貨の使用に厳しい制限をかけているため、原材料や部品の輸入ができない製造業が生産停止を余儀なくされている。東京の机上でマクロ経済のデータを精査している限り、ナイジェリア経済に明るい兆しはほとんど見えない。

ところが、そんなナイジェリアで興味深い体験をした。あくまでも主観の域を出ない話であることをお断りしておくが、少なくとも企業経営者、経営コンサルタント、法律家といった民間のナイジェリア人エリートと話をしている限り、彼らに「暗さ」を感じないのである。とにかく前向きで、バイタリティに溢れているのだ。

今回は1週間弱の滞在中に30件近い面談を重ねたが、彼らは現状の厳しさを認めながらも、自国の将来に対してほとんど確信に近いと言ってよいほどの自信を抱いていた。

これが筆者1人の印象であるならば、思い込みに過ぎないと一笑されそうだが、今回は筆者を含む日本人4人で行動を共にし、4人とも同じような感想を抱いた。首都アブジャでお会いした欧州のある大国の駐ナイジェリア大使が「ナイジェリア人は自国のポテンシャルを確信している点が最大の長所である」と言っていたのも印象的であった。

エリートの優秀さ

ナイジェリアのエリートたちは、とにかくよく働く。

活躍の分野はエネルギー企業、通信企業、食品加工業、会計事務所、法律事務所など多岐にわたり、とにかく多忙である。世界各地に出張し、膨大な数の書類やデータに目を通し、来客に対応している。

彼らに面談を申し込むと、恐らくは外出先でも会議中でもスマートフォンで、メールを受信しているのだろう。即座に返事があり、当日の、しかも数時間後に面談が実現したこともあった。面談では、彼らが自国及び世界の政治経済情勢について、極めて的確な理解と見通しを持っていることを痛感させられる機会が多々あった。

 

面談開始は時間厳守。「時間厳守? 当たり前じゃないか」と思う読者もいるだろうが、アフリカで仕事をした経験のある人にとって、「約束の日時に相手のオフィスを訪れたら休暇で旅行中だった」「面談が2時間遅れで始まった」などということが珍しくないのが、これまでのアフリカだったのである。

ナイジェリアのビジネスエリートたちの立ち振る舞いは、そうした旧態依然たるアフリカ社会の行動様式とは完全に一線を画していた。いや、日本の並のサラリーマンでは、彼らの能力の高さに太刀打ちできないだろう、というのが率直な感想であった。

 

ビジネスエリートたちと話をしていて気が付いたことの1つは、彼らの多くが、どうやら米英の名門大学・大学院の卒業生らしいことだった。

初対面の相手に個人的な生い立ちを根掘り葉掘り聞くわけにもいかないので、所属する組織のホームページやFaceBookを見て分かった範囲ではあるが、ハーバード大学のMBA取得者が複数いた。自分はハーバードを卒業し、ナイジェリアでビジネスを続けながら、2人の息子を英国の寄宿舎付きの中学に留学させている女性にも会った。

米国留学を経て各界リーダーへ

ニューヨークに本部を置くInstitute of International Educationによると、2015~2016年度現在、米国の大学・大学院では計104万3839人の外国人が学んでいる。出身国別で最多は中国の32万8547人で全体の31.5%を占め、インドの16万5918人(15.9%)、サウジアラビアの6万1287人(5.9%)と続く。

こうした中、ナイジェリアは1万674人で14番目に多い。ちなみに日本は9番目に多い1万9060人だが、日本出身者は4万人を超えていた2000年代初頭から一貫して減少を続けている。

 

長期的な趨勢を見ると、ナイジェリアがオイルブームに沸いていた1979~80年度当時、米国の大学・大学院で学ぶナイジェリア出身者は1万6360人で、日本出身者1万2260人を上回っていた。1984~85年にはナイジェリア出身者1万8370人に対し、日本出身者は1万3160人。当時20代前半から30代前半だったであろう彼らは現在50代から60代となり、各界のリーダーとなっているに違いない。

1990年代になると、ナイジェリアの政治的混乱と経済の停滞の影響を受け、米国の大学・大学院で学ぶナイジェリア出身者は2000人台にまで激減した。再び増加傾向に転じたのは、ナイジェリアの高成長が始まった2003年ごろだった。そして現在、サブサハラ・アフリカの国の中で、米国の大学・大学院に毎年1万を超える留学生を送り出している国は、ナイジェリアをおいてほかにない。

先進国への流出も

アフリカから先進諸国へ渡る人々に関しては、先進国のメディアが流布した「命からがら飢餓や紛争から逃げてきた社会の底辺層」との固定的イメージが存在する。だが、実際に先進諸国に渡るアフリカ人は底辺層ばかりではない。祖国で一定の高等教育を受けた後、先進諸国へ渡り、そのまま「移民」として定着してしまう人の多さがアフリカの特徴である。

 

経済協力開発機構(OECD)の2013年10月の報告書によると、世界各地からOECD加盟34カ国に流入した移民のうち、日本の高卒以上に当たる「第3次教育」の修了者は2011年時点で約2730万であり、このうちアフリカ出身者は1割強に当たる約290万人だった。

OECDはこの統計を基に「第3次教育を修了したアフリカ人のおよそ9人に1人はアフリカを離れ、OECD諸国へ移住している」と推定した。

一方、中南米で第3次教育を修了した人のうち、OECD諸国に移住する人は13人に1人。欧州では20人に1人、アジアでは30人に1人に過ぎなかった。アフリカで高等教育を受けた人は、世界の他の地域に比べて高い割合で、先進国に流出しているのである。

グローバル化の推進役

アフリカを飛び出す人が多いのは、アフリカ諸国の大学のレベルが総じて低く、知的エリート層の向学心に耐えられないからだとも言える。卒業後の就職のことを考えれば、働き口の少ないアフリカに残るわけにはいかない、という事情も大きいだろう。

 

そうした中、2003年ごろから約10年にわたって続いたアフリカ高成長の時代には、祖国にビジネスチャンスを見出して帰国するエリート層が一定程度存在したと思われる。

ビジネス・パーソンではないが、ハーバード大卒業後にマサチューセッツ工科大学(MIT)で博士号を取得し、世界銀行に3人しかいない専務(managing director)を務めた後にオバサンジョ、ジョナサン両政権の財務大臣に就任したナイジェリア人女性ンゴジ・オコンジョ=イウェアラは、帰国したナイジェリア人エリートの代表とも言える人物である。

 

残念ながら、欧米の大学・大学院で学んだアフリカ出身者のうち、どのくらいの人々が祖国へ戻って職を得たのかを示すデータを、筆者は見つけることができない。だが、今回ナイジェリアで出会ったビジネスエリートたちを見ていると、欧米で世界最高水準の教育を終えた後に祖国へ戻ったエリートたちは、間違いなくナイジェリア社会の内なるグローバル化の推進役になっていると思われる。

彼らの仕事ぶりは、非能率と自堕落が蔓延していたアフリカ社会に革命を起こしたといっても過言ではない。

 

ナイジェリア経済が停滞期に入ったことで、現在欧米で学んでいるナイジェリアの若者たちが祖国へ戻る動きは、一時的に鈍化する可能性がある。既に祖国で起業しているエリートの中にも、再び国外へ出て行く人がいるかもしれない。

官セクターは人材不足

もう1つ、気になることがある。それはナイジェリアで痛感した著しい「官民格差」である。洗練された立ち振る舞いで高い能力を発揮しているエリート層は、ほとんど民間セクターで出会った人々だった。

これに対し、今回、ナイジェリアの政府部門とも何件かの面談を実施したが、残念ながらこちらの方は、明らかに人材不足の感が拭えない。面談はしばしば時間通りに始まらず、組織のトップが延々と社交辞令を述べ、後ろに控えているスタッフたちは眠そうな顔をして、ただ「儀式」が終わるのを待っている。そんな十年一日の如き旧態依然たる面談が繰り返されたのは、すべて政府部門であった。

民間セクターによって生み出された富を、徴税と政策を通じて社会に再配分するのが政府の役割であり、その実務を担うのが官僚である。この営みを開発と呼ぶとすれば、ナイジェリアを含むアフリカ諸国は、今なお開発のために働く人材を欠いている。

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白戸圭一

三井物産戦略研究所国際情報部 中東・アフリカ室主席研究員。京都大学大学院客員准教授。1970年埼玉県生れ。95年立命館大学大学院国際関係研究科修士課程修了。同年毎日新聞社入社。鹿児島支局、福岡総局、外信部を経て、2004年から08年までヨハネスブルク特派員。ワシントン特派員を最後に2014年3月末で退社。著書に『ルポ 資源大陸アフリカ』(東洋経済新報社、日本ジャーナリスト会議賞)、共著に『新生南アフリカと日本』『南アフリカと民主化』(ともに勁草書房)など。

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(2017年1月11日フォーサイトより転載)