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北朝鮮「今ある脅威」ICBM(中)「米中露」それぞれの「思惑」--平井久志

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トランプ米大統領は7月28日、北朝鮮のICBM発射を受けて声明を出し、「無謀で危険な行為だ。米国はこのミサイル発射実験を糾弾し、こうした実験や武器が北朝鮮の安定を確保するためのものだという北朝鮮の主張を拒否する。現実にはまったく反対の効果が出る。世界を脅すことで北朝鮮は一層孤立する」と警告した。

その上で、米国は日韓など域内の同盟国を保護するために必要なすべての措置を取る、とした。

トランプに「次の手」はあるのか


さらに、トランプ大統領は7月29日のツイッターで、「中国には非常に落胆した。過去の愚かな指導者たちが、中国に対米貿易で多大な金をもうけさせてきたのに、中国は口先ばかりで、北朝鮮問題で何もしてくれていない。われわれは、もうこんなことは続けられない」と呟いた。

しかし、トランプ大統領に妙案はあるのだろうか。米国が取れる手段もそう多くはない。朝鮮半島で本格的な軍事行動を取れば、それは全面戦争に発展する可能性が高い。

『ニューヨーク・タイムス』は7月6日、米国のノーティラス研究所が作成した報告書を引用して、米軍が北朝鮮の核・ミサイル施設を攻撃し、北朝鮮軍が通常兵器で韓国を攻撃した場合、数時間で約3000人、北朝鮮がソウルを攻撃すると最高で3万人の死者が発生するとした。

また、開戦初日の死者数が30万人に達するという研究もあると報じている。

これが、マティス国防長官が繰り返し述べている「信じられないほどの規模の悲劇」(5月19日記者会見)が発生するという警告の意味するところだ。

そうした中で、米中央情報局(CIA)のポンペオ長官は7月26日付の保守紙『ワシントン・タイムズ』に掲載されたインタビューで、「大統領が『外交ではもう駄目だと判断した時』、ある政治的な目標を達成できる多様な選択案を大統領に提示する計画だ」と語り、秘密工作を含めたさまざまな選択肢を検討していると明らかにした。

トランプ政権の新たな北朝鮮政策は「最大限の圧力と関与」という言葉に集約された。その具体的な中身は(1)北朝鮮を核保有国として認めない(2)全ての制裁と圧迫を強化(3)「北政権交代」を推進せず(4)最終的には対話で問題を解決(米国務省のジョセフ・ユン北朝鮮担当特別代表が5月25日、訪米中の韓国の国会議員らと面会し、米国の新たな北朝鮮政策を説明)――という線で集約された。

公式的には「北政権交代」を推進せずとしながらも、そのラインを逸脱するような発言が政権中枢から出始めたことは、トランプ政権の苛立ちを示すものだ。

深まる米の「手詰まり感」


米国は7月11日と同30日にそれぞれ、北朝鮮のミサイル攻撃に備え、「高高度防衛ミサイル(THAAD)」を使って弾道ミサイル迎撃実験を行い、成功したと発表した。

また、米軍は7月4日のミサイル発射後の同8日に、グアムのアンダーセン米軍基地に配備している「死の白鳥」と呼ばれるB1B戦略爆撃機2機を朝鮮半島上空に飛来させ、韓国の江原道にある訓練場で、北朝鮮のミサイル発射台に見立てた目標物を韓国空軍とともに攻撃する訓練を行った。

さらに、B1B爆撃機は韓国軍との共同訓練を終えた後、九州周辺の空域で空自のF2戦闘機2機と共同訓練を実施し、日米韓3国の北朝鮮への軍事的な連携をアピールした。

7月28日のミサイル発射後の7月30日にも、米軍はB1B戦略爆撃機2機を朝鮮半島上空に飛来させた。米軍は北朝鮮がミサイル発射した約30時間後にB1Bを出撃させており、これまでで最も早い対応だった。

さらに米韓両軍は、北朝鮮がミサイルを発射した約6時間後の7月29日午前5時45分ごろ、韓国の日本海側で韓国軍が弾道ミサイル「玄武2」を、在韓米軍が戦術地対地ミサイル「ATACMS」をそれぞれ2発ずつ発射した。

米韓両軍は7月5日にも同様のミサイル発射訓練を行っている。

米韓両軍が北朝鮮のミサイル発射後すぐにミサイル発射訓練を行うことは、北朝鮮に融和的とされる文在寅政権にとっては強い対応だった。

しかし、米軍や米韓両軍が経済制裁を強化しながら、こうした軍事的な圧迫を加えても、北朝鮮によるミサイル発射などの追加的な軍事挑発を防止できる目途はない。米国にも手詰まり感が深まっているのが実情だろう。

中朝「血盟関係」に言及した習近平


中国外務省は7月29日、北朝鮮のICBM発射について、「国連安全保障理事会決議や国際社会の期待に背き、発射したことに反対する」と非難する談話を発表した。この上で「関係各国が慎重に対応し、事態をエスカレートさせることを防ぐべきだ」と関係各国に自制を求めた。

一方、中国共産党の機関紙『人民日報』の姉妹紙の『環球時報』は7月29日、北朝鮮のICBM発射に関連した「中国責任論を断固として拒絶する」と題する社説を掲載した。

社説は「トランプ米政権は、問題解決のために中国に対して今後、より強い圧力をかけてくるだろう」としながら、「中国は自らの国益を第1に考える必要がある」と強調した。

中国が北朝鮮にさらに強い圧力を掛けるべきだという米国の主張に、必ずしも同調すべきではないという考えだ。

米中関係は、習近平国家主席が今年4月に訪米し、トランプ大統領と首脳会談を行った当時とは明らかに変化している。南シナ海問題、米国の台湾への武器売却などで米中関係はきしみを見せている。

米中関係のきしみは中朝関係にも大きな影響を与えている。北朝鮮の『朝鮮中央通信』は2月23日に「チョン・ピル」という個人名で、「汚わらしい処置、幼稚な計算法」と題した論評を、4月21日にも同じ筆者による「他国の笛に踊らされるのがそんなにいいのか」と題した中国批判の論評を配信した。

この2つの論評は中国を名指しすることは避けたが、『朝鮮中央通信』5月3日付の「キム・チョル」名による論評は、中国を名指しして批判した。論評は、中国が米国と同調して制裁を科していることに対し、「朝中関係の根本を否定し親善の伝統を抹殺する容認できない妄動だ」とし、「朝中関係の『レッドライン』をわれわれが超えているのではなく、中国が乱暴に踏み付けにして乗り越えている」と強く批判した。

中朝関係の長い歴史の中でも、こうした名指し批判は極めて異例だった。

しかし、潮流は明確に変化した。習近平主席はG20出席のために訪れたドイツで7月6日、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領と初めての首脳会談を行った。

青瓦台関係者が韓国メディアに明らかにしたところでは、習近平主席は「北朝鮮とは血盟関係を結んできたし、多くの変化があったが、だからといって、その関係が根本的に変化することはない」と述べた。

北朝鮮が7月4日に「火星14」というICBMを発射した直後にもかかわらず、習主席の口から北朝鮮との「血盟関係」が語られたことは、韓国側にはショックだった。さらに習主席は、「国際社会が『中国は努力が足りない』といってきても、それを認めることはできない」と強調した。

中朝関係は「対立」から「親善」へ


さらに朝鮮労働党機関紙『労働新聞』は7月21日付で、「他人の手で火の塊を握らせる破廉恥な術策は通用しない」と題した論評を掲載した。この論評は7月4日の「火星14」の発射実験成功を強調しながら、「米国は、わが方がICBMを保有するようになった責任は『同床異夢である中国にある』『米国は中国にだまされた』と叫んで鬱憤を晴らす一方、中国南海(南シナ海)での『航行の自由』作戦の再開、台湾への武器売却、中国企業に対する『セカンダリーボイコット』の適用などのカードを繰り出し、中国に対して圧迫攻勢を掛けている」と米国を非難。

「米国が中国を駆り立ててわが方を圧迫したとしても、朝中両国人民が反帝反米抗戦を通じて血潮をもって結んだ友誼と親善の伝統を絶対に壊すことはできない」と「血潮をもって結んだ友誼と親善の伝統」を強調した。

約2カ月半前までの中国への悪口雑言が、嘘であるかのような変化である。

中国は今年秋に第19回党大会を控えている。党政治局常務委員7人のうち習近平主席、李克強首相を除く5人全員が定年制で交替する見通しで、激しい権力闘争が繰り広げられている。

中国としては今年秋から来年3月の全国人民代表大会で習主席が国家主席に再選出されるまでの間は、何としても中国周辺で不安定な状況が生まれることは避けたい。

米中関係が蜜月から対立に移行する中で、中朝関係は対立から親善へと移行しつつある。

ロシアの「ロードマップ」提示


ロシアも朝鮮半島問題への関与を深めている。中国の習近平主席はドイツでのG20参加の前にモスクワを訪問し、7月4日にロシアのプーチン大統領と公式会談した。

両首脳は同日発射された北朝鮮の「火星14」に「深刻な懸念」を表明したが、北朝鮮に核・ミサイルの開発を凍結するように求めると同時に、米韓側にも軍事演習の凍結を求めた。

会談後に出された共同声明で両首脳は、北朝鮮に国連安全保障理事会決議の順守を要求する一方、米韓に最新鋭迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」の韓国配備中止を要求した。

両首脳は朝鮮半島問題の解決のための共同対応を協議したとし、一種のロードマップを示したという。韓国紙『中央日報』はそのロードマップについて(1)北朝鮮の核・ミサイル試験の中断および韓米による大規模合同訓練の中断→(2)交渉開始→(3)武力不使用・不侵略・平和共存を含めた総体的原則の確定→(4)核問題を含むすべての問題の一括妥結、という内容だと報じた。

「一括妥結」の中には、朝鮮半島を含む東アジアの平和体制構築と米朝国交正常化まで含まれているとした。

これは中国が主張している「双中断」(北朝鮮が核・ミサイル開発を中断し、米韓が合同軍事演習を中断)「双軌並行」(北朝鮮の非核化と朝鮮半島の平和体制構築を並行協議)という考えに、ロシアの段階的問題解決論を加味して整理した提案とみられる。

こうした中ロ首脳の合意を受け、ロシア外務省のブルミストロフ巡回大使(6カ国協議次席代表)は7月22日から25日まで北朝鮮を訪問し、申紅哲(シン・ホンチョル)外務次官や崔善姫(チェ・ソンヒ)外務省北米局長と会談した。

同26日の『インタファックス通信』によると、同大使はロシア側の「ロードマップ」を北朝鮮側に説明し、北朝鮮側もこれに関心を示したという。

『朝鮮中央通信』によると、北朝鮮側は「米国の敵視政策や核による威嚇が根本的に清算されない限り、核と弾道ミサイルは交渉のテーブルに乗せず、核戦力強化の道から一歩も退かない」との立場を表明した。

ロシアは「ICBM」と認めず


さらに興味深いのは、ロシアは北朝鮮が7月4日に発射したミサイルも同28日に発射したミサイルもICBMとは認めず、中距離弾道ミサイルだと主張していることだ。

米国連代表部は北朝鮮の7月4日のミサイル発射に対して制裁強化を求める国連安保理の報道声明案を配布したが、ロシアは7月6日、北朝鮮が発射したミサイルはICBMではないとして発表を阻止した。

ロシアが政治的な判断でICBMではないとしているのか、ロシアの追跡ではICBMでないと判断しているのかは不明だ。後者であるなら、ロシアのミサイルに対する早期警戒能力に疑問を抱かざるを得ない。

米上院は7月27日、ロシアに対する制裁強化法案を98対2の圧倒的多数で可決した。制裁の緩和・解除に議会の事前審査を義務付け、トランプ大統領の権限を大きく制限する内容だが、この法案には、北朝鮮の原油輸入を禁じることやイランに対する追加制裁も含まれている。

米議会はロシア、北朝鮮、イランへの制裁を包括的に盛り込んだ法案を可決したわけだ。ロシアは翌28日、ロシアに駐在する米外交官の削減を米国に要求するなどの対抗措置を表明した。

ロシアが北朝鮮、イランと同列で包括的な制裁対象になったことは、国連安全保障理事会などでのロシアの対応にも影響を与えるとみられる。

ロシアはこれまで、朝鮮半島問題ではメインプレーヤーではなかった。しかし北朝鮮は、中国との関係が悪化するとロシアに接近し、ロシアは米国との対立が深まると北朝鮮を擁護する、という姿勢を見せ始めた。

7月4日の中ロ首脳会談は、米国に対して中ロが連携して対抗することを確認したといえ、その中心課題に北朝鮮問題がある。

ロシアが朝鮮半島問題のメインプレーヤーになるとは思えないが、国連安保理の常任理事国であり、国連の北朝鮮問題協議では米国の足を引っ張ることは可能であり、朝鮮半島問題での発言権を確保する動きは今後、強まるとみられる。(つづく)

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平井久志
ジャーナリスト。1952年香川県生れ。75年早稲田大学法学部卒業、共同通信社に入社。外信部、ソウル支局長、北京特派員、編集委員兼論説委員などを経て2012年3月に定年退社。現在、共同通信客員論説委員。2002年、瀋陽事件報道で新聞協会賞受賞。同年、瀋陽事件や北朝鮮経済改革などの朝鮮問題報道でボーン・上田賞受賞。 著書に『ソウル打令―反日と嫌韓の谷間で―』『日韓子育て戦争―「虹」と「星」が架ける橋―』(共に徳間書店)、『コリア打令―あまりにダイナミックな韓国人の現住所―』(ビジネス社)、『なぜ北朝鮮は孤立するのか 金正日 破局へ向かう「先軍体制」』(新潮選書)『北朝鮮の指導体制と後継 金正日から金正恩へ』(岩波現代文庫)など。

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(2017年8月7日フォーサイトより転載)