北朝鮮・核搭載ミサイルの衝撃(上)米国も認めた「現実の脅威」

北朝鮮は9月9日午前9時(日本時間同9時半)、北朝鮮北東部の咸鏡北道豊渓里の核実験場で5回目の核実験を行った。爆発規模はこれまでで最大であったとみられる。

北朝鮮は9月9日午前9時(日本時間同9時半)、北朝鮮北東部の咸鏡北道豊渓里の核実験場で5回目の核実験を行った。

同国の「核兵器研究所」は約4時間後に「核弾頭の爆発実験が成功裏に行われた」と声明を発表した。韓国国防省の推定では、爆発規模はTNT火薬で10~12キロトンとみられ、これまでで最大であった。

金正恩党委員長の3月指示を忠実に実践

別表にあるように北朝鮮はこれまで過去4回の核実験は3、4年の間隔を置いて実施してきた。核技術の進展にはそれなりに時間が必要であるためともいえる。

北朝鮮は今年1月の核実験を「水爆」と主張した。しかし、北朝鮮が行ったのは「ブースト型原爆」といわれる強化型原爆の実験という見方が有力だ。それも6キロトンという爆発規模を考えれば、「ブースト型爆弾」として完全な成功とはいえないとみられる。

北朝鮮が1月に核実験をやったので、ミサイル発射は続けても、核実験はないのではないかという見方もあった。北朝鮮のこれまでのやり方を考えれば、次回の核実験は「水爆」よりもさらに進化したものでなければならないと思われた。

本当の「水爆」なら、あまりに爆発規模が大きく豊渓里の実験場では無理という見方も多い。あり得るとすれば「ブースト型爆弾」の爆発をより効率的なものにするものではないかという見方が多かった。

しかし、北朝鮮は「核弾頭の爆発試験」という目的で今回の核実験を行った。爆発規模としては10~12キロトンと第4回核実験の6キロトンの倍近い爆発規模となっているが、それを強調せず、「核弾頭」に焦点を置いた発表をした。

爆発の威力を拡大し、それを誇張して発表するというこれまでの流れとは異なった発表だった。

北朝鮮メディアは3月15日に金正恩(キム・ジョンウン)氏が「弾道ロケットの大気圏再進入環境シミュレーション」を現地指導したと報じた。

金正恩氏はここで「核攻撃能力の信頼性をより高めるために、早いうちに核弾頭の爆発試験と核弾頭装着可能な数種類の弾道ロケットの試射を断行する」とし、「当該部門ではこのための事前準備を抜かりなくすること」を指示した。

北朝鮮はこれ以降、金正恩氏の指示に従い、300ミリ多連装砲、スカッド、ノドン、ムスダン、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)など各種のミサイル発射実験を続けた。

しかし、核実験はしなかった。今回、金正恩氏の指示で最後に残っていた「核弾頭の爆発試験」を行ったわけだ。北朝鮮は金正恩党委員長の指示を実に忠実に実践したわけである。われわれは、金正恩党委員長のこの発言をもっと注視すべきであった。

北朝鮮の核搭載ミサイルが現実的脅威に

「核兵器研究所」の名前で出た声明は「核弾頭の標準化・規格化によってわれわれは、いろいろな分裂物質に対する生産とその利用技術を確固ととらえて小型化、軽量化、多種化されたより打撃力の高い各種の核弾頭を決心した通りに必要なだけ生産できるようになり、われわれの核兵器化はより高い水準に確固と上がるようになった」とした。

声明で重要な点が2点ある。第1点は北朝鮮が核弾頭を「小型化、軽量化、多種化」したとしていることだ。これは核弾頭を弾道ミサイルに合わせて搭載できるような小型化に成功したということだ。

研究者によりいろいろな見解はあるが、日本を射程に入れているノドン・ミサイル(射程1300キロ)が搭載可能な核弾頭の重量は約700キロから1000キロ程度とみられている。今回の声明に通りであれば、北朝鮮は700キロから1000キロ程度の重力の核弾頭をつくったということになる。

実は、北朝鮮は2013年2月に行った第3回核実験の際にも「以前とは違い、爆発力が大きく、なおかつ小型化、軽量化された原子爆弾を使った」としていた。北朝鮮はこの時点でも「小型化、軽量化」を主張していたが、爆発させたのは「原子爆弾」であり、「核弾頭」ではなかった。

2013年の原子爆弾の「小型化」がどの程度のものか不明だが、今回は明らかに弾道ミサイルに搭載できる規模の小型化された核弾頭をつくり、その実験に成功したという意味であろう。

北朝鮮の第1回目の核実験は2006年であり、すでにそれから10年が経過した。外国の事例を見ても、10年で核弾頭ミサイルを開発するというのは、十分に可能な時間だ。

今回の実験前に発刊された2016年版「防衛白書」も「一般に、核兵器を弾道ミサイルに搭載するための小型化には相当の技術力が必要とされているが、米国、ソ連、英国、フランス、中国が1960年代までにこうした技術力を獲得したとみられることや過去4回の核実験を通じた技術的成熟などを踏まえれば、北朝鮮が核兵器の小型化・弾頭化の実現に至っている可能性も考えられる」と指摘している。

米国は従来「北朝鮮には弾道ミサイルに搭載できるほど核兵器を小型化する能力はまだない」という立場を取ってきた。

2013年3月に米国防総省傘下の国防情報局(DIA)が報告書で「北朝鮮は弾道ミサイルに搭載可能な核兵器を持っている」という分析をし波紋を広げた。当時は、米政府は情報機関全体の見解ではないと火消しに走った。

しかし、今回の米国の反応は違った。米国防総省のデービス報道部長は「(北朝鮮の)主張は真実だと見なす必要がある」と指摘し「その能力をすでに持っているという前提に立って、できるだけ早くミサイル防衛(MD)態勢を構築する」と述べた。

米国も北朝鮮が核弾頭搭載の弾道ミサイルを保有したという認識に立ち始めた。北朝鮮の核弾道ミサイルは現実の脅威となったとみるべきだろう。

「標準化、規格化」言及は量産化の意味か

声明の中で関心を引く第2点は「戦略弾道ロケットに装着できるように標準化、規格化された核弾頭の構造と動作特性、性能と威力を最終的に検討、確認した」という主張だ。

「標準化、規格化」という言葉には、彼らが核弾頭を量産化する意味が含まれている。「より打撃力の高い各種の核弾頭を決心した通りに必要なだけ生産できるようになり」という表現にもその意思が含まれている。

北朝鮮は5000キロワットの実験用原子炉を稼働させ、その使用済み核燃料を再処理して兵器用のプルトニウムを生産している。

北朝鮮の原子力研究院は今年8月17日、共同通信の書面インタビューに回答し「黒鉛減速炉(原子炉)から取り出した使用済み核燃料を再処理した」と明言した。北朝鮮は6カ国協議の合意に基づき5000キロワットの実験用原子炉の稼働を止めていたが、2013年に再稼働を表明した。

クラッパー米国家情報長官は今年2月に、スパイ衛星などの分析をもとに、北朝鮮が数週間から数カ月内に再稼働させた原子炉から使用済み燃料を取り出し再処理する可能性が高いと指摘していたが、北朝鮮がこれを公式に認めた。

米専門家らは1年間で核兵器1~3個分に相当するプルトニウム約6キロ前後を追加生産することが可能とみている。北朝鮮は生産量を明らかにしなかったが、プルトニウム約6キロ前後を追加生産した可能性がある。

また、寧辺のウラン濃縮施設で濃縮ウランを生産している。米国などはこれとは別の公開していないウラン濃縮施設があるとみており、最低でも2カ所でウラン濃縮を続けているとみられる。北朝鮮は世界でも有数のウラン埋蔵国であり、原料には不自由しない。

スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は北朝鮮の核兵器について昨年は6~8個保有と推定していたが、今年6月の報告では最大10個に増加とした。

また、米シンクタンク、科学国際安全保障研究所(ISIS)も今年6月の報告書で、北朝鮮は過去1年半の間に核兵器を4~6個増やし、現在の保有数は13~21個に上ると推計している。

米ジョンズ・ホプキンズ大客員研究員のジョエル・ウィット氏は昨年2月に、北朝鮮が最悪の場合、2020年までに核兵器100個を製造できるとの分析を発表した。

同氏はこの時点で北朝鮮が保有する核兵器はプルトニウム型とウラン型を合わせて10~16個と推定。5年後の保有数について、核開発にほとんど進展がない場合は20個、ある程度順調に進展した場合は50個、予想以上に急速に進展した場合は100個と予測した。

2010年11月に訪朝し北朝鮮の寧辺のウラン濃縮施設を目撃した米国の専門家、ジークフリード・ヘッカー氏は、ジョンズ・ホプキンズ大の「38ノース」に寄稿した報告で、北朝鮮は年内に約20発の核爆弾を製造するのに十分な核物質を確保し、高濃縮ウランだけで年間最大で150キロを作り出すことが可能だと指摘した。これは核兵器6発前後の製造が可能だ。

「核兵器研究所」とは

今回の核実験では「核兵器研究所」が実験は成功したという声明を発表した。今年1月6日の核実験で「政府声明」が発表されたのに比べるとかなり格落ちだ。第1回から第3回の核実験では朝鮮中央通信の報道という形で核実験が発表された。

「核兵器研究所」(朝鮮語では核武器研究所)が北朝鮮メディアに最初に登場したのは3月9日に報道された金正恩氏による核兵器研究部門の科学者、技術者への現地指導の時とみられる。

報道は「党中央委副部長の洪承武(ホン・スンム)同志、金正植(キム・ジョンシク)同志と党中央委軍需工業部幹部たち、核兵器研究所の科学者、幹部たちが出迎えた」と伝えた。

声明は「朝鮮民主主義人民共和国核兵器研究所」という名称になっていることから、党や軍の機関ではなく、国家機関とみられる。こうしたことを考えれば、今年3月以前に、金正恩党委員長が核兵器の開発のために各界の科学者、技術者を集めてつくった核兵器開発のためのタスクフォース機関とみられる。

北朝鮮は5回目の核実験の発表を極めて実務的に処理したといえる。

ソウル上空で使用なら62万人死亡

北朝鮮は核実験を繰り返すたびに爆発規模を強大化している。北朝鮮が「水爆」と主張した第4回核実験の爆発規模は6キロトンとみられているが、韓国政府は、今回は10~12キロトンとみている。

広島に投下された原爆は16キロトン、長崎は21キロトンで、今回の実験は、広島型原爆の60~70%程度の爆発規模とみられる。

韓国紙・朝鮮日報は9月10日付で、米国防総省が1998年に米軍基地があるソウルの龍山上空で15キロトンの原爆が使用された場合、半径4.5キロ以内は焦土化し、最大で約40万人が即死、約22万人がその後死亡し、計62万人が死亡するというシミュレーションを秘密でまとめたことがあると報じた。

米国やロシアの核兵器の爆発規模の100キロトンと比べると北朝鮮の現在の10~12キロトンはまだ小規模だとは言えるが、その被害規模を考えるならば、それが「小規模」だと言える水準ではない。

北朝鮮の核施設への先制攻撃などを主張する人もいるが、朝鮮半島ではもはや軍事的手段は現実味を失っている。米国のクリントン政権は1994年に北朝鮮への空爆を検討したが、当時の金泳三(キム・ヨンサム)大統領の反対で実施できなかった。

朝鮮半島では核兵器を使わなくても、長距離砲などでソウルを火の海にすることは可能だ。北朝鮮の軍事施設は地下化されており、1度にすべてを壊滅することはまず不可能である。

北朝鮮が核弾頭を搭載した弾道ミサイルを持ったことで、さらに軍事的な選択は困難になった。

自らの核・ミサイル技術を確認した6カ月

前述したように、北朝鮮は2013年2月の第3回核実験で「以前と違い、爆発力が大きく、なおかつ小型化、軽量化された原子爆弾を使い、高い水準で完全かつ完璧に実施された今回の核実験」と発表した。

北朝鮮は第3回目の核実験で核兵器の「小型化、軽量化」を実現したと主張していたわけだ。3回目の核実験では「原子爆弾」としているが、今回は「核弾頭」になったところが違いだ。

北朝鮮メディアは3月9日に、金正恩氏が核兵器研究部門の科学者、技術者と会って核の兵器化事業を現地指導したと報じた。金正恩氏はここで「核弾頭を軽量化して弾道ロケットに合わせて標準化、規格化を実現したが、これが本当の核抑止力だ」と語っている。

この発言が事実なら、北朝鮮はこの時点で、弾道ミサイルの種類に合わせた核弾頭の製作を実現していたということだ。それを約6カ月後に実験したわけだ。

北朝鮮のこの半年間の動きを見ていると、自らが開発したり実戦配備したりした核やミサイルの性能を確認する期間だったような気がする。

例えば、中距離弾道ミサイルの「ムスダン」(2500~4000キロ)は、韓国では既に実戦配備されているミサイルとされているが、今年4月15日に発射するまでは実際に発射されることはなかった。この時は発射に失敗したが、6月22日に6回目の発射で成功した。

中距離弾道ミサイル「ノドン」は既に200発以上を実戦配備しているとみられるが、これまでは射程の1300キロを飛ばしたことはなかった。日本など隣国と近く、北朝鮮はミサイルを自由に発射する地理的環境にない。

だが、8月3日にノドンを発射し、秋田県沖約250キロの日本の排他的経済水域内に落とした。飛距離は約1000キロで北朝鮮がこれまでミサイルとして発射したものでは最長距離だった。

北朝鮮は9月5日には弾道ミサイル3発を発射し、3発とも約1000キロ飛行し、北海道の奥尻島の西沖約200~250キロに落下した。聯合ニュースは9月16日、韓国政府筋の話として、3発のミサイルはいずれも半径1キロ内に落ちたと報じた。

これまでのノドン・ミサイルの平均誤差半径(CEP)は最小で2キロ、最大で3~4キロと命中精度が低いとみられていたが、大幅に命中精度を上げたとみられる。

このミサイル3発についてはノドンではなく、スカッドの改良型であるスカッドERという見方も出ている。使われた移動式発射台がスカッドに使われる4軸車輪で、ノドンの場合に使われる5軸車輪でなかったためスカッドだという分析だ。

また、弾頭部分が尖った形態で、ほ乳瓶のように丸いノドンとは異なっていた。一方、ミサイルの飛行軌道がノドンと似ているためノドン・ミサイルという見方もある。これまでのノドンの弾頭部分を改良し、発射台についても多種化しているとの分析だ。

北朝鮮はこれまで1度も試験発射したことのない中距離弾道ミサイル「ムスダン」(2500~4000キロ)を実戦配備するなどしてきた。これはそのミサイルの性能が確立されていなくても、実践配備することで相手国を威嚇する効果を狙ったものとみられる。

米国はムスダンの実際の能力が分からなくても、それが実戦配備されればグアムを射程に入れたミサイルが実勢配備されたという仮定で対応するしかない。

失敗を繰り返したムスダンはミサイル下方に羽根のような翼(グリッドフィン)を付けて安定性を高めた。ノドンは射程1300キロといわれるが、実際には長距離は飛ばしていなかった。今回は最大射程に近い1000キロを飛ばし、命中精度の向上を確認した。

核兵器も2012年2月に「小型化、軽量化」できたとしていたが、それはまだ核弾頭となっていなかった可能性がある。金正恩氏は今年3月9日報道の現地指導で、小型化された核弾頭の模型とみられる物体の前で「核先制打撃権は決して米国の独占物ではない」と米国を威嚇した。

われわれは金正恩氏が語った核、ミサイルの実験指示の言葉を再度確認する必要がある。彼は「核攻撃能力の信頼性をより高めるため」に実験をすると明確に語っていた。

つまり、北朝鮮が過去約6カ月に行ってきた行動は、新たに開発したものを実験すると同時に、これまでに開発したミサイルや核兵器の性能も確実にチェックし、有事の実戦に使えるようする意図があったのではと考える。

ある意味では、自分たち自身も自信のなかった核・ミサイルを点検、実戦化したといえる。

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平井久志

ジャーナリスト。1952年香川県生れ。75年早稲田大学法学部卒業、共同通信社に入社。外信部、ソウル支局長、北京特派員、編集委員兼論説委員などを経て2012年3月に定年退社。現在、共同通信客員論説委員。2002年、瀋陽事件報道で新聞協会賞受賞。同年、瀋陽事件や北朝鮮経済改革などの朝鮮問題報道でボーン・上田賞受賞。 著書に『ソウル打令―反日と嫌韓の谷間で―』『日韓子育て戦争―「虹」と「星」が架ける橋―』(共に徳間書店)、『コリア打令―あまりにダイナミックな韓国人の現住所―』(ビジネス社)、『なぜ北朝鮮は孤立するのか 金正日 破局へ向かう「先軍体制」』(新潮選書)『北朝鮮の指導体制と後継 金正日から金正恩へ』(岩波現代文庫)など。

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(2016年9月21日「新潮社フォーサイト」より転載)

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