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「北朝鮮」を叩き潰したい米国に「正当性作為」のシナリオはあるか--林吉永

警鐘の意味も込めて敢えて記したい。

2017年08月30日 13時00分 JST | 更新 2017年08月31日 13時15分 JST

極論と思われるかもしれないが、あり得ぬことではないだけに、警鐘の意味も込めて敢えて記したい。

北朝鮮最高指導者金正恩(キム・ジョンウン)は、弾道ミサイルの発射目標をグアムに設定したと公言し、対米挑発をエスカレートさせている。8月29日早朝には、わが国の北海道上空を通過し、北太平洋上に落下するミサイルも発射した。

こうした状況下、米国は、座して自国への「ミサイル発射」を待つわけがなく、軍事力を行使して北朝鮮を叩く機もうかがっているはずだ。そのために米国は、中国、ロシアが反対しても軍事力を行使できる正当性の確保に腐心していると思われる。対話の姿勢は軍事力の担保を得てこそ強みを増す。

北朝鮮制裁強化が国連安全保障理事会で決議(2017年8月5日)されても、当事国が「われ関せず」を決め込んでいる限り解決は期待できない。むしろ軍事的な「敵対意識」が高まり、米太平洋軍や韓国軍は、情報収集及び警戒態勢を高いレベルに上げているだろう。

2000年6月、金大中(キム・デジュン)韓国大統領(当時)の北朝鮮訪問時、「韓国軍の水原航空団所属戦闘機は、全機がミサイルと機銃弾を搭載し、いつでも実弾を発射できる状態で飛行訓練していた」と、韓国にいた筆者は韓国軍関係者より側聞している。現在進行中の米韓合同軍事演習(2017年8月21日~31日)においても、即応態勢を布(し)いているに違いない。

正当性のための「作為」

米国における軍事力行使の発端がどのようなものかは、冷戦期以降の米国戦争史からうかがうことができる。そこには、正当性を担保するため、米国が身内の血を流す犠牲を払ってまで「作為」した形跡があった。

たとえばベトナム戦争時、米軍の北爆(1965年2月)は、米艦艇が故意にトンキン湾を領海侵犯し、北ベトナムの攻撃を誘発(1964年8月2日~4日)したことが契機である。1971年6月、『ニューヨーク・タイムズ』が「ペンタゴン・ペーパーズ」――国防総省国際安全保障局国際安全保障問題担当次官補(当時)ジョン・T・マクノートンが命じて、後の国務省軍政局長レスリー・H・ゲルブが中心になってまとめ、ポール・C・ウォンキ国防次官補に提出された「トンキン湾事件に関する極秘報告書」――を入手、米国が仕組んだ戦争であったことを報道した。

イラク戦争は、米国が作り上げた時代精神 "Illegal, but legitimate(違法だが正当)"(開戦直前の、極東米軍対象の新聞『Stars & Stripes』の見出し)が正当性の看板であった。イラクの大量破壊兵器保有の疑いに対する「先んじて芽を摘む」"Prevention(予防)"と「大量破壊兵器使用抑止」のためという"Pre-emption(先制)"が正当性を補完した。

米国の「思う壺」になるか

いま米国は、北朝鮮攻撃の機を探っているはずである。それは、「米国と米国民の生命財産に直接の危害が及ぶ事態を対象とする個別的自衛権発動」、あるいは、「日本や韓国に危害が及ぶ事態に対する集団的自衛権発動」であって、予防のための先制も考慮される。

「米韓合同軍事演習」や「米空母艦隊の遊弋(ゆうよく)」は、「トラップ(罠)」という文脈において、強い軍事的刺激を及ぼし北朝鮮が手出しする状況を作為する意図さえうかがえる。米国は、北朝鮮が米国の思う壺に嵌(はま)るのを待ち構えているのである。

北朝鮮に「虚仮(こけ)にされた」米国、わけてもトランプ大統領は、北朝鮮を叩き、金正恩を追い詰めたいだろう。「America the Great(強いアメリカ)」標榜への邪魔だてに対する感情の高ぶりや苛立ちは尋常ではないはずだ。他方で、金正恩にフセイン同様の運命をたどらせる「攻撃の正当性」に確信が持てないかぎり、「奔放に判断、決心する政治主導」は、ベトナム戦争、イラク戦争など「米国の評判を貶め、正当性を批難された軍事力行使」に学んだ理性に抑制されるはずでもある。

犠牲を払う覚悟

ならば逆に、「金王朝自爆」とも言える北朝鮮が先制するケースはあるか。その行為が、世界最強の軍事大国に「正当性」を与えてしまうことは、太平洋戦争における日本の失敗に学んでいるはずだ。  であれば、金正恩の選択は、米国相手に引き分けの「名誉」と「代償」を得ることである。代償の第1が「現体制維持」、第2が「核兵器保有の認知」、第3が「国際社会における地位の向上」、第4が「無償経済援助」ではないか。思いが叶えば暴力国家の面目躍如である。

米国は、北朝鮮の「国際秩序に対する挑戦とその背景にある弾道ミサイル」を消し去ることができるのか。米朝もし戦わばその戦争に日本が巻き込まれるのは自明である。日本国民にはいま、1億総評論家から抜け出て、犠牲を払う覚悟が求められる可能性を考慮することが求められているのではないか。(林 吉永)

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林吉永 はやし・よしなが NPO国際地政学研究所理事、軍事史学者。1942年神奈川県生れ。65年防衛大卒、米国空軍大学留学、航空幕僚監部総務課長などを経て、航空自衛隊北部航空警戒管制団司令、第7航空団司令、幹部候補生学校長を歴任、退官後2007年まで防衛研究所戦史部長。日本戦略研究フォーラム常務理事を経て、2011年9月国際地政学研究所を発起設立。政府調査業務の執筆編集、シンポジウムの企画運営、海外研究所との協同セミナーの企画運営などを行っている。
関連記事 (2017年8月30日フォーサイトより転載)