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北朝鮮の外交攻勢(下)米国が強める「圧迫」と「協議継続」

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ベトナムを訪問した北朝鮮の崔泰福(チェ・テボク)党副委員長は6月6日にハノイで、ベトナムのチャン・クオック・ブオン共産党政治局員やグエン・フー・チョン共産党書記長と会談した。崔泰福副委員長は、ベトナム側へ金正恩(キム・ジョンウン)党委員長のメッセージを伝え、「責任ある核保有国として世界の平和と安全守護に積極的に貢献する」と強調した上で、ベトナムとの伝統的な友好関係を強化していくと表明した。

チョン書記長は、金正恩氏の党委員長就任や党大会開催に祝意を示し「北朝鮮との友好関係をさらに発展させるのはベトナムの確固不動の立場だ」と応じた。

崔泰福副委員長は翌7日にはラオスのビエンチャンでブンニャン・ウォラチット国家主席と会談し、「ラオスとの伝統的な友好関係を発展させていくのは朝鮮労働党の不変の立場だ」と表明、金正恩党委員長のメッセージを伝達し、党大会について説明した。ブンニャン氏は「長い歴史を持つ両国間の協力関係を今後、一層強化していく」と応じた。

ストックホルムでは米朝非公式協議

一方、スウェーデンのストックホルム郊外では、米朝双方は5月下旬に非公式協議を行った。北朝鮮の韓成烈(ハン・ソンリョル)外務省米州局長(元国連次席大使)と崔善姫(チェ・ソンヒ)外務省米州局副局長らは5月26日に平壌を出発、北京を経由してスウェーデンへ向かった。

米朝双方はスウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)が開くセミナーに出席する形で協議を行った。米国側からは米国務省で朝鮮担当課長、日本部長、在韓米大使館公使、筆頭副次官補(東アジア・太平洋担当)などを歴任した朝鮮半島情勢に詳しい元外交官でブルッキングズ研究所の非常勤上級研究員であるエバンズ・リビア氏が出席した。

米朝双方は5月28日から30日までの3日間で延べ20時間にわたる協議を行った。協議内容は明らかになっていないが、リビア氏がその内容を国務省やホワイトハウスに報告するのは間違いない。

実は、金正恩政権になっての米朝間の非公式協議はこれが最初ではない。米朝協議は最近では、昨年12月にもスウェーデンで行われた。それ以降、米朝間では1、2カ月に1回くらいの割合で非公式協議が続けられている。

筆者は本サイトの「北朝鮮『対南担当』は誰に(下)韓国が恐れる強硬派『金英哲』就任も」(2016年2月3日)の中で、上述の崔善姫副局長が1月28日に北京空港に姿を見せ、米国のソン・キム北朝鮮担当特別代表が1月28~29日に北京を訪問したことから米朝接触の可能性を指摘した。その後の取材で、この際にソン・キム代表と崔善姫副局長の接触はなかったことが分かった。

しかし、それは米朝接触がなかったという意味ではない。崔善姫副局長は欧州へ向かい、そこで米国側と今回と同じような「1.5トラック」(半官半民)の非公式協議を行ったとみられる。また、ソン・キム代表は北京で、崔善姫副局長ではない別の人物と非公式協議を行ったようだ

米国は日韓と連携し、北朝鮮への制裁強化を行い、圧迫を強めている。しかし、その一方で国務省OBや学者などが参加する「1.5トラック」の非公式協議を続けている。それは、米国の次期大統領が誰であれ、次期大統領の任期中には北朝鮮の核・ミサイルが米国の現実的な脅威になるのは確実だからだ。 

米国は北朝鮮と交渉はしないが、北朝鮮が何を考えているかは把握しなければならない――それが非公式協議を続けている理由だ。米国の多くの北朝鮮専門家は、北朝鮮の核・ミサイル政策を否定しながらも、次期米政権は北朝鮮と交渉をせざるを得なくなるとみている。その意味で、米次期政権の朝鮮半島チームが固まる来年夏までは、現在のような「1.5トラック」を使った米朝の非公式協議が続くとみられる。

北朝鮮の第7回党大会に関心が集中している中で、クラッパー米国家情報長官が5月4,5両日、韓国を非公開で訪問した。同長官の訪韓は2014年5月以来2年ぶりだった。同長官は韓民求(ハン・ミング)国防部長官や国家情報院関係者と協議を行った。
 
韓国紙、中央日報は5月7日付で、クラッパー長官は北朝鮮がかねて主張している平和協定に対する韓国政府の立場を打診したと報じた。同紙によると、同長官は「米国が北朝鮮と平和協定に関する議論をする場合、韓国がどの程度まで譲歩できるのか?」という質問を出したという。同長官のこうした動きは、中国が平和協定の必要性を強く主張しており、北朝鮮も党大会後にこの問題を取り上げることが予想されるため、米国がこうした局面に備えるためとみられたと報じた。

韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領は6月6日に朝鮮戦争の犠牲者を追悼する「顕忠日」の式典で「北が非核化の道を選択し対話の場に出てくるまで、国際社会と緊密に協力し、強力な制裁と圧迫を続ける」と延べた。当面は「制裁と圧迫」で、「対話」はないという姿勢を示した。

しかし、米国は米次期政権の対北朝鮮政策を見通しながら、平和協定の問題についての論議も水面下で始めているとみるべきだろう。共和党のトランプ政権になればどうなるか分からないが、民主党のクリントン政権になれば、一連の米朝非公式協議や平和協定論議の下準備は意味を持ってくる。朴槿恵政権はあと1年半で終わるが、米国の次期政権はいつまでも朴政権に付き合うわけにはいかないだろう。

中国の北京で6月21~23日に6カ国協議と同じ構成国の「1.5トラック」のメンバーが集まる国際学術会議「北東アジア協力対話」が開催される予定だ。この学術会議は毎年、場所を変えて開催されている。昨年は東京で開かれたが、北朝鮮は参加せず、他の5カ国が参加した。2006年に東京で開催された時は金桂冠(キム・ゲグァン)外務次官(当時)が参加し、その後の6カ国協議再開につながった。

この会議の中の「朝鮮半島の平和と発展の障害物克服:安保と非核化」というセッションには6カ国協議に参加している各国の首席代表や次席代表クラスが参加する見通しである。今年は開催地が北京ということもあり、北朝鮮が出席する可能性が高いとみられている。韓国紙、中央日報は6月9日、崔善姫副局長が参加する予定と報じた。

中国は6カ国協議の再開を強く求めているだけに、この「ミニ6カ国協議」で北朝鮮と他の5ヵ国の間で何らかの「接点」が見い出せるかどうかが注目される。しかし、崔善姫副局長は原則論をぶつ傾向が強く、楽観は禁物だ。

「資金洗浄懸念先」指定と米中の葛藤

米国は6月1日、北朝鮮を「マネーロンダリング(資金洗浄)の主要懸念先」に指定した。これは米愛国法に基づく措置で、手続きが完了すれば、北朝鮮は米金融機関と取引ができないだけでなく、第3国を通じたドル取引もできなくなる。現実の問題としては、中国の金融機関を通じたドル取引もできなくなることが大きな打撃となるとみられる。

米国は2005年にマカオの銀行「バンコ・デルタ・アジア」(BDA)が北朝鮮のマネーロンダリングに関係した疑いがあるとして、BDAを「資金洗浄の主要懸念先」に指定した。今回は1銀行ではなく北朝鮮そのものが指定されたわけなので、北朝鮮としてはより深刻な打撃を受けるだろう。同時に、この措置は、北朝鮮だけでなく、北朝鮮の貿易の90%を占め、北朝鮮と最も金融取引の多い中国を対象にしたものだともいえる。

だが、米国が実際に、中国の金融機関に「制裁」を掛けることができるかどうかは別の問題だ。そうなれば、米中間の大きな経済衝突になるからだ。しかし、中国の金融機関が面倒くさいことに巻き込まれるのを嫌がり、北朝鮮との取引を自主規制する可能性は高い。

そうなれば、北朝鮮は中国でドルによる貿易決済をするのが難しくなり、現金やバーター貿易という方向に行く可能性がある。制裁の影響から逃れるために、北朝鮮がドル取引を避け、中国の人民元での取引にすることも考えられるが、そうなれば、北朝鮮経済はますます中国の影響圏に取り込まれるだろう。

また、ニューヨーク・タイムズ紙は6月2日、米商務省が最近、中国の携帯端末製造企業「華為(ファーウェイ)」に対して、米国の技術の入った製品を北朝鮮、シリア、イラン、キューバ、スーダンなどに輸出した過去5年間の内訳を提出するよう求めたと報じた。米国は米国の技術が一定以上入った製品をこうした制裁対象国に輸出することを禁じているが、「華為」がこれを破った疑いがあるということだ。米国が自国の安保や利害を侵害したと結論を下せば、華為は米国の部品や技術を使用できなくなり大きな打撃を受けるとみられる。

米国のこうした一連の対応は北朝鮮だけでなく、事実上、中国をも対象にしている点に注目すべきだろう。米国は北朝鮮を圧迫するだけでなく、中国が北朝鮮を圧迫せよと圧迫しているわけだ。ある意味では、習近平総書記が李洙墉(リ・スヨン)副委員長に示した「中朝関係重視」の政策変更を迫っているわけである。中国がこれに屈するのか、米国のさまざまな圧迫の中で反撃に出るのか、北朝鮮をどこまで擁護するのか選択を迫られているともいえる。

朴槿恵政権の全面的圧迫は成功するか

本稿で述べたように、韓国の朴槿恵政権は北朝鮮にあらゆる面で圧迫を強化する方針だ。韓国外務省は6月2日に外務省スポークスマン談話を出し、米国が北朝鮮を資金洗浄懸念先に指定したことを高く評価した。談話は「今回の措置は北朝鮮の核開発を認めないという国際社会の断固たる意思を見せつける具体的な措置」と評価した。

しかし、北朝鮮への経済制裁が効果を生み出すには時間が掛かる。2、3カ月でどうなるものではない。問題はこうした圧力を掛けている朴槿恵政権は4月13日の総選挙での与党大敗で次第にレームダック化していることだ。新国会では議長に野党「共に民主党」の重鎮である丁世均(チョン・セギュン)氏が選出された。

朴槿恵大統領はレームダック化を避けるために、自らの対北朝鮮「韓半島信頼プロセス」が失敗したことを認めず、北朝鮮への強硬一辺倒の政策を強めている。問題は朴槿恵大統領に残された時間は1年半しかないことだ。それまでに決着が付くとは思われない。

だが、北朝鮮の国際的な孤立も著しい。冷戦時代には、リビア、シリア、イラン、エジプト、ナイジェリア、ウガンダ、ルーマニア、カンボジア、キューバなどの各国と特殊な友好関係を築いてきた。しかし、冷戦の崩壊でルーマニアはチャウシェスク大統領が人民に殺され、中東の民主化で、リビアのカダフィ氏も悲惨な最期を遂げ、ナイジェリアも体制が変わった。

長く北朝鮮を支えて来た中国、ロシアは冷たい姿勢で、もはや同盟国とは言い難い。この孤立感が核・ミサイル開発を推進した大きな理由の1つだった。今、残った数少ない友好国も、北朝鮮との関係を考え直そうとしている。

問題なのは、北朝鮮は、国際的な孤立を深めれば深めるほど核・ミサイルへの依存度を高めていることだ。北朝鮮をコーナーに追い込むだけで、この危機は回避されるのであろうか。経済制裁だけではおそらく体制崩壊は難しい。ここでも中国の対北朝鮮政策が北朝鮮の行方を決めるといえる。その中国は北朝鮮を捨てることはできない。やはり、中国を含めた国際社会は圧迫を加えつつも「出口」を探すしかない。対話への道筋を準備する必要があるのではないだろうか。

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平井久志

ジャーナリスト。1952年香川県生れ。75年早稲田大学法学部卒業、共同通信社に入社。外信部、ソウル支局長、北京特派員、編集委員兼論説委員などを経て2012年3月に定年退社。現在、共同通信客員論説委員。2002年、瀋陽事件報道で新聞協会賞受賞。同年、瀋陽事件や北朝鮮経済改革などの朝鮮問題報道でボーン・上田賞受賞。 著書に『ソウル打令―反日と嫌韓の谷間で―』『日韓子育て戦争―「虹」と「星」が架ける橋―』(共に徳間書店)、『コリア打令―あまりにダイナミックな韓国人の現住所―』(ビジネス社)、『なぜ北朝鮮は孤立するのか 金正日 破局へ向かう「先軍体制」』(新潮選書)『北朝鮮の指導体制と後継 金正日から金正恩へ』(岩波現代文庫)など。

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(2016年6月15日「新潮社フォーサイト」より転載)