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パリ同時テロ:「治安体制の見直し」も浮上か

2015年11月14日 21時32分 JST | 更新 2016年11月14日 19時12分 JST

 パリで同時テロが起こった。オランド大統領が観戦していた仏独戦の国立サッカー競技場のそばのカフェでの爆弾テロ。アメリカ人ロックグループの演奏会場では人質をとって立てこもった犯人4人が射殺されたが、80人の犠牲者がでた。全部で6カ所で銃撃戦や爆発があったと伝えられる。少なくとも120人の死者と200人のけが人が出た。

 オランド大統領はただちに声明を発表し、「恐怖だ。テロリストたちの望むことは、私たちを脅し、私たちを恐怖の虜にすることだ」とテロリストの脅威を指摘しながら、「フランスは恐怖に対して、自衛し、力を動員し、テロリストたちを説き伏せることができる国だ」と断固とした決意を語った。同時にフランス全土に非常事態宣言を発令し、国境の閉鎖を指示した。

「シャルリー・エブド事件」との相違点

 今の段階で詳しい犯人像は分からないが、劇場で人質をとった犯人たちが「アラーは偉大なり」と語り、フランスのシリア空爆について語っていたという証言から、「イスラム国」(IS)につながるイスラム過激派であるといわれている(その後、オランド大統領は、事件はISの犯行との見方を示し、ISは犯行声明を出した)。イスラム教徒によるテロという点では今年1月に勃発した「シャルリー・エブド」社襲撃事件との類似性や関連性も推測されるが、そのことも含めていくつかの論点があるように思う。

 シャルリー・エブド事件は基本的には社会統合(フランスは伝統的に同化政策の国であるが、近年は多文化主義の波の中で多様性の容認に傾斜している)に適応できない移民第2世代たちが、いわゆる「ホーム・グロウン(地元出身の)テロリスト」となって、イスラムを侮蔑するマスメディアに対する反発から起こったテロであった。文化摩擦と社会統合とが重なった中で、「言論の自由」が問題となった。

 だが、今回狙われたのは、新聞社ではなく、一般市民が多数集まり、大統領が臨席したサッカー競技場周辺のカフェと劇場であった。無差別テロの色合いが強いのではないか。またその規模も大きく組織性も高い。シャルリー・エブド事件よりも事態はさらに複雑である。

 シャルリー・エブド事件の大きな背景となったのは移民第2・第3世代の社会統合の失敗であった。名前だけで「フランス人」「ヨーロッパ人」でないことが明らかなので、就職の面接もできない。宗教的慣習からフランス社会に溶け込めない。1995年にリヨン郊外でアルジェリア系第2世代のケルカルという青年が武装グループによる一連の殺害テロの容疑をかけられ、逃走中に銃撃戦で射殺された。これが、イスラム教徒との文化摩擦を基礎として社会問題と結びついた、フランスで最初のテロだといわれる。本来政治的犯罪であるテロが社会問題の文脈で論じられた最初の事件だった。フランス語を使うイスラム系によるテロという意味では、今回もこうしたフランス社会に根を張った異文化統合という克服しがたい大きな課題が背景にある(2015年1月14日「『パリ連続テロ』で浮かび上がった『価値観』の対立」2012年4月3日「テロ事件の顛末と仏大統領選への影響」参照)。

「難民問題」「シリア問題」への影響

 この夏以来大きなテーマとなっている難民問題の議論にこの事件が大きな影響を与えることは間違いない。ギリシャ・イタリアに滞在する難民の受け入れを9月に決めたフランスだが、今後の難民流入には厳しくなるだろう。さらに、極右国民戦線の躍進が大きいフランスでは、排外主義が一層加速化する懸念も強い。ただ、12月には州議会選挙が予定されているが、選挙キャンペーンを一時中断すると環境派や極右は主張している。どのような形であれ、この事件がどのような波紋を及ぼすか、懸念しているためである。

 今回の事件はこれに加えて、治安が政治問題として浮上する可能性が高い。シャルリー・エブド事件の直後、野党のサルコジ前大統領はオランド政権の治安政策の手抜かりを攻撃したが、「表現の自由」の方に焦点が当てられた。今回は犠牲者の数が大きいことや大統領の周辺にまで危険が及んだこともあり、あらためて治安体制の見直しが問題となるであろう。8月にもベルギーとの間の高速列車TGVで発砲事件が起きており、今月末にパリで始まるCOP21(国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議)に合わせた治安強化の真っただ中での事件は、事態の深刻さを物語っている。

 そして今回のテロとフランスの中東外交との関連性である。オランド大統領は2012年大統領選挙の時から、アサド政権の退陣とシリアへの人道的介入を主張していた。9月には空爆を行い、先月もプーチン大統領を迎えてシリア問題解決への努力の姿勢を示したが、事態は進展していない。今回の事件はフランス外交の脆さを露呈した事件となりはしないか。その場合にはオランド政権の外交に対する内外からの圧力は一層強まるであろう。

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渡邊啓貴

東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授。1954年生れ。パリ第一大学大学院博士課程修了、パリ高等研究大学院・リヨン高等師範大学校客員教授、シグール研究センター(ジョージ・ワシントン大学)客員研究員、在仏日本大使館広報文化担当公使(2008-10)を経て現在に至る。著書に『ミッテラン時代のフランス』(芦書房)、『フランス現代史』(中公新書)、『ポスト帝国』(駿河台出版社)、『米欧同盟の協調と対立』『ヨーロッパ国際関係史』(ともに有斐閣)『シャルル・ドゴ-ル』(慶應義塾大学出版会)『フランス文化外交戦略に学ぶ』(大修館書店)など。

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(2015年11月14日フォーサイトより転載)