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オバマ大統領の「レガシー作り」に足を引っ張られる米民主党

2014年07月25日 16時31分 JST | 更新 2014年09月22日 18時12分 JST
EPA時事

バラク・オバマ大統領は第2期目の就任演説の中で、気候変動という脅威に対応していく姿勢を鮮明にするなど、再選を果たした過去の歴代大統領と比較してもリベラル寄りの政策を前面に掲げた。2013年1月20日にスタートしてから早くも1年半が経過した第2期オバマ政権。3カ月余り先には中間選挙が控えており、民主党は上院での多数党の立場の維持と下院での4年ぶりの多数党復帰を目指し、現在全米各地で熾烈な選挙キャンペーンを展開している。

オバマ大統領だけではなく、再選を果たした大統領が第2期目に考えることは、後世の歴史家らによる歴史的な評価や位置付けを意識した「業績 (レガシー)作り」である。近年ではロナルド・レーガン大統領は旧ソ連のミハイル・ゴルバチョフ書記長との軍縮交渉に積極的に取り組んだ。

また、ビル・クリントン大統領は、内政面では長期の景気拡大局面をもたらして財政均衡を達成するとともに、外交面では中東和平に熱心に取り組んだ。対照的にジョージ・W.ブッシュ大統領は、政権1期目に開戦に踏み切ったアフガニスタンとイラクでの2つの戦争に大統領を離任するまで翻弄され続け、経済面でも離任4カ月前に発生したリーマンショックにより歴史的にも厳しい評価を受けることになった。

歴代の民主党大統領と比較してもオバマ大統領はリベラル色が比較的強い指導者と指摘されているが、リベラル色の強い政策を大統領権限の行使により推進しようとするオバマ大統領の「レガシー作り」は、2014年中間選挙での勝利を目指している民主党と正面から衝突する状況が生じてきている。つまり、オバマ大統領が自らの大統領職の歴史的評価や位置付けを重視するあまり、民主党の中間選挙での勝利にとり足枷となるリスクが民主党系ストラテジストらの間で指摘され始めているのである。

たとえば、エネルギー・環境政策である。オバマ大統領は気候変動対策の一環として、火力発電所から排出されるCO2の規制を、環境保護局(EPA)に付与されている行政権限により新たに強化しようとしている。民主党の有力支持基盤である環境保護団体は、地球温暖化に取り組むオバマ大統領の姿勢を高く評価している。他方、石炭が州経済の中で基幹産業となっている石炭産出州での選挙戦を展開している民主党政治家にとって、オバマ大統領の「業績作り」は強い「逆風」となっている。

そうした民主党政治家の代表格は、アパラチア山脈沿いにある石炭産出州として知られているケンタッキー州とウエストヴァージニア州から民主党上院議員候補として出馬している2人の女性候補である。1人はミッチ・マコーネル共和党上院院内総務から議席を奪回しようとしているケンタッキー州のアリソン・グライムス州務長官である。

そして、もう1人は知日派のジョン・D・ロックフェラー上院議員がウエストヴァージニア州で5期30年間にわたり維持してきた民主党の議席を死守しようとしているナタリー・テナント州務長官だ。オバマ大統領が地球温暖化対策に積極的に取り組めば取り組むほど、グライムス、テナント両候補は厳しい立場に追い込まれており、両候補とも選挙キャンペーンの中で、オバマ大統領による両州の石炭産業に対する攻撃に果敢に反対していく意思を有権者に訴えている。

米議会下院は、2010年中間選挙での共和党の歴史的大勝を受けて翌11年1月に招集された第112議会から、共和党が多数党の立場にある。そのため、オバマ大統領は自らが成立を希望している法案を民主党が多数党の立場にある上院で可決できても、下院が否決したり、あるいは、法案審議を棚上げにしたりして廃案にするなど、法案成立が困難な状況に陥った。再選を果たした2012年大統領選挙と同時に実施された連邦議会選挙でも共和党は下院で多数党の立場を引き続き維持し、翌13年1月から招集された第113議会でもオバマ大統領は議会対策で身動きが取れない状況に置かれている。第113議会は米議会史上、成立法案数が最も少ない議会となることは避けられない状況だ。

そうした厳しい政治状況からオバマ大統領が導入することになったアプローチが、米議会を迂回する大統領権限の行使である。オバマ大統領はEPAの行政権限によるエネルギー・環境政策の推進、連邦政府の契約職員の最低賃金の引き上げ、同性夫婦に対する家族休暇の適用範囲の拡大、親により米国に不法に連れて来られた未成年者の本国送還停止、などの措置を大統領権限行使により実現してきた。だが、共和党側はこうしたオバマ大統領の対応は米国国民を代表している議会を軽視しているとして、ジョン・ベイナー下院議長(オハイオ州第8区選出)が6月25日、「大統領権限の乱用」で下院としてオバマ大統領を相手取り訴訟を起こす意向を明らかにするに至ったのである。

前回の4年前の2010年中間選挙では、民主党は下院で60議席以上を失い、下院での多数党の立場を共和党に奪われた。今回の中間選挙でも現時点では民主党は厳しい選挙キャンペーンを強いられており、上院の多数党の立場も失いかねない状況にある。今秋の中間選挙で改選期を迎える現職民主党上院議員は、リーマンショック直後に行われた2008年中間選挙での有権者の共和党の経済政策への失望とオバマ氏への期待という民主党に対する「追い風」の中で保守的な地域から当選を果たしてきている。

だが、今回は6年前のような「追い風」は民主党には吹いていない。むしろ、オバマ政権のエネルギー・環境政策への不満、医療保険制度改革関連法の不人気、銃規制強化への反発、オバマ大統領自身の支持率の低迷という猛烈な「逆風」が保守的な選挙区では吹いている。オバマ大統領が自らの「レガシー作り」を重視すればするほど、現職民主党上院議員が苦戦し、共和党に上院の多数党の立場を奪還される可能性が高まる構図となっている。

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足立正彦

住友商事グローバルリサーチ シニアアナリスト。1965年生れ。90年、慶應義塾大学法学部卒業後、ハイテク・メーカーで日米経済摩擦案件にかかわる。2000年7月から4年間、米ワシントンDCで米国政治、日米通商問題、米議会動向、日米関係全般を調査・分析。06年4月より現職。米国大統領選挙、米国内政、日米通商関係、米国の対中東政策などを担当する。

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(2014年7月23日フォーサイトより転載)