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「留学生で町おこし」への疑問:岡山県瀬戸内市の場合--出井康博

2017年05月08日 23時03分 JST | 更新 2017年05月08日 23時03分 JST

岡山県南東部に位置する瀬戸内市――。2004年に「平成の大合併」で3つの町が一緒になって誕生した、人口3万8000弱の自治体である。その名のとおり、市は瀬戸内海に面していて、温暖な気候のもと農業や漁業が主な産業となっている。

全国の多くの地方自治体と同様、瀬戸内市も「高齢化」と「人口減少」が悩みの種だ。市民の3人に1人は65歳以上で、人口は年200-300人ペースで減り続けている。そんななか、市では地域活性化のため、あるプロジェクトが進んでいる。来年春、外国人留学生を受け入れるためIT専門学校が開校する予定なのだ。

廃校を留学生向けの専門学校に

そのニュースを私が知ったのは昨年夏、「産経新聞」電子版でこんなタイトルの記事を見つけたときだった。

<廃校小学校舎を専門学校に再利用 瀬戸内市、留学生に田舎暮らしの場を>(「産経新聞」電子版2016年8月27日付け)

多くの読者が気にも留めないような記事である。しかし私は、この3年間ほど外国人留学生の受け入れ問題をテーマにしている。そして瀬戸内市は、私の生まれ育った故郷でもある。

離れて30年以上になるが、定期的に帰省しているので市の事情はある程度わかる。現在も市内には、私の母校の県立高校が1つあるだけで、他には高校や専門学校、大学もない。「IT」に力を入れているといった話も聞いたことがない。一方、特産品としては沿岸部で養殖される「カキ」がある。専門学校がつくられるのも、カキ養殖が盛んな集落である。つまり、カキの町にIT専門学校がつくられ、留学生が受け入れられるわけだ。

専門学校に利用される小学校は13年、児童数減少のため廃校となった。周辺には空き家も目立つ。そんな空き家も留学生の寮として使う計画なのだという。

記事はプロジェクトを好意的に伝えている。専門学校設立を進める地元出身のコンサルタントが「郷土への恩返し」を強調し、地元の社会協議会会長のこんなコメントも引用されている。

「釣りなどのレクリエーションを通じて留学生たちと異文化交流をするのが楽しみ。今後は地域で、受け入れ組織も立ち上げたい」

地元の人たちの善意は理解できる。だが、留学生を含め外国人労働者について長く取材している私には、無邪気に計画に賛成できない理由もある。

"偽装留学生の受け皿"にならないか?

瀬戸内市のように「留学生で町おこし」を目指す動きは近年、全国各地で起きている。15年には奄美大島、16年には佐渡島といった意外な場所にも、留学生誘致のための日本語学校が開校した。廃校になった校舎を利用するモデルも、瀬戸内市が初めてのケースではない。たとえば、東京・奥多摩町でも廃校になった中学校舎に17年秋、日本語学校が開校する予定だ。

こうした動きの背景には、政府が2020年の達成を目指す「外国人留学生30万人計画」がある。留学生の数は昨年末時点で27万7331人に達し、12年からの4年間で10万人近く増えている。その入り口となっているのが日本語学校である。日本語学校は過去10年で200校以上も増え、全国で600校以上を数えるまでになった。しばらく前までは都市部に集中していたが、最近では地方でも続々と誕生している。

留学生の急増は、出稼ぎ目的の外国人が受け入れられた結果である。過去の連載(「『留学生30万人計画』の悲しき実態」2014年12月2日)でも触れたように、留学ビザの発給基準が緩み、一部のアジア諸国から"偽装留学生"が大挙して押し寄せている。とりわけ増加が目立つベトナム人の場合、留学生の数は6万2422人に達し、過去4年で7倍以上にも膨らんでいる。

ベトナムなどからの留学生が急増している理由について、新聞などではよく「日系企業の現地進出が増え、日本語の学習熱が高まっている」といった解説がなされる。しかし、それは的外れな指摘だ。彼らの多くは、単純に「出稼ぎ」が目的なのである。

そうした"偽装留学生"は、多額の留学費用を借金して来日する。日本に行って働けば借金など簡単に返せ、母国に仕送りもできると考えてのことだ。人手不足が深刻化している現在、日本語が全くできない留学生でもアルバイトは簡単に見つかる。ただし低賃金・重労働の仕事ばかりで、留学生に許される「週28時間以内」というアルバイトの制限を破って働いても、借金はなかなか減らない。そのため翌年の学費の支払いを逃れようと、日本語学校から失踪する留学生も増えている。外国人の不法残留者が3年連続で増加中なのも、留学生の失踪が大きく影響してのことなのだ。

留学生が日本語学校に在籍できるのは2年間に限られる。出稼ぎを続けるためには、「留学ビザ」を更新しなければならない。そこで彼らは専門学校や大学へと進む。

日本人の学生不足に直面する大学などには、日本語能力を問わず入学できるところも少なくない。

瀬戸内市に誕生する専門学校が、"偽装留学生"の受け皿だと断言するつもりはない。しかし、現在の留学生をめぐる状況、そして市の実態を知る私には、「留学生で町おこし」モデルの危うさを指摘せずにはいられない。

「留学生」と「カキの養殖」の関係

来春、IT専門学校がつくられる瀬戸内市・玉津地区――。ここにはかつて「東洋一」を誇った大規模な塩田があった。しかし1970年代初めに廃止され、塩田跡地は一時期、産業廃棄物の処理場に使われていた。空港の建設計画もあったが、結局は実現しなかった。そして現在、地区はカキの産地として知られる程度だ。

市の中心部からは車で20分ほどかかる。山と田畑に囲まれた道を走った先の海辺にあって、決して便が良いとは言えない。平日の昼間に訪れると、集落は静まり返っていた。行き交う人もまばらで、それもたいていは高齢者だが、見知らぬ相手にも微笑んで挨拶をしてくれる。田舎ならではの良さが残る集落なのだ。

専門学校に再利用されるという旧玉津小学校の校舎は、塩田跡地が見渡せる高台にある。1983年に建てられた校舎は何とか使えそうだが、廃校から4年が経った今、運動場には草が生え、錆びついた鉄棒が物悲しい。

関係者によれば、専門学校の名称は「日本ITビジネスカレッジ」になる見込みだという。周囲の雰囲気には似つかない大きな名前だが、事情を知らない留学生にアピールしやすいよう名づけられたのだろう。

中心になって学校設立を進めているのが、福岡市に本社を置く職業紹介・コンサルタント会社「アジアマーケティング」だ。瀬戸内市出身の田中旬一氏が代表取締役を務める、5年前に設立された企業である。この会社を中心に福岡県の学校法人「友幸学園」、瀬戸内市内のあるカキ養殖業者がプロジェクトの主体となる。

カキの養殖業では働き手が足りていない。人手不足解消のため、数年前までは中国人、最近ではベトナム人の実習生が多く受け入れられてきた。そんななか、なぜかカキ養殖業者まで加わって、IT専門学校がつくられる。田中氏は「カキ」と留学生について、あるインタビューでこう語っている。

「学生にカキの養殖など地元の漁業や農業を体験してもらい、貿易の実践学習としても、授業に取り込んでいきたい」(「ふく経ニュース」16年9月13日付け)

メールでの回答

あくまで「カキの養殖」は「体験」で、留学生を人手解消目的の「労働者」として使う意図はないと言いたいのだろう。私は田中氏に取材を申し込んでみた。最も尋ねたかったのは、"偽装留学生"の受け入れについての考えだ。しかし田中氏には、「多忙」を理由に対面でのインタビューを拒否されてしまった。そして後日、私が事前に送った質問にメールでこんな回答があった。

<母国からの仕送りの見込めない方や、アルバイトを目的に来日された方は受け入れ対象と致しません。また、以前在籍していた日本語学校の出席率が80%未満の留学生については、学業が疎かになっていると判断して受け入れ対象としません。ただし、学費をきちんと納め、真面目に勉強され、立派に卒業された学生には、入学していただきたいと思います>

<母国からの仕送りの見込めない>留学生は日本語学校も、また政府にしろ、公には入国を認めていない。しかし、新興国では行政機関や銀行でさえ、賄賂を払えば簡単に書類はでっち上げてくれる。そうやって日本でアルバイトをしなくても留学費用が支払えるように見せかけ、数多くの留学生が入国する。そのことに政府も気づいていながら、「30万人計画」実現のためビザを発給しているのだ。

しかも日本語学校は、学業の成績に関係なく卒業できる。留学生が<真面目に勉強>したかどうかを計りたいのであれば、一定の日本語能力を入学基準に課せばすむ。本来、専門学校への入学には、日本語能力試験「N2」合格レベル以上が基準となっている。しかし、日本語学校を卒業しても「N2」はおろか、簡単な日常会話レベルの「N3」すら取得できない留学生は大勢いる。そんな留学生でも専門学校や大学に入学できてしまうのが現状なのだ。

<岡山県の農産物を如何に国内外に販売していくかという問題を産学官が連携し、学習できる、新しい形の専門学校にする予定です。>

田中氏はそう意気込んでいる。だが、農産物の販路拡大のため、わざわざ専門学校をつくり、留学生まで誘致する必要があるのだろうか。

田中氏には再度、留学生の経費支弁能力に関し、入学前に精査するつもりがあるのかどうか問うたが、1カ月が経った今も返答はない。

市長も取材を拒否

瀬戸内市も「日本ITビジネスカレッジ」の設立を支援している。市が所有する旧玉津小学校の賃貸料も、アジアコンサルタントからの提案を市議会が承認し、年120万円と決まった。閉校になった小学校とはいえ、月にすれば10万円という安さである。田中氏によれば、専門学校の定員は「160名」となる見込みだという。学生1人につき年100万円の学費を徴収すれば、1億6000万円となる。ビジネスとしても採算は十分に取れる。

市のホームページには、武久顕也市長と田中氏が笑顔で握手を交わす写真が載っている。昨年12月、市がアジアマーケティングと事業協定を結んだときの写真である。その際、武久市長はこう述べていた。

「旧玉津小学校が、地域に愛され、役に立つ場所になってよかったなと思ってもらえるような活躍を期待する」

市長は"偽装留学生"問題をどこまで認識しているのか。取材を申し込んだが、田中氏に続いて拒否されてしまった。拒否の理由は、現在のところ専門学校を運営する<学校法人設立の認可を受けられていない>ことだという。

認可権は都道府県が握っているが、申請が却下されることは多くない。岡山県の関係者によれば、「日本ITビジネスカレッジ」の運営母体となる学校法人も、今年夏に開かれる私立学校審議会で認可される可能性が高いという。そんな事情は、武久市長もわかっているはずだ。

市長に対し、再度メールでプロジェクトに対して「賛成なのか反対か」だけでも答えてほしいと告げると、こんな答えが返ってきた。

<今回の提案事案(専門学校設立のこと:筆者注)につきましては、市長である私が賛成、あるいは反対の意思をもって進めたものではありません。事業は、先般説明した目的(地域雇用の創出と地域の活性化=筆者注)を達成することができる事業であると審査委員会において評価されて採択されたものであり、市は、その結果を受けて手続きを粛々と進めてきたものであります。>

市長は自らが中立の立場であると強調したいようだ。市のホームページに載ったコメントとは、どうもトーンが違う。瀬戸内市では今年7月に市長選がある。その前に面倒な取材には巻き込まれたくなかったのかもしれない。

私は地元の知り合いや親戚を回って、専門学校の設立について尋ねてみた。すると多くの者は、小学校が廃校になったことは知っていても「専門学校」については初耳だという。専門学校の主なターゲットが留学生であることについては、私が尋ねた約10人の誰も知らなかった。ましてや、全国に広がる"偽装留学生"の問題など知る由もない。

「地域の人々を増やす」というが......

専門学校設立の中心的存在である田中氏は、私に送ってきたメールの最後に、こんな文章を記していた。

<昨今留学生の失踪問題がクローズアップされることにより「外国人が怖い」との考えにもなり得ます。昨年から、一部の外国では「保護主義的立場」の首脳が増えているようですが、日本として世界の中で生き残るためには、「保護主義」より「反保護主義」でないと生き残れないと思います。「リスク無くして成長なし」との考えから、人口減少が著しい地域においては、「リスクを恐れて何もしない」よりは、考えられるリスクを排除しつつ、改革を実践していく中(今回の場合は、地域に18歳以上の学生(日本人・留学生を含めて)が増える。)で 「新たなリスク」も生じるとは思いますが、その「新たなリスク」も人材育成を通じて排除し、地域の人口を増やすことにより、地域貢献をしたいと思っています。>

田中氏が繰り返している「リスク」とは、留学生の失踪や、最近問題になりつつある犯罪の増加などを指すのかどうかはよくわからない。少なくとも彼は、留学生の受け入れを通じて「地域の人口」を増やしたいらしい。

田中氏の文章を読みながら、私は以前取材したある社会福祉法人の理事長の言葉が頭に浮かんだ。その法人が運営する介護施設は関西の田舎町にあるが、職員の人手不足に直面していた。そこで数年前、フィリピンから20人以上の日系人を職員として受け入れた。給与などは日本人と同等としたうえで、格安で入居できる専用のアパートまで準備してのことだ。

しかし現在、日系フィリピン人はほとんど残っていない。日系人は同じ外国籍でも実習生などとは違い、職場や職業は自由に選べる。そのため賃金の高い仕事を求め、都会へと移って行ってしまったのだ。

「考えてみれば、日本人の若者が居つかない田舎には外国人だって住みたいとは思いませんよ。しかも日本人の嫌がる仕事を、途上国の外国人に任せるという発想からして間違っていたんです」

理事長は私に対し、そう自嘲気味に話していたものだ。

田中氏のもとには、専門学校について<フランスやベルギー等ヨーロッパからの問い合わせ>も届いているという。専門学校には留学生に加え、日本人の学生も入学できる。とはいえ、カキの町に誕生するIT専門学校にわざわざ入学する若者とは、外国人か日本人かを問わずいったいどんな学生たちなのか。地元出身の私には全く想像もつかない。

都合の良いシナリオ

地域活性化の難しさはよくわかる。高齢化で働き手が不足している自治体は、何も瀬戸内市に限ったことではない。一部のアジア諸国で起きている日本への"留学ブーム"に便乗しようとする自治体があっても当然だ。彼らを留学生として受け入れれば、労働力として活用でき、しかも稼いだ金は学費として地元に戻ってくる。さらには空き家対策もできてしまうのだ。

しかし、それはあくまで日本人の側が描く都合の良いシナリオである。日系フィリピン人の受け入れに失敗した社会福祉法人理事長も指摘するように、日本人が魅力を感じない場所や仕事には、外国人も居着きはしない。途上国の出身者であれば日本人が去った「空き家」でもがまんしてくれるという発想で、本当に地域活性化が実現するのだろうか。

全国に波及し始めている「留学生で町おこし」――。そんな摩訶不思議なモデルが人気になるのも、元をただせば、外国人労働者の受け入れ政策に関し、政府が手をこまねき続けているからなのだ。

その間にも人手不足は深刻化する一方だ。外国人労働者の数もついに100万人を突破した。2年ぶりに再開するこの連載を通じ、外国人労働者の受け入れ現場で起きている

様々な現実についてリポートしていきたいと思う。

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出井康博

1965年岡山県生れ。早稲田大学政治経済学部卒。英字紙『THE NIKKEI WEEKLY』記者を経てフリージャーナリストに。月刊誌、週刊誌などで旺盛な執筆活動を行なう。主著に、政界の一大勢力となったグループの本質に迫った『松下政経塾とは何か』(新潮新書)、『年金夫婦の海外移住』(小学館)、『黒人に最も愛され、FBIに最も恐れられた日本人』(講談社+α文庫)、本誌連載に大幅加筆した『長寿大国の虚構 外国人介護士の現場を追う』(新潮社)、『民主党代議士の作られ方』(新潮新書)、『襤褸(らんる)の旗 松下政経塾の研究』(飛鳥新社)。最新刊は『ルポ ニッポン絶望工場』(講談社+α新書)。

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(2017年5月8日フォーサイトより転載)