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プーチン大統領と極秘来日していた!「クシュナー氏」と秘密会談した「ロシア大物スパイ」--春名幹男

2017年06月13日 23時09分 JST | 更新 2017年06月13日 23時09分 JST

トランプ米政権が抱えるロシアゲート疑惑。日本では対岸の火事視する向きが多いようだ。

トランプ大統領が弾劾された場合、ペンス副大統領が後継大統領になればそれでいい、とトランプ氏を見限る人も少なくない。

しかし、ロシアの「魔の手」は日本にも伸びていた。トランプ大統領の娘婿、ジャレッド・クシュナー大統領上級顧問(36)が昨年12月中旬にニューヨークで秘密会談したロシアの「大物スパイ」が、実は会談直後にアメリカ・ニューヨークから来日し、プーチン大統領の15~16日の訪日に合流していたことが分かった。

この大物スパイの公式の肩書きは、ロシア国営「対外経済活動銀行(VEB)」総裁。氏名はセルゲイ・ゴルコフ氏(48)。これだけだと、通常の銀行家としか思えない。彼を大物スパイとみる西側情報筋は、銀行の性格と彼の学歴と経歴を強調する。

NY支店次長はスパイ活動で逮捕

ゴルコフ氏は旧ソ連国家保安委員会(KGB)の後継国内情報機関、「連邦保安局(FSB)」が設置した、スパイ養成大学と言われる「FSBアカデミー」を卒業後、プレハーノフ経済大学で修士号を取得した。

非常に奇妙なことはこの後、彼が大手石油会社「ユーコス」に入り、副社長まで上り詰めたことだ。ユーコスの最高経営責任者(CEO)、ミハイル・ホドルコフスキー氏はプーチン大統領と対立し、巨額の脱税事件などを追及された。ユーコスが解体されただけでない。CEO自身は禁固8年の実刑判決を受けた。

クレムリンやFSBと関係が深いゴルコフ氏が当時、ユーコス内部でどのように行動したのか、ミステリーとされている。反プーチンの行動が目立ち始めたCEOおよびユーコスの内部情報をFSBに通報していたとしても、全くおかしくはない。

彼はその後何事もなかったかのように、別の国営銀行「シェルバンク」副頭取などを経て、昨年2月、VEB総裁に就任した。彼は銀行家というより、銀行家の仮面を被った大物スパイとみていい。

実際、VEBのニューヨーク支店次長が米政府の経済秘密情報の入手を謀るなどのスパイ行為を働いて逮捕される事件が2015年1月に起きている。

逮捕されたエフゲニー・ブリャコフは、実はロシア対外情報機関SVRの要員で、VEBは彼に銀行員の肩書きを提供していた。彼は、トランプ陣営の外交顧問だったカーター・ページ氏(46)をロシア・スパイにリクルートする工作も進めていたという。

ウクライナテコ入れ支援も

しかし、VEBはFSBの銀行部門という程度の機関ではなさそうだ。むしろクレムリンの戦略的工作を実行する金融機関と言える。

外交誌『フォーリン・ポリシー』電子版のエリアス・グロル記者によると、VEBは形式的には開発銀行だが、ウクライナなど東欧諸国、カフカス地方、中東などへのロシアの影響力を再構築するため、戦略的な事業を展開しているというのだ。

例えば2004年の「オレンジ革命」で親欧米政権が誕生したウクライナでは、08年の金融危機に際して、VEBは銀行部門に5億ドル(約550億円)を投入、さらに大手鉄鋼2社に対して約80億ドルを投資し、4万人の雇用を維持した。その結果、2010年の大統領選挙でロシア派のヤヌコビッチ大統領の勝利をもたらした。

結局は、これらの投資は不良債権化し、ヤヌコビッチ政権は2014年に打倒され、ロシア特殊部隊がクリミア半島を併合、ウクライナ東部ではなお見えない戦闘が続いている。

それでもVEBは、500億ドルを支出した2014年のソチ冬季五輪にも主要な資金源として参加、結局ロシア政府はVEBに対して15年に200億ドルの公的資金を投入したとされる。

また、イスラム問題で不穏な情勢が続くチェチェン共和国に対してもVEBを通じた経済支援が行われているようだ。

だが、昨年12月13日か14日にニューヨークで行われたクシュナー氏とゴルコフVEB銀行総裁との秘密会談は闇に包まれている。

VEB側は、ゴルコフ総裁はクシュナー氏のファミリー企業「クシュナー・カンパニーズ」が保有するマンハッタンのタワービルへの投資について話し合った可能性がある、と示唆している。

これに対しホワイトハウス報道官は、クシュナー氏は当時、政権移行チームの委員だったので、国務省との「外交的橋渡しの役割」をしたとしており、説明が食い違っている。

ゴルコフ氏はこの訪米で、JPモーガン・チェイスやシティグループなどの米大手銀行トップと会談。しかし、トランプ政権はロシア制裁解除を検討中、との情報も当時流れており、ゴルコフ氏側は制裁解除に関する情報収集が会談の目的だったともみられている。

日本では経済協力論議か

『ワシントン・ポスト』によると、ゴルコフ氏はVEB関連会社が保有する19人乗りの双発ジェット機で昨年12月13日にモスクワから到着、翌14日午後5時01分にニューヨーク郊外、ニュージャージー州のニューアーク空港を出発して日本に向かった、としている。

ちょうど翌15日、安倍晋三首相との首脳会談のためプーチン大統領は訪日した。こうして、ゴルコフ氏は訪日団と合流した。日本では北方領土を対象とする日ロ経済協力計画の中で、VEBが参加できるプロジェクトがないか調査したに違いない。

恐らく、プーチン政権の最大の課題である「クリミア制裁」解除に向けて、日本側に働きかけた可能性もある。しかし、ゴルコフ氏の来日中の動静は明らかになっていない。(春名 幹男)

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春名幹男

1946年京都市生れ。国際アナリスト、NPO法人インテリジェンス研究所理事。大阪外国語大学(現大阪大学)ドイツ語学科卒。共同通信社に入社し、大阪社会部、本社外信部、ニューヨーク支局、ワシントン支局を経て93年ワシントン支局長。2004年特別編集委員。07年退社。名古屋大学大学院教授、早稲田大学客員教授を歴任。95年ボーン・上田記念国際記者賞、04年日本記者クラブ賞受賞。著書に『核地政学入門』(日刊工業新聞社)、『ヒバクシャ・イン・USA』(岩波新書)、『スクリュー音が消えた』(新潮社)、『秘密のファイル』(新潮文庫)、『米中冷戦と日本』(PHP)、『仮面の日米同盟』(文春新書)などがある。

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(2017年6月13日フォーサイトより転載)