「脱毛エステ最大手」に浮上した「経営危機説」「健康被害隠蔽」

盛夏目前のこの時期、テレビや雑誌、電車などでは脱毛関連のCMがやたら目につく。最も目立つのが脱毛専門サロン『ミュゼプラチナム』だろうが、肝心の予約がまったく取れず、しかも医師がいないサロンが「脱毛完了=永久脱毛」を行うのは「医師法違反」であり、実際に摘発されたケースも多く、「やけど」などの深刻な健康被害も後を絶たない。

盛夏目前のこの時期、テレビや雑誌、電車などでは脱毛関連のCMがやたら目につく。中で最も目立つのが脱毛専門サロン『ミュゼプラチナム』(以下「ミュゼ」)だろう。今年3月まではタレントのトリンドル玲奈が現在はラブリというモデルに変わったが、「美容脱毛完了コース100円」「30~50%OFF」などの激安で急成長した。

が、肝心の予約がまったく取れず、しかも医師がいないサロンが「脱毛完了=永久脱毛」を行うのは「医師法違反」であり、実際に摘発されたケースも多く、「やけど」などの深刻な健康被害も後を絶たない。

そうした様々な問題点、疑惑を「『医師法違反』の声もある『脱毛エステ』疑惑の商法」(2015年5月21日)で指摘したところ、記事を読んだ複数の「ミュゼ」現役幹部や現場スタッフらから更なる内部告発が相次いだ。それらの証言や財務関係などの内部資料を検証した結果、目下ミュゼが深刻な経営危機に陥っている状況が浮かび上がった。最近、インパクトあるテレビCMを大量に流して急成長したトレーニングジム『ライザップ』の深刻な健康被害やブラック企業ぶりを『週刊新潮』が告発して話題になったが、店舗数や売上規模などはミュゼのほうが数倍も大きいだけに、万が一の場合、エステ業界全体にも影響が及び、社会的問題になりそうだ。

新規減少、解約激増

店舗数約200、年商約380億円という国内最大手の「ミュゼ」を運営するのは、株式会社ジンコーポレーション(以下「ジン社」)。社長の髙橋仁(46)はもともとラーメンチェーン店で成功を収め、2002年に「ミュゼ」を創業した。以後、わずか10年少々で業界最大手の規模に急成長させた手腕には目を見張るものがある。が、古参幹部によれば、

「実は昨秋あたりから、社内では経営危機説が囁かれ始めました。キッカケは、旅行代理店の買収が中止になったこと」

昨年8月末、ジン社は髙橋が社長を務める子会社「ミュゼトラベル」が「沖縄ツーリスト」の本土展開事業を買収すると発表。髙橋自ら記者会見に臨み、10月1日には新会社を発足させるとぶち上げた。が、そのわずか3週間後、ジン社側が一方的に買収中止を通告した。

「買収資金の調達ができなかったのです。380億円もの売り上げがあるのに数億円の資金に窮するとは、実際にはかなり資金繰りが厳しいのではと社員も疑心暗鬼になり始めた」(同)

実際、内部資料によれば、昨年後半から新規契約件数が激減する一方、逆に解約件数が激増している。たとえば月別データによる2014年実績では、新規件数は6月の6万3135件をピークに減り続け、11月には2万4157件と3分の1近くまで落ち込んだ。今年に入っても1、2月はいずれも2万件台で、4月にようやく4万件まで戻した程度。脱毛の性質上、毎年季節による増減はあるが、昨年1月はまだ今年1月より倍近い4万6377件あったのだから半減以下。落ち込みぶりは歴然だ。

さらに深刻なのが解約数。昨年1月には3708件だったが以後毎月増え続け、同年6月には7000件を突破。9月の7716件でピークとなるが、その後も毎月7000件前後で推移し、今年4月の最新データでは7446件となっている。金額にすると、少なくとも昨年6月以降、毎月7億円弱の解約金が発生しているのである。

ボーナスも社員旅行も中止

そのしわ寄せはたちまち従業員に向けられた。さる6月1日夜半、突如全従業員に対して「夏季賞与について」と題した髙橋社長名の文書が配信され、10日に予定されていた夏のボーナス支給を見送ると通告したのだ。遅配ではなく、見送り。

「毎年5月中旬までには支給が発表されていたのに今年はなかなか発表されないので、もしやとは思っていました。旅行費用やローンの返済などに充てるつもりだったのでショックです。経営危機は本当だったんだと思いました」(店舗スタッフ)

文書には「人件費の増加と脱毛機バージョンアップの設備費が大きくかさみ」「予約が取れない中で新規受け入れは抑制しなければなりませんし、解約も増えました」「売上高は伸び悩み」「27年8月期の決算は大変厳しい数字になる」と、深刻な状況説明が綴られている。

さらに、これはまだ社内では正式に発表されていないが、毎年恒例の全社員の旅行もすでに中止する方向だという。

「ミュゼの社員旅行は業界でも有名。さすがに一斉には休めないので数班に分けますが、従業員は4300人くらいいますから規模も相当だし、宴会も派手」(別の幹部)

例年は2、3月に実施されていたが、昨年8月、2015年の旅行は10、11月に延期すると発表があったという。問題は、旅行のために社員から給与天引きという形で積立金を徴収していることだ。

「毎月5000円ずつ年間で6万円。実際の旅行にはもっと費用がかかっていて、不足分は会社が銀行融資で補っており、その額は2、3億円だと聞いたことがある」(同)

つまりはその不足分の資金調達に窮し、中止せざるを得ないのだという。が、いまだに発表はなし。

「正式に中止発表すると、積立金は社員に返還するか翌年分に繰り越すしかない。でも、新決算年度(8月決算)が始まる9月からはまた新たに積立金を徴収することになっている。つまり、社員に積立金を返還する資金さえもないのではないか」(同)

解約返金の先延ばし

資金繰り悪化のしわ寄せは従業員だけではなく、すでに顧客に対しても向けられている。ここ1年あまりで契約途中での解約が激増していることはすでに触れた。その解約金の返金にも窮しているのだ。

同社の場合、解約の際の返金方法は「口座振込」「送金サービス」「郵送解約」などがあるが、今年4月から、いずれも返金をこれまでより1カ月から2カ月先延ばしにするシステムに変更している。たとえば「口座振込」の場合、3月までは解約日から2週間以内に振込返金することになっていた。ところが、4月以降は「解約手続きの月の翌月末日に返金」となった。つまり、仮に6月1日に解約手続きをした場合、これまでは同月半ばまでに振込されたのが、2カ月近く先の7月末日まで返金されなくなったのだ。「送金サービス」の場合など、最大3カ月先にまで先延ばしされることになっている。

「毎月の解約金額が激増しすぎたために資金が回転しなくなったのでは」(前出古参幹部)

その一因には、同社独特の会計システムがあるという。たとえば1回5万円の全身脱毛4回コースを8月に契約したとしよう。顧客は最初に20万円を支払い、同月内に1回目の施術を受ける。そして同社の決算期である8月が終了。本来なら、この顧客の契約額のうち残り3回分15万円は「前受金=預り金」として当期の売上に計上しないのが普通だが、同社の場合は20万円全額を売上計上しているという。

「違法とまで言えないが、問題は、1回だけでその顧客が解約した場合、9月以降に15万円を返金しなければならないのに、当期の決算によって法人税その他諸経費を差し引きしたあと、15万円の半分も残っていないことになり、返金原資がなくなる。だからこそ、解約件数の急増はまさに致命傷なのです」(同)

その致命傷を覆い隠すには新規契約数を増やすしかないが、激安商法で新規問い合わせが増えても予約が取れなければ意味がなく、新規契約者は減る一方で、解約者は激増する――。まさに自転車操業の挙げ句、負の連鎖に陥っている構図なのだ。

健康被害を「隠蔽」

最後にもう1点、同社の欺瞞性に触れておこう。前回記事で指摘した「やけど」被害について、筆者の質問にジン社は「回答を差し控える」と拒否した。が、社内では、

「記事を読んだ顧客や取引先企業などから問い合わせがあった場合、健康被害については『現在までの調査で、該当するお客様はいない』と回答するように全社的な指示がありました」(店舗スタッフ)

しかし、実際には、「やけど」や「毛濃炎」「赤み」「ひきつり・痛み」などの肌トラブルについて、毎月全国のどこの店舗でどのような症状が何件発生したか、当該顧客への対応はどうなったかなど、毎月末に発行する社内限定の『CSニュース』など、内部資料に克明な記録が残されている。あるいは、脱毛によって逆に毛が固く濃くなる「硬化症」という健康被害について、別な資料には今年に入ってからすでに21件のトラブルが発生したと記録もある。中には「2015年2月」「渋谷cocoti店」「ヒジ上、手甲指」との記載に続き、当該顧客への対応について「消費者センターへ相談していると言い、録音している。通常返金のところ、今回は全額返金にて解約済み。」といった内容もある。

「この人は4回目の施術で被害を訴えていますが、すでに消費者センターにも駆け込んでいて訴訟にも発展する可能性があった。それで残額だけではなく全額を返金することでトラブルが表沙汰にならないよう防いだのでしょう」(前出幹部)

それどころか、顧客が健康被害を訴えてきた場合に店舗スタッフが同行して連れていく皮膚科クリニックの全国版リストさえ存在する。しかも入手したリストを見ると、このクリニックは脱毛サロンに悪印象を持っているので行ってはいけない、などといった詳細な注意書きまである。健康被害がないどころか、むしろ外部に漏れないよう隠蔽に躍起になっているのだ。

競走馬にゴルフに......

こうしたトラブルを抱え、なおかつ資金繰りにも窮しているジン社だが、社長の高橋は個人で十数頭の競走馬を所有していることでも有名。経営と個人の趣味は別問題だろうが、会社が厳しい状況でのそうした派手な私生活が社員の反感を招いていることは事実だ。

そしてジン社は、今年から男子ゴルフのレギュラーツアートーナメントの主催も始めた。女性専門の脱毛サロンがなぜ男子ゴルフツアーをと社内でも疑問視する声が多いが、これも髙橋の趣味だろうと揶揄されている。賞金総額1億円のその『ミュゼプラチナムオープンゴルフトーナメント』は、兵庫県のゴルフ場で7月9日から12日にかけて開催される。試合数の減少に悩む男子ゴルフ界にとっては有り難い新スポンサーの登場だが、開催が発表されたのは昨年末。トーナメントの主催には賞金以外に2~3億円の費用負担が必要だが、果たして大丈夫なのか。開催まで残り3週間あまり。よもや沖縄ツーリストの二の舞などあってはなるまいが、同社の大会HPには、まだ出場選手は記載されていない。

ちなみに、ジン社は今回もまた取材拒否だった。(敬称略)

No.1と激安キャンペーンを強調したミュゼのHP。新規客が少なくなると割引率が高まるという

内木場重人

フォーサイト副編集長

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(2015年6月19日フォーサイトより転載)

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