BLOG

「EV」普及対策で「高速充電事業者」とタイアップする石油メジャー「シェル」--岩瀬昇

日本の石油会社は、事業の将来性をどこに見出そうとしているのであろうか。

2017年12月04日 10時06分 JST | 更新 2017年12月04日 10時06分 JST

かつての「石油は枯渇する」ことを前提とした「ピーク・オイル論」は影を潜め、今では需要が供給より先にピークを迎えるという「新ピーク・オイル論」が主流の考え方になっている。

だが、「ロイヤル・ダッチ・シェル」(以下、シェル)を含むスーパーメジャー各社の長期予測も、IEA(国際エネルギー機関)やOPEC(石油輸出国機構)の長期展望も、今から2035年や2040年までの間にはまだ「ピーク」は来ない、という見方で一致している。いつか来る、だが、まだだ、というわけだ。

もちろん、もっと早く来る、と主張する人も多い。

たとえば、資源エネルギー庁が「エネルギー基本計画2017」策定作業の一環として行っているエネルギー情勢懇談会に招聘されたポール・スティーブンス氏(英国王立国際問題研究所特別上席フェロー)もその1人だ。

同懇談会で配布した「参考資料」の1つである「資源と地政学(Resources and Geopolitics)」によれば、彼の論点の1つは、現在「エネルギー移行期(energy transition)」にあるのは間違いがないが、「エネルギー業界の支配者層(energy establishment)によって過小評価されている(underestimated)」というものだ。

では「いつか来る、だが、まだだ」と思っているように見えるスーパーメジャーが何の手も打っていないか、というと、そんなことはない。情勢の変化を睨みながら、着々と将来への布石を打っているのが実情だ。

日本の石油会社は......

2017年11月27日付の『フィナンシャル・タイムズ』が非常に興味深い記事を掲載している。「Shell to work with carmakers on electric vehicle charging」 というタイトルのものだ。サブタイトルは 「Deal is the latest in a series of steps by the company to find ways of making money from the rise of EVs」 となっている。

シェルが、大手自動車メーカーがバックアップしている高速充電事業者とパートナーシップを組み、欧州10カ国の自社ガソリンスタンド(以下、GS)に高速充電設備を設置する、というのだ。

記事の要点を次のとおり紹介しておこう。

■2016年に米フォード・モーターとドイツの大手自動車メーカー(BMW、ダイムラー、フォルクスワーゲン)によってミュンヘンに設立された高速充電事業者であるイオニティ社とシェルはパートナーシップを組んで、自社の欧州の大型GS 80カ所に高速充電装置を設置する、と発表した。

■これは長期的な石油需要への脅威となっているEV(電気自動車)の増加から利益を上げるためにシェルが打っている手の1つだ。シェルは10月、欧州で最大の8万カ所以上の充電ポイントを保持するニュー・モーション社を買収した。

■この高速充電装置は、従来のものより3倍ほど速い5~8分で充電が可能なものである。

■シェルのGSは、イオニティ社が2020年までに設置しようとしている400カ所の一部となる。これまで50キロワットが標準だったが、350キロワットのものを設置する予定。

■EVの利点をアピールするのに、充電時間の短縮と走行距離の延長が重要になっている。

■シェルの小売部門のトップであるイストバン・カピタニ氏は、「EVのお客様方は、長距離ドライブができて、手早く充電できる信頼性の高い場所を求めている」と言う。

■ベルギー、フランス、オランダ、オーストリア、チェコ、ハンガリー、ポーランド、スロバキア、スロバニア及びイギリスの、シェルが選ぶ80カ所の大型GSに、平均6台の高速充電設備を設置する予定。

■世界がよりクリーンなエネルギーへと向かっている中で、シェルは化石燃料からの事業の多角化を目指している。乗用車が世界の石油需要の4分の1以上を占めているだけに、EVはエネルギー市場にとって最大の攪乱要因と見られている。

■世界中で4万カ所のGSを保有しており、毎日3000万人の顧客に奉仕しているシェルのような会社にとって、EVは、原油販売のみならず小売ビジネスにおいても脅威となっている。

■ほとんどの大手石油会社の幹部は、EVへの移行には数十年かかり、石油需要は当分のあいだ増え続けると主張するが、シェルの戦略は変化するエネルギーの絵図に適合しようとしていることを示している。

■シェルは、風力発電、電力取引にも投資を行っており、来年からは英国でビジネス顧客向け電力販売も始める予定だ。

はてさて日本の石油会社は、減少する人口とエネルギー効率の改善により日々石油需要が減少していく中で、事業の将来性をどこに見出そうとしているのであろうか。(岩瀬 昇)


岩瀬昇 1948年、埼玉県生まれ。エネルギーアナリスト。浦和高校、東京大学法学部卒業。71年三井物産入社、2002年三井石油開発に出向、10年常務執行役員、12年顧問。三井物産入社以来、香港、台北、2度のロンドン、ニューヨーク、テヘラン、バンコクの延べ21年間にわたる海外勤務を含め、一貫してエネルギー関連業務に従事。14年6月に三井石油開発退職後は、新興国・エネルギー関連の勉強会「金曜懇話会」代表世話人として、後進の育成、講演・執筆活動を続けている。著書に『石油の「埋蔵量」は誰が決めるのか?  エネルギー情報学入門』(文春新書) 、『日本軍はなぜ満洲大油田を発見できなかったのか』 (同)、『原油暴落の謎を解く』(同) がある。

関連記事

(2017年12月1日フォーサイトより転載)