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「シンゾー・ドナルド関係」は国際政治にどんなインパクトを与えるのか--村上政俊

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大統領就任後初めての安倍・トランプ会談が成功裏に終わった。ゴルフ外交で培われた個人的な信頼関係が今回の最大の成果だったが、本稿ではシンゾー・ドナルド関係が今後の国際政治に与えるインパクトについて考えたい。

安定した政治状況が安定した外交を生む

「箱日程」という外務省用語がある。総理、外務大臣の外交日程を整理するための長方形のマスで、イベントやその開始・終了予定時刻などが書き込めるようになっている。

国際会議に日本の総理が出席する場合、まず確定しなければならないのが同盟国アメリカの大統領との会談だ。しかし、この外交の軸となるべき日米首脳会談を国際会議で設定するのに困難を伴ったのが、1年おきに首相が交代した「決められない政治」の時代だった。

アメリカにとってのアジア太平洋における最重要同盟国とはいえ、いつ辞任するかわからない日本の首相と頻繁に会談するほど暇ではない、というのがアメリカ側の偽らざる本音だった。

日本側はアメリカ大統領との会談設定といういわば日程闘争に多くの外交リソースを奪われ、首脳会談の中身(外務省ではサブという)に集中し切れないという状況が続いていた。外交は内政の延長線上にあるといわれるが、これなどは国内政治の不安定さが外交に悪影響を与えた例といえよう。

ところが今回の会談で両首脳は、今後のG7サミット(今年はイタリア・シチリアのタオルミーナ)などの国際会議の場において必ず会談することを約したという。トランプが安倍を常時意思疎通が必要な相手だと認めたということだ。

これは安倍1強という、日本国内の安定した政治状況が生んだ成果といえよう。世界の主要国の中でも突出して安定した政権基盤を有し、それを元手に精力的に外交を展開する安倍との間で良好かつ緊密な関係を築くことこそが、国益に適うとトランプが判断した証左だ。

各国の政治状況を話し合うことの意味

それでは今回のゴルフ外交で培われた信頼関係をもとに、安倍とトランプは何を話し合おうというのか。ここで鍵となるのが、今回の首脳会談で各国の政治状況について話し合ったという点だ。

現代の国際政治の重要な原則の1つに、内政不干渉がある。簡単に言ってしまえば、他国の国内政治に口を差し挟むのは原則的には不可ということだ。だから、一部の国からの入国禁止というアメリカ大統領令を安倍が批判しないのはおかしいという訪米前に上がった非難は、お門違いもいいところだということになる。

なぜなら、議院内閣制という形で立法権と行政権という3権のうちの2権が高度に融合する日本とは異なり、厳格な3権分立制をとるアメリカにおいては、大統領と司法府が見解を異にすることは日常茶飯事であり、司法府の最終的見解、すなわち連邦最高裁の判断が出る前にその是非について他国が口を差し挟むのは、本来はあってはならないことだからだ。

ただし、内政不干渉も絶対ではなく例外があり得る。1つが国際社会の普遍的価値にもとるような動きに対する干渉だ。中国における人権弾圧などはその典型だろう。

チベットやウイグルなど、中国共産党が核心的利益と呼ぶ地域においては、漢民族支配に対するチベット人やウイグル人の怨念が鬱積しており、暴動や独立を目指す動きが活発で、共産党はこれを力で抑え込んでいるのが実情だ。

こうした劣悪な人権状況は国際社会において常に批判の対象であり、日本では保守派、アメリカでは民主党リベラル派が主にこの問題に熱心に取り組んできたという経緯がある。中国政府の内政干渉だという反駁は普遍的価値に照らせば説得力を持ちえないわけだ。

覇権国アメリカの筆頭パートナーに

そしてもう1つの例外が覇権国家の世界支配だ。世界政府が存在しない(そして未来永劫実現するはずもないし実現する必要もない)現状において、世界秩序の維持を担っているのが世界の警察たるアメリカだ。トランプが「世界の警察官」を辞めるのではないかと心配する向きもあったが、杞憂であることが今回の会談で改めて明らかになった。

というのも、世界の警察官を辞めてアメリカの中に完全に引き籠るつもりならば、安倍のような外国の首脳と各国の政治状況について話し合う必要はなかろう。

なぜ各国の政治状況について話し合うのか。冒頭で述べた「外交は内政の延長である」という考えに立てば、主要国の政治状況は国際政治に影響を与えるからだ。各国の国内政治は国際政治を分析する上での基礎材料であり、それについて認識を深く共有するということは、世界情勢についての認識を共有するということとほぼ同義であるといえよう。

今回の日米首脳会談では日米2国間の懸案に焦点が当たりがちだったが、世界情勢全体という観点からみれば、トランプが覇権国の元首として引き続き世界の警察官として振る舞おうとしており、そうした決意を、ゴルフをしながら安倍に打ち明けたというのが眼目だっただろう。

トランプは自らを世界の警察官としながら、欧州はイギリス、アジア太平洋は日本、中東はイスラエルを副官として秩序維持に乗り出そうとしているといえ、この順番すなわちメイ、安倍、ネタニヤフの順で訪問を受け入れた。

その中でも安倍を厚遇したのは、これからの世界戦略の筆頭パートナーに安倍を選んだということだ。こうした絵姿は日本の外でははっきりと見えており、安倍のもとには各国から「電話会談でもよいので」と会談要請が相次いでいる(安倍に極めて近いジャーナリスト)という。

トランプとゴルフをしながらどんな話をしたのか教えてほしいということだろう。来月に安倍はドイツ、フランスと欧州歴訪を予定しているが、その際に自国にも立ち寄れないかというリクエストも来ているという。国際政治の中心に躍り出たシンゾー・ドナルド関係。その行方に益々注目する必要がありそうだ。(文中敬称略)

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村上政俊
1983年7月7日、大阪市生まれ。現在、同志社大学嘱託講師、同大学南シナ海研究センター嘱託研究員、皇學館大学非常勤講師、桜美林大学客員研究員を務める。東京大学法学部政治コース卒業。2008年4月外務省入省。第三国際情報官室、在中国大使館外交官補(北京大学国際関係学院留学)、在英国大使館外交官補(ロンドン大学LSE留学)勤務で、中国情勢分析や日中韓首脳会議に携わる。12年12月~14年11月衆議院議員。中央大学大学院客員教授を経て現職。著書に『最後は孤立して自壊する中国 2017年習近平の中国 』(石平氏との共著、ワック)。

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(2017年2月23日フォーサイトより転載)