【速報】米軍「シリア」ミサイル攻撃に込められた「トランプ大統領の怒り」

ミサイル攻撃の背景や狙いはいったい何なのか。元海上自衛隊呉地方総監で金沢工業大学虎ノ門大学院教授の伊藤俊幸氏に聞いた。

それはまさに電撃的な爆撃だった。4月7日(日本時間)、東地中海を遊弋する米海軍の駆逐艦2隻が、巡航ミサイル「トマホーク」59発を発射。シリア政府軍の反政府勢力に対する空爆の根拠地である、シリア西部のシャイラット空軍基地の滑走路や格納庫、燃料タンク、防空システムを破壊した。

トランプ米大統領は会見で、アサド・シリア大統領が「罪のない市民に恐るべき化学兵器攻撃を行った」とし、今回の攻撃は「米国の国家安全保障上の利益を守り、化学兵器の拡散と使用を防止するため」行ったものだ、と説明した。

シリアが、サリンなど化学兵器を使用した空爆を北部で行ったのは4月4日。国連安全保障理事会は緊急理事会を開き、シリアの化学兵器使用に対する非難決議について協議していたが、シリアの同盟国ロシアの反対で膠着状態だった。

そんな中での、電光石火の攻撃である。背景や狙いはいったい何なのか。元海上自衛隊呉地方総監(元海将)で金沢工業大学虎ノ門大学院教授の伊藤俊幸氏に聞いた。

「専門家」マティス、マクマスター両氏の存在

2013年、シリアがダマスカスでサリンなどの化学兵器を使用したのではないかと疑惑があり、イギリスが国連安保理に、化学兵器使用を根拠とした対シリア武力制裁容認決議案を提出したことがあった。これは中国とロシアの反対で合意に至らなかったが、当時のオバマ大統領は軍事介入を決意し、米上院外交委員会も、地上軍を投入しないなどの条件付きで軍事行動を承認した。つまりこの段階で米軍は、シリア攻撃「計画」を作成していたことになる。

ところがオバマ大統領は、ロシアの斡旋によるシリアの化学兵器廃棄案に合意し、この時は軍事作戦を行わなかったのである。

この時作られた作戦計画は廃棄されず、そのまま存在していた。トランプ大統領が限定攻撃というオプションについて指示したとき、中東の専門家でもあるマティス国防長官やマクマスター国家安全保障担当補佐官は、すぐにこの計画を取り出し、修正を加えて大統領に提出したはずだ。だからこそのスピード攻撃であり、またこの2名が主導して今回の作戦を遂行したと考えることができる。

「誤ったメッセージ」が原因か

以前フォーサイトで、トランプ大統領は何よりもまず、イスラム国(IS)打倒を第1に考えているということを述べた(2017年2月21日「トランプ外交『最優先』は『IS打倒』:『対中国』にあらず」)。

改めて簡単に説明すると、トランプ大統領はその就任にあたり、「イスラム国などのテロ集団を打倒することは我々の最優先事項」であり、そのためには「古い敵を友」として共に戦う、と宣言した、というものだ。

この場合の「古い敵」とは旧ソ連、つまりロシアである。つまりトランプ政権は、ロシアとの関係を改善させ、共同でイスラム国打倒に力を尽くそう、と言っていたわけだ。

これまでシリア国内では、アメリカは反アサド勢力を支援し、ロシアはアサド政権支援、と対立構造にあった。ところが先のトランプ宣言では、アメリカはロシアと共同歩調をとる=アサド政権を敵視しない、と読み取ることもできる。そしてアサド政権はその通りに受け取った。だから反政府勢力に対し、無慈悲な化学兵器攻撃を行ったのだ。

自らの外交政策が、アサド政権に誤ったメッセージを送ってしまった――トランプ大統領のそんな悔恨の思いは、4月5日の「(アサド政権は)いくつもの一線を越えた。シリアとアサド大統領に対する考え方が変わった」という言葉に端的に表れている。特に多くの子供が犠牲になったことに対し、大統領の怒りはヒートアップしたのだろう。迅速な行動の背景には、このようなことがあったと思われる。

「中国」「北朝鮮」へのブラフ

今回の軍事行動は、北朝鮮の後ろ盾である習近平・中国国家主席との米中首脳会談の最中に決断され、実行された。トランプ大統領は世界に「やるときはいつでもやる」姿勢を見せつけた形だが、これが中国や北朝鮮も視野に入れたものなのかどうかは、今のところ推測の域を出ない。

確かに、核ミサイル開発を続ける北朝鮮に対して、米政権内で軍事オプションが検討され始めているのは事実である。米中首脳会談の最中というタイミングが選ばれたことについても、さらに考える必要がある。

もしも、今回のミサイル攻撃が中国や北朝鮮へのブラフの意味も込めたものだとすれば、なかなかしたたかな外交だということもできようが、そこまでの意図は込められていなかったかもしれない。ただ結果的には、「やるときにはやる」アメリカの姿勢を強調することになったのではないかと思われる。

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(2017年4月7日「フォーサイト」より転載)

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