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変化を選んだ台湾「3度目の政権交代」へ

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4年に1度行われる台湾の総統選挙・立法委員選挙の投開票が16日行われ、野党・民進党候補の蔡英文氏が、圧倒的大差で勝利することが確実になった。台湾現地時間の午後7時(日本時間午後8時)時点で、午後4時に始まった開票作業はほぼ終了し、蔡英文氏の得票は650万票前後に達し、与党・国民党候補の朱立倫氏の得票は320万票ほどにとどまっている。蔡氏の大差による初の総統当選は間違いなくなり、朱氏は敗北宣言し、党主席の辞任を表明した。

およそ1年におよぶ選挙戦のなかで、終止、他の候補を支持率で大きく上回ってきた蔡氏が、安定した選挙戦を展開し、リードをきっちり守りきり、民進党にとって8年ぶりの政権復帰を成し遂げることになった。

敬服すべき「民主の力」

この夜、台湾は再び変わった。台湾の人々は変化を恐れない。むしろ変化を選ぶ。うまくいかなかったら、取り替える。将来は不確かかも知れないが、変わらないより、変わったほうがいい。そんな民主主義として当たり前のことが、台湾ではしっかり機能していることを実感させられた。

1996年に直接選挙を初めて総統選に導入した台湾では、2000年の国民党から民進党への政権交代、2008年の民進党から国民党への政権交代に続き、3度目の政権交代となる。台湾における国民党と民進党による2大主要政党を中心とする民主制度は完全に定着したとも言えるだろう。

8年前の2008年に、総統選挙で民進党は候補の謝長廷が馬英九に大敗を喫し、立法委員選挙でも30議席に届かないという壊滅的な結果だった。そのとき、私はこんな風に考えたことを覚えている。

「今後20年は国民党の天下だ。民進党はもう終わった」

そのとき、私だけでなく、多くの人が、似たような感想を抱いたはずだ。それが8年後に、国民党と民進党との間で立場がまったく入れ替わった姿を目撃することになった。台湾のテレビでいま圧倒的に蔡英文の票が積み上がっていく開票速報を眺めながら、自分の台湾観察の未熟さを恥じたくなる気持ちと、台湾の「民主の力」に敬服したい気持ちの両方がこみ上げてくる。

「立法院」も民進党勝利

国民党の最初の候補者であった洪秀柱・立法院副議長を投票の3カ月前にすげ替える形で候補に立った党主席の朱立倫氏だったが、支持率は一向に伸びを見せず、親民党候補の宋楚瑜主席とともに大差で敗れ去った。組織力で劣る民進党はもともと全国レベルの選挙では国民党より常に弱い立場にあった。過去、総統選での民進党の最高得票は2004年に陳水扁総統が勝利した時の50.11%だったが、今回はそれを大きく上回り、蔡氏の得票率は過去総統選のなかでも最高となる60%に達する可能性も出てきている。

同日に行われた立法委員選挙についても民進党は接戦と見られた注目選挙区をことごとく制するなど順調に議席を積み上げており、初めて過半数の57議席超えがほぼ確実な情勢になっている。選挙前の勢力は国民党64議席、民進党40議席だった。2014年に起きたヒマワリ運動の勢力が中心となって立ち上げた新政党「時代力量」も健闘しており、5議席以上の獲得となって躍進しそうだ。

民進党は過去、陳水扁が総統選に勝利したとはいえ、それは国民党分裂などによるもので、立法院では少数与党のままだった。今回、総統選で圧勝し、立法院も民進党側が制したことは、国民党が国共内戦に敗れて台湾に撤退し、事実上の一党体制を敷いた民主化以前から民主化を経て現在に至るまで、「国民党優位」の状況が60年以上も続いてきた台湾の政治地図が塗り変わり、党外勢力から台湾の主体性確立を掲げて成長した「民進党優位」という時代に初めて入ったことを意味している。これは台湾の内政だけではなく、今後の中台関係や、米国、日本などが絡んだ東アジア情勢にも大きな影響を与えることになるだろう。

2度目の総統選の挑戦で勝利した蔡氏は台湾の歴史上初めての女性総統になる。注目された対中関係について、蔡氏は「現状維持」を表明した。これは、国民党の馬英九総統が進めた中台の関係改善路線を事実上受け継ぐことを意味する。これによって中間層と呼ばれる現実的な政策を求める人々を引きつけることに成功する一方で、「台湾アイデンティティ」と呼ばれる台湾人意識が強まる台湾社会に対しても「台湾の将来は台湾人自らが決定する」と繰り返し強調することで、幅広い支持を集めることに成功した。

国民党は「解党の危機」

選挙結果はもちろん民進党の勝利ではあるが、事実上自滅と言ってもいいぐらい、国民党の失策につぐ失策、判断ミスにつぐ判断ミスがあり、あまりにもお粗末な選挙戦が招いた必然の敗北だったと言えるだろう。馬英九政権の8年で中台関係や外交は確かに安定したが、経済政策などで結果を出すことができず、政権の実績を訴えたが選挙民には受け入れられなかった。

間違いは、もともと国民党のなかでも親中国意識のかなり強い方である洪秀柱・立法院副院長を候補に選んだところから始まった。予想通りというか、洪氏が中国問題で馬英九総統の路線を外れるような失言を連発し、候補者にとって代わった朱立倫氏も、選挙戦を立て直す事はできなかった。馬総統主導による中台トップ会談で逆に朱氏の存在感がかすみ、副総統候補に選んだ王如玄氏も、軍人住宅での不透明な取引で国民党の「鉄票(絶対的支持層)」と言われる軍人・公務員系統からも嫌われてしまった。立法委員選挙の比例区の名簿も派閥勢力のバランスを取っただけで新味がなく、長老らを排して在野の人材を幅広く集めた民進党の名簿との差は顕著で、支持者にそっぽを向かれた。

党としての寿命の終わりすら感じさせるほどの凋落を見せた国民党は今後、解党の危機をはらみながら、生き残りのための党改革に向き合わなくてはならない。次世代のホープとされてきた朱立倫氏は政治的名声に傷を負った形で当面表舞台から姿を消して新北市長に戻ることになり、馬英九総統、立法院長の王金平氏、副総統の呉敦義氏らベテランを中心に、党の立て直しをどうやって若い世代に引きついでいくかが問われる。総統候補の選出過程などで起きた党内の傷は深刻なものがあり、立て直しは容易ではなく、党内の本土派と外省人派の対立が激化すれば分裂や解党の危機にも瀕しかねない。

中国の「踏み絵」への対応

今回、中国は早々に国民党の敗北を認識したこともあり、台湾選挙については、明確な形でのコメントを控えてきた。今後は、対中関係においては、中国が新政権との関係維持の前提条件として台湾側に遵守を求めている「1992年合意」(1つの中国を認めながら、その解釈は中台双方で異なる)に対する蔡氏の対応などが問われることになる。「1つの中国」を公式に受け入れるとは言わない蔡氏は、この中国の「踏み絵」にどう向き合うかが問われる。中国経済は減速が目立ち始めたとはいえ、貿易額の4割を中国に依存し、大半の製造業が中国に大型の生産拠点を置く台湾には、中国から離れる選択肢はあり得ない。

現在、大統領選が近づき、テロとの戦いや南シナ海をめぐる中国との対立も抱えている米国は、この選挙結果が中台関係の対立による地域の不安定化に結びつかないことを第1に考え、選挙後、中国、台湾双方に特使を派遣して情勢の把握や米国の立場の説明に努めることが決まっている。この台湾総統選の衝撃的な結果は、しばらく東アジアに複雑な波紋を広げていきそうだ。

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野嶋剛

1968年生まれ。上智大学新聞学科卒。大学在学中に香港中文大学に留学。92年朝日新聞社入社後、佐賀支局、中国・アモイ大学留学、西部社会部を経て、2001年シンガポール支局長。その後、イラク戦争の従軍取材を経験し、07年台北支局長、国際編集部次長。現在はアエラ編集部。著書に「イラク戦争従軍記」(朝日新聞社)、「ふたつの故宮博物院」(新潮選書)、「謎の名画・清明上河図」(勉誠出版)、「銀輪の巨人ジャイアント」(東洋経済新報社)、「ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち」(講談社)、「認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾」(明石書店)、訳書に「チャイニーズ・ライフ」(明石書店)。

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(2015年1月16日フォーサイトより転載)

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