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東電「數土会長」が仕掛ける「エネルギー業界地図」大激震

2014年08月28日 01時27分 JST | 更新 2014年10月25日 18時12分 JST
Bloomberg via Getty Images
Fumio Sudo, incoming chairman of Tokyo Electric Power Co. (Tepco), gestures as he speaks during a news conference at the company's headquarters in Tokyo, Japan, on Monday, March 31, 2014. Tokyo Electric Power Co. has no plans to raise electricity rates this year even as it looks increasingly likely it won't get approval to restart nuclear reactors this summer. Photographer: Kiyoshi Ota/Bloomberg via Getty Images

 東京電力の会長にJFEホールディングス相談役の數土文夫(73)が就任してまもなく5カ月。「東電改革の成否が日本経済の浮沈を左右する」と就任前日3月31日の記者会見で危機感あふれた覚悟を語った通り、數土は事実上破綻した国内最大の電力会社の経営に容赦なくメスを入れている。初仕事で霞が関の監督官庁に大きな影響力を及ぼしていた企画部を廃止。同時に、同部出身のエリートで、福島第1原子力発電所事故当時の会長である勝俣恒久(74)の側近といわれた常務執行役の村松衛(59)を日本原子力発電副社長に転出させた。さらにその後も、全国規模の電力小売り参入、火力発電分野での包括提携企業選定など、政府が進める電力システム改革を先取りする施策を次々に打ち出している。逆に、トップが「原発再稼働」を唱えるだけの大手電力他社は、改革のスピードで遅れをとり、巨額赤字に苦しむだけに、先行きに差す暗い影は一段とその大きさを増している。

「『數土東電』という時限爆弾」

『エネルギーフォーラム』という月刊誌をご存じだろうか。1955年1月に『電力新報』の名称で創刊され、80年に現名称に改題した。公称4万部(2006年時点)で「我が国のエネルギー問題に関する唯一最高の権威ある総合誌」との看板を掲げ、記事内容の充実を図るため、「5大新聞(朝日、毎日、読売、日経、産経)各社の論説委員に全面的な協力を得る」としている。とはいえ、読者層が電力やガス・石油会社、関係官庁・団体などの幹部層が中心のため、編集の視点は専ら企業側、官庁側にあり、内容は業界紙に近い。

 そんな同誌の特集記事を眺めていると、エネルギー業界関係者、とくに電力業界の空気が読み取れる。以下は、『FORUM Cutting Edge』という同誌売り物コラムの最近の見出しである。

「再生か、解体か!?『數土東電』という時限爆弾」(4月号)

「関電、九電を翻弄した規制委『島崎続投』の悪夢」(6月号)

「東電の展望なき『官製アライアンス』の虚実」(7月号)

 既得権益の塊のような電力業界が抜本的改革の俎上に乗せられようとしている中で、守旧派の人々を最も苛立たせているのが、かつての「業界の盟主」である東電のトップの座に就いた數土である。エネルギーフォーラム4月号で同誌社長と対談した數土は、「東電の料金は東日本大震災の前から韓国の2.5倍から3倍近く高かった。よく『韓国は政府の補助金が入っている』と言われますが、ともに総括原価方式を採用しているんです」と得意の「国際競争感覚」を持ち出し、東電改革への意欲を滔々とまくし立てている。

炸裂した"數土爆弾"

 本来、「安い電力」は、數土が半世紀にわたって籍を置いた鉄鋼産業にとって共通の願いであるはずなのだが、経営者たちは発電施設や送電鉄塔など鉄鋼製品の大口ユーザーである大手電力に対し、どこか弱腰だった。福島原発事故以後、赤字転落で値上げに走った電力各社の経営体質を表立って批判することなど皆無であり、むしろ、新日鉄住金相談役(日本商工会議所会頭)の三村明夫(73)のように、原発の早期再稼働を求める電力業界の援護射撃に余念がない経営者が目立つ(三村は、政府の総合資源エネルギー調査会基本政策分科会の会長として、昨年12月、原発を「重要なベース 電源」と位置づけるエネルギー基本計画に対する意見 をまとめている)。

 これに対し、數土はあえて"火中の栗を拾う"形で東電会長を引き受けた理由について、「日本がこれからも世界に通用する国力を持てる国になれるか、いまがラストチャンスと考えた」(前出エネルギーフォーラム4月号対談)と語り、「産業界全体が競争力を持てるような電力システムを構築しないとだめだ」「電力会社だけ生き残って、日本の産業がすべて枯れ果ててしまっては大変なことになる」(2014年3月11日付日刊工業新聞)と、既存の業界秩序を打ち壊す決意を明かしている。

 冒頭で触れた東電の企画部廃止(具体的には経営企画本部事務局への統合)と村松の日本原電転出は、そんな"數土爆弾"が炸裂した格好の例といえる。12年6月に東電社外取締役に就任して以来、數土は不条理な電力業界体質を批判してきたが、その中に日本原電への支払い問題があった。

"堂々巡り"に決着

 同社は大手電力が出資して1957年に設立された原発専業会社で、東海第2原発(茨城県東海村)と敦賀原発(福井県敦賀市)1、2号機の計3基の原発を保有している。福島事故以後、いずれも稼働を停止し、14年3月期は発電ゼロ。しかし、電力各社は定額で徴収する基本料金を払い続けているために業績は安定しており、同期の営業利益は96億円、経常利益は87億円、純利益は17億円と、いずれも黒字なのだ。

 このうち、筆頭株主(出資比率約28%)の東電は、14年3月期に「300億円台半ば」を支払ったとされる。數土はかねてから「発電もしていないのに料金を支払うのはおかしい」と批判しており、その矛先は、「いずれ東海第2が再稼働すれば状況は正常化する」と釈明を続ける企画担当の村松に向けられた。1970年に稼働開始した敦賀1号機はすでに44年が経過した老朽原発であり、2号機は87年の稼働で比較的新しいが、昨年5月に原子力規制委員会が直下に活断層があるとの判定を下し、運転再開は困難な状況。東海第2も78年の稼働開始で36年が経過していることに加え、首都圏から約110キロと近距離にあることから、再稼働のハードルは限りなく高い。要するに、日本原電が保有する3基の原発は「どこも動かない」というのが電力業界の外では"常識"になっているにもかかわらず、東電経営陣内では「(巨額の基本料金を)払う払わない」の堂々巡りが続いていたわけだ。

 そんな中で數土は主張を曲げず、東電から役員を送り込んで経営の道筋をつけなければ日本原電への支払いを認めないと宣言。結局、当事者の村松が副社長として派遣されることになった。一部の東電関係者は、「村松氏は追放されたのではなく、任務を終えれば戻ってくる『往復切符』だ」と力説するが、數土が解任されて改革路線が無に帰すことでもない限り、村松の"復活"はあり得ないだろう。

東電に対する業界の敵意

 數土は同じ論法で、大手電力10社で組織する電気事業連合会から常勤役員を引き揚げさせた。電事連は「最強の業界団体」といわれ、90年代半ばから旧通商産業省(現経済産業省)の主導で始まった電力自由化をことごとく骨抜きにした実績がある。電事連の会長ポストは東電、関西電力、中部電力の3社が輪番で引き受けてきたが、福島原発事故発生時に在任していた当時の東電社長、清水正孝(70)が11年4月に辞任したのをきっかけに、輪番制は崩壊。清水の後任に関電社長の八木誠(64)が就任した際、副会長ポストに就いていた元東電副社長の木村滋(66)は、兼務していた東電取締役は辞任したものの、電事連では留任したため(東電が再就職先を用意しなかったことが理由といわれている)、東電出身者が常勤役員に残る形になった。

 その木村が、今年6月に電事連副会長をようやく退任。当然のことながら、數土は後任を送らなかった。すでに電事連では、12年7月に国有化された東電を同業者扱いせず、会議でも政府(経産省)への"機密漏洩"を防ぐために東電関係者の退出を求めるケースも少なくないという。「改革の先頭に立つ數土さんがトップに就いてからは、東電に対する敵意すら感じる」と大手電力関係者は指摘する。

巨大プロジェクト

 電力業界の守旧派にとって、數土の主導する改革で最も警戒を強めているのは、火力発電分野での包括提携である。7基の原子炉がある柏崎刈羽原発(新潟県柏崎市、刈羽村)の再稼働は、「福島事故の検証なしに議論はできない」と主張する新潟県知事、泉田裕彦(51)の前にお手上げの状態で、いまだ現実性に乏しい。このため、東電は電源を火力発電に頼らざるを得ないが、福島事故で兆円単位の損害賠償や廃炉、除染費用がのしかかる現状では資金が枯渇し、老朽施設の建て替えもままならない。そこで浮上してきたのがエネルギー大手との包括提携戦略だ。

 東電が敷地を提供する代わりに、提携先企業に火力発電所の建設費を負担してもらう仕組みで、具体的には五井(千葉県市原市)、姉崎(同)、袖ヶ浦(同袖ケ浦市)にある3カ所の火力発電所を最新鋭の液化天然ガス(LNG)火力発電所に建て替える計画を提案する。この3つの発電所の発電設備容量は合計約900万キロワットで原発9基分に相当するが、いずれも運転開始から35-50年が経過して老朽化が進んでいる。一般に100万キロワット級のLNG火力発電所の建設費用は1基当たり1000億円を超すといわれており、実現すれば1兆円前後の巨大プロジェクトになる。

 ところが、今年5月までに東京ガスや大阪ガス、JXホールディングス、さらに同業の関西電力や中部電力の5社が名乗りを挙げ、現在提携交渉を進めている最中だが、実はここに来て5社の一部から「話が違う」と不満の声が漏れ始めているのだ。

電力業界内部の軋轢

 例えば、東京電力と東京ガスの関係がそうだ。昨年12月に東電が政府に提出した新・総合特別事業計画(再建計画)では、他社との包括提携は燃料の調達・輸送に重点が置かれていたが、提携交渉が本格化してくる中で、東電側は上記の3つの火力発電所建て替え計画を提案に組み込んできた。実は、3つの中の1つ、袖ヶ浦火力発電所は、東電と東京ガスが共同運営するLNG基地から燃料を調達しており、仮に東ガスが包括提携に加われない場合、このLNG基地は有力な供給先を失うことになる。そして実際に、問題の包括提携のパートナーには、当初多かった東ガスを推す声が東電社内から聞こえなくなりつつある。今では、東ガス首脳陣には「(LNG基地の共同運営で協力してきた東電に)裏切られた」という思いが広がっているというのだ。

 さらに、電力業界内部の軋轢も表面化している。東電は9月中にも提携先を決定し、来年3月までに共同事業会社を設立する考えだが、數土が率いる現経営陣は、建て替える発電所を個々に特定目的会社(SPC)に移管するプランも進めている。発電所単位の収支を透明化し、電力売買価格の適正化を維持することは、一連の電力システム改革で2018-20年に実施予定の発送電分離を成功に導くために不可欠な要素。小売り自由化後も当面は圧倒的なシェアを持つと見込まれる既存の大手電力が、価格を無視して自社系列の発電所からの買電を優先すれば、市場の競争は機能しなくなるからだ。

 だが、大手電力の守旧派の間には、会社解体を加速させるとして反発が強まっている。中でも関西電力は、ここに来て、福島事故の損害賠償のために政府が設立した原子力損害賠償・廃炉等支援機構への一般負担金について、「支払いの返上も辞さない」と、監督官庁である経産省に八つ当たりするほど、東電の包括提携戦略に対する態度を硬化させている。

地域独占に風穴が空くか

 なぜか。それは、東電の包括提携の相手に中部電力が選ばれる可能性が高まり、そこに中部電力と親密な関係にある大阪ガスが合流するシナリオが、霞が関界隈でしきりに囁かれ始めているからだ。

 8月16日付日本経済新聞朝刊記事(「東電、来月にも提携先決定 火力発電事業、中部電が有力に」)によると、中部電のLNG調達量が国内で東電に次いで多く、両社の包括提携によって規模のメリットを出しやすいことが、中部電が有力候補に選ばれた理由とされている。

 中部電のLNG調達量は年1400万トンと、東電の2500万トンに次いで国内第2位であり、両社分を合算すれば日本全体の調達量のほぼ半分を占める。購買力の拡大は、LNG産出国・企業との価格交渉を有利に進める重要なポイント。そしてさらに、両社の提携に年800万トン(2012年度実績)を調達する大阪ガスが加わるプランが検討されているわけだ。今年1月に中部電の四日市火力発電所(三重県)と大ガスの多賀ガバナステーション(滋賀県)を結ぶ約60キロのLNGパイプラインを開通させるなど、かねて中部電と大ガスは親密な関係にあり、東電を加えた3社連合が誕生すれば、「電力・ガス市場で地域独占に風穴をあける先兵役になる」と経産省の改革派官僚たちの間で待望論が高まっている。

 そうなると、関電が危機感を強めることは容易に想像できる。ただでさえ、3期連続の巨額赤字(12年3月期-14年3月期の純損失合計額は5831億円)で、自己資本が11年3月期の1兆8108億円から、14年3月期は1兆1888億円に減少。このうち繰り延べ税金資産が5500億円もあるが、今期も赤字で4期連続になると取り崩しを余儀なくされる可能性もある。赤字の金額次第では債務超過もちらつく苦しい台所事情で、地域独占に守られてきた電力市場に新たな強敵が出現するわけだ。地盤が重なる大ガスに加え、全国での小売り参入を表明した東電、原発比率が低く収益力のダメージも小さかった中部電が名を連ねる3社連合がLNG火力でのコスト競争力を近畿一円でフルに発揮するようになれば、関電の顧客離れは不可避だろう。

 福島事故以後も「早期の原発再稼働」を唱え