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東芝を圧迫する「巨額のれん代」と迫る「債務超過」危機

2015年07月30日 00時11分 JST | 更新 2016年07月27日 18時12分 JST
Chris McGrath via Getty Images
TOKYO, JAPAN - JULY 22: Toshiba Corporations, Tokyo headquarters is seen on July 22, 2015 in Tokyo, Japan. Toshiba Corporation President Hisao Tanaka and two other executives resigned July 21, over a $1.2billion accounting scandal. (Photo by Chris McGrath/Getty Images)

東芝の粉飾決算問題を2カ月余りにわたって調査してきた第三者委員会(委員長=上田広一・元東京高検検事長)は7月20日、利益操作の期間が2009年3月期から7年間に及び、その金額は計1562億円に上るとの報告書を提出。受理した東芝は翌21日、その間に在任した3人の歴代社長がそろって同日辞任したと発表した。8月末までに確定する予定の2015年3月期決算では「半導体やパソコン事業などで計700億円規模の減損損失を計上する可能性がある」(7月21日付日本経済新聞朝刊)との報道もあるが、その程度の修正なら「社内はパニックにならないし、株価も反発するはず」と長年の東芝ウォッチャーである外資系アナリストは指摘する。財務のプロたちの関心の的は粉飾決算の背景にある、膨れ上がった「のれん代」や「繰り延べ税金資産」の行方と、その先に控える"債務超過危機"である。

金融危機時のメガバンクと同じ

辞任した社長の田中久雄(64)と留任して暫定的に社長を兼務する会長の室町正志(65)が並んで記者会見し、「グループ20万人の従業員にけじめを示す」と宣言した日から3日後の24日、東芝はメガバンク3行をはじめ90を超す取引金融機関を対象にした説明会を東京・芝浦の本社で開いた。

冒頭、東芝幹部が今回の粉飾問題について陳謝するとともに、各金融機関に融資残高を維持するよう要請。参加者からは目立った意見は出ず、混乱もなく終了したという。ただ、ある地方金融機関幹部は、「主要行には決算修正の規模が3000億~5000億円に達するとの報告があったらしい。我々はラスト・リゾート(最後の貸出先)ではないからだろうが、情報も説明も後回しだ」と不満げに話す。金融界では、すでに「東芝の"巨額減損"は不可避」との見方が広がっているのだ。

「今回の東芝の『粉飾決算問題』は、かつての金融危機の際のメガバンクの問題を引き合いに出すと分かりやすいかもしれない」

日本監査役協会のある幹部はこんな説明をする。

金融危機当時のメガバンクは、不良債権が膨らんでいく一方で自己資本が不足。そんな中で計上している「繰り延べ税金資産」を守るためには、利益計画の達成が必須だった。そもそも、将来の納税から還付されると見込まれる金額を一時的に資産計上しているのが「繰り延べ税金資産」である。従って、赤字転落して納税額がゼロになったり、計画より大幅に減少すれば、取り崩しを迫られるからだ。

金融機関にとって、利益計画の未達成→「繰り延べ税金資産」の取り崩し→債務超過転落→経営破綻、というのが一番恐れたシナリオだった。そして、今回の東芝も、利益計画の未達成→その他資産(バランスシートの資産項目にある「のれん代」や「繰り延べ税金資産」などの総称)の減損→自己資本の大幅な毀損、となる可能性がある。

「(東芝の)経営者の立場からは『会社を守るために利益計画の達成は必須』だったということなのだろう」と、先の監査役会幹部は説明する。

突出する巨額の「のれん代」

ところで、このところ東芝の粉飾問題で頻繁に出てくる「のれん代」だが、確かにその額は突出している。この「のれん代」とは、企業買収の際に発生する、買収される企業の純資産額と買収額の差額のこと。現金や不動産、機械設備などの簿価を上回る、いわばプレミアム部分だ。日本の会計基準では20年以内で均等償却するが、米国会計基準や国際会計基準(IFRS)では、買収された企業の収益力が低下した場合に一括償却する。東芝の場合は、米国会計基準を採用していた。

以下は、2006年に54億ドル(当時の為替レートで約6400億円)で米原子力プラント大手「ウエスチングハウス(WH)」社を買収して以来の、東芝の「のれん代」の推移である。

■2007年3月期=7467億円(WH株77%を買収)

■2008年3月期=6539億円(WH株10%をカザフスタン企業に売却)

■2009年3月期=6298億円

■2010年3月期=6187億円

■2011年3月期=5592億円(東京電力福島第1原子力発電所事故発生)

■2012年3月期=7116億円(スイスのスマートメーター大手「ランディス・ギア」の株60%を約1260億円で買収)

■2013年3月期=9121億円(WH株20%を買い増し)

■2014年3月期=1兆6億円

ちなみに、54億ドル(約6400億円)というのはWH社買収総額であり、東芝が77%の株式を取得するのに支払った対価は42億ドル(約5000億円)とされる。WH社買収前の2006年3月期に東芝が計上していた「のれん代」は1157億円であり、それが1年後に6310億円も膨らんだ。WH社買収直後、当時の社長、西田厚聰(71)は、巨額の買収額について問われると、「15年から20年で回収できる」と豪語していたが、さすがに負担の重さを嫌気したのか、2007年にカザフスタン政府直営の原子力事業会社「カザトムプロム」に、WH社株10%を5億4000万ドル(約640億円)で売却している。

余裕がないから無理を重ね......

だが、WH社への出資比率を67%に引き下げてホッとしたのも束の間、4年後の福島原発事故で世界の原発市場は一変。新設案件が次々に凍結されただけでなく、欧米では稼働中の原発も運転停止や廃炉に追い込まれるケースが続出した。

WH株20%を保有していた米エンジニアリング大手「ショー・グループ」(米ロサンゼルス)は原発市場の先行きに見切りをつけ、2012年秋に東芝に株の買い取りを要求。リーマン・ショック後の財務体質もままならない中で、東芝は泣く泣く約1250億円もの支出を余儀なくされた。

内情はこうだ。2006年に英国核燃料会社(BNFL)からWH社を買収した当初、持ち株比率は東芝が77%、ショーが20%、IHI(旧石川島播磨重工業)が3%とし、その中でショーの保有株について「プットオプション(売却できる権利)」が存在していた。つまり、ショーに対し、「売却の意向の通知を受けてから90日後に、東芝は約1250億円で買い取る」という権利を与えていたとみられる。裏を返せば、福島原発事故以前でさえ、そんな都合の良い条件付きでなければWH株の引き受け手はいなかったということだ。

そんな経緯もあって、2014年3月期に東芝の「のれん代」は1兆円の大台を突破した。長年ライバル視されてきた日立製作所の2015年3月期の「のれん代」が4413億円(日立はIFRS採用)であることから見ても、過大さは際立つ。しかも、日立の2015年3月期の売上高が9兆7620億円だったのに対し、東芝の同期予想売上高は6兆7000億円と1.5倍近い差がついている。

さらに、東芝は昨年6月、英原子力発電事業会社「ニュージェネレーション」(略称ニュージェン)の株式60%を1億ポンド(約190億円)で買収。逆風が吹いている原発ビジネスに一段とのめり込み、その結果、2014年第3四半期(4~12月)末の「のれん代」は、1兆1539億円にまで膨れ上がっている。前出の監査役会幹部は「ウエスチングハウスの『のれん代』が6000億円としても、自己資本に余裕があれば、失敗を認めて損失処理ができたのだろうが、余裕がないから無理を重ねる。これは金融危機の時の大手銀行に似ている」と解説する。

実現性乏しい「日立・東芝」合流

東芝の苦難は、この「のれん代」1兆1539億円に「繰り延べ税金資産」2427億円が加わり、諸々の無形資産などを合計したバランスシートの「その他資産」項目が1兆5540億円に膨張し、株主資本(1兆4264億円)を上回ってしまっていることに象徴される。

「『その他資産』とは、環境の変化があれば一発で消えてしまう性質の資産」(監査役会幹部)であり、そうであるなら、8月中に発足する新経営陣の最初の仕事は、取引金融機関に対する融資継続の要請だけでなく、それ以上に資本増強が優先事項になる。増資で債務超過の懸念を回避しない限り、信用不安がつきまとうからだ。

ただ、先行き不透明感が漂う原発ビジネスにどっぷり浸かった東芝への資金支援は容易ではない。戦前に資本関係もあった米「ゼネラル・エレクトリック(GE)」は東芝救済に大いに関心を示すだろうが、国威発揚にこだわる安倍晋三政権が、「国益に直結する会社」(経済産業省関係者)である東芝の再建問題に外資の介入を許すはずもない。おまけにGEは、原発事業で日立の密接なパートナーであり、WH社を丸抱えとする東芝陣営とは強力なライバル関係にある。

その日立も、火力発電事業部門で昨年2月に三菱重工業との共同出資会社「三菱日立パワーシステムズ」を設立したばかり。さらなる東芝の合流は、「締め付けの緩い日本の公正取引委員会でも、さすがに難色を示すはず」(前出の外資系アナリスト)と実現性は乏しい。

IHIによる支援の可能性

そんな中、東芝の信用補完のパートナーとして浮上してきている企業の1つに、IHIがある。両社は同じ三井系で、「二木会」(三井グループの社長会)の主要メンバーでもある。戦前、東京石川島造船所(IHIの前身)と芝浦製作所(東芝の前身)が発電機事業拡大のため、共同出資で「石川島芝浦タービン」を設立。その経営を担ったのが、石川島造船所出身の土光敏夫(1896~1988年)である。両社は戦後も緊密な関係にあり、1960年に石川島重工業社長として播磨造船所との合併を実現した土光が、会長に退いた翌年の1965年に東芝の社長に抜擢された例もある。

前述のように、IHIは東芝が買収したWH社に3%出資しているのに加え、前回の拙稿でも指摘したように、WH社が2008年に受注した米国での4基の原発向けに直径40メートル、高さ66メートル、重さ4000トンという巨大な原子炉格納容器を製造するなど、事業が重なる分野も少なくない(2015年7月22日「粉飾決算・東芝『もう1つの爆弾』は『ウエスチングハウス』社」参照)。

IHIの2015年3月期の売上高は1兆4558億円と、東芝の予想売上高の4分の1以下だが、この数年は航空機エンジン関連の受注を伸ばし、前期にブラジル海洋事業で特損を計上した以外は収益が安定。2016年3月期は純利益が過去最高を更新する勢いだ。合併や統合は実現性が薄いとしても、東芝の第三者割り当て増資をIHIが引き受けるような形での支援策は十分可能性がある。

第三者委の調査報告と歴代3社長の辞任は第1幕に過ぎない。原発ビジネスから逃げ遅れた東芝に苦難の日は続く。(敬称略)

杜耕次
ジャーナリスト

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(2015年7月28日フォーサイトより転載)