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東芝・大物「社外取締役」は何をしていた?「辻褄合わせ」体質の無残な末路--磯山友幸

2017年03月01日 23時56分 JST | 更新 2017年03月02日 00時11分 JST

東芝が経営危機に直面している。

2015年春に発覚した不正会計問題で経営体制を一新、これから再建に本腰を入れるかに見えた2016年末になって、突然、米国の原子力事業で「数千億円」規模の損失が発生する事態が表面化。

2月14日には、米原子力事業の「のれん」の減損額が7125億円に達することを公表した。ただし、その数字も「当社の責任において当社としての見通し及び見解を記述したもの」という前提付き。

同日発表予定だった2016年第3四半期決算発表は延期となり、決算数値が確定できない異例の事態に陥っている。3月末には債務超過が避けられない見通しで、まさに存亡の危機だ。

本当に突然だったのか

2月14日の記者会見直前、東芝の綱川智社長は、本社39階で社員向けメッセージを読み上げた。その様子は社内にテレビ中継され、速記録も配布された。そこで綱川社長はこんなことを言っている。

「ここで私が申し上げたいのは、本年度の業績問題は私を中心とする経営陣の舵取りにあって、決して皆さんが作り出す技術や品質が問題を起こしているわけではないので、自信を失わないで欲しい、ということです」

かつて自主廃業した山一証券の野澤正平社長が記者会見で、「みんな私らが悪いんであって、社員は悪くありませんから」と号泣したことがあったが、それを彷彿とさせる発言である。

綱川社長はこうも語っている。

「本年度の足下の事業について言えば、皆さんの頑張りで、一連の構造改革の成果も出てほとんどの事業が好調に推移しており、今回の原発事業の損失を除いた営業利益は、過去最高に近い約3000億円に回復していただけに、まことに残念でなりません」

つまり、突然表面化した原発の損失がなければ好調だったのに、と言っているのである。だが、原発の損失表面化は本当に突然のことだったのだろうか。

巨額の損失が明らかになったのは、原子力子会社「ウエスチングハウス」(WH)が2015年末に買収した原発建設・サービス会社「CB&Iストーン・アンド・ウェブスター」(S&W)。

WHとS&Wが受注した米国内での原発建設を巡って、2011年の東日本大震災以降、米当局の規制が大幅に厳しくなったため、コストが大幅に上昇。電力会社やS&W、WHとの間でそのコスト分担を巡って紛争になっていた。

その矢先、WHがS&Wを買収したのだが、東芝社内では、この買収によってWHの負担が小さくなると説明されていたという。

ところが、現実には逆で、S&Wの損失をすべてWHが被ったうえに、東芝が親会社として保証を付けていたことが明らかになった。工事が完成しなかった場合の損害賠償責任まで東芝が負っている。

この買収の過程でWHは、発注元の電力会社との間で契約を変更。一定以上のコスト上昇が発生した場合には、電力会社ではなく、WHがその費用を負担するオプション契約を結んだという。

この結果、WHは無限責任を負う格好になった、という。

大物ぞろいの社外取締役

なぜ、東芝はこんな買収や契約変更をWHに許したのか。考えられるのは、WHの「のれん」の減損処理を避けるためだ。

2006年に東芝がWHを買収した際の買収価格と資産総額の差、つまり「のれん」は3500億円あまり。2015年末の段階で、東芝はWHの事業は順調で、のれんの減損は必要ないという立場をとっていた。

WHの米国原発での損失が大きくなれば、減損を迫られ、債務超過に転落しかねない。

結局、東芝は、債務超過に陥らないためにWHの減損を回避するという「やり繰り」に奔走していたわけだ。

不正会計の発覚によって歴代3社長が退任した後を受けて、臨時株主総会が開かれたのが2015年9月末。

そこで新経営体制が発足した。取締役11人中7人を社外取締役とする「先進的」なコーポレートガバナンスの体制を敷いた。しかも、社外取締役は大物ぞろい。

三菱ケミカルホールディングス会長の小林喜光氏は経済同友会の代表幹事も務める財界の重鎮。資生堂の社長、会長を務めた前田新造氏と、アサヒグループホールディングスの社長、会長を務めた池田弘一氏も大物経営者だ。

さらに、古田佑紀氏は検察官出身で、2005年から12年まで最高裁判事を務めた。また、会計士の佐藤良二氏は監査法人トーマツでCEO(包括代表)を務めた人物。

野田晃子氏は中央青山監査法人の代表社員だった会計士で、証券取引等監視委員会の委員も務めた。いずれも名だたる経営者、専門家たちである。

今回の巨額損失につながったWHによるS&Wの買収方針を東芝が発表したのは、2015年10月28日のこと。その直前に取締役会で承認されていたとみられる。

つまり、この買収を承認したのは新体制の取締役たちなのだ。彼らはS&Wの買収について、一体どんな説明を受け、何を質し、どんな理由でWHによる買収を承認したのか。

綱川社長は巨額損失の可能性が報じられた昨年12月、直前までその事実を知らなかったと答えている。果たしてこれは本当なのだろうか。

もし、S&Wの買収や契約変更がWHの減損回避のために行われていたとすれば、東芝は不正会計の発覚にも懲りずに、辻褄合わせを行い、それを取締役たちも看過してきたことになる。

巧妙に抜かれた「魂」

東芝は、制度上はコーポレートガバナンスを先取りしてきた会社だ。 

日本に「委員会設置会社(現在の指名委員会等設置会社)」の制度が導入されると、東芝は真っ先にこれに移行した。2003年6月のことだ。

当時、西室泰三氏が会長、岡村正氏が社長だった。これで「監視」と「執行」が分離され、ガバナンスの機能が高まるはずだったが、実際には社外取締役らの監視は機能せず、会計不正へと至った。

なぜ、そんなことが起きたのか。

東芝はこの時、「形」は作ったものの、巧妙に「魂」を抜いていたのである。委員会設置会社の「肝」は指名委員会だが、これを東芝は見事に骨抜きにしたのだ。

東芝の指名委員会は取締役会長と社外取締役2人が務める形にしたが、社外の委員には学者や官僚OBなどを据えたのである。

社外が過半数の形ではあるが、社長経験者の会長が人事を牛耳ることになるのは明らかだった。西室氏はこれで社長から権限を奪う「会長支配」を確立したのである。

実は2015年9月の「体制一新」に見えた布陣も、当初から「骨抜き」が懸念された。

大物をズラリと並べ、「形」だけは整えたものの、取締役会の機能を本気で高めようとしたのかどうか。どの程度の情報が社外取締役に上げられ、米国の原子力事業などに関する重要な決定にどれだけ関与したのか。

東芝という会社には「辻褄合わせ」の文化が根付いているのではないか。会社を生き残らせるためには、期末の決算数字を作らなければならない。経営者がそう信じてきたのではないか、と疑ってしまう。

結局、あれだけの巨額粉飾決算を行っておきながら、「不適切会計」という言葉を最後まで使い続けた。「会社を守るための数字合わせをして何が悪い」と開き直っているようにすら見える。

その場しのぎ

2016年3月末の決算も、いま振り返れば「辻褄合わせ」だった。期末に債務超過にしないために、東芝メディカルを売却し、何とか決算書を繕った。

売却が決まるとWHの減損も行っている。債務超過を回避できるメドが立ったからだろう。

債務超過になると銀行から融資の引き上げを迫られるという事情もあったのだろう。

だが、実態を示すことよりも、債務超過にしないことが目的化していたように見える。虎の子の医療事業を売却して東芝が将来やっていけるのかどうか、という経営判断は度外視された。

今年の3月決算も同様だ。現時点での稼ぎ頭である半導体事業を売却する方針を決めている。当初は別会社にしたうえで20%程度の株式を売却するとしていたが、直近では過半数を売却するとしている。

20%の売却ならば連結決算で売り上げも利益も資産もそのまま合算することができる、と当初は考えたに違いない。だが、それでは債務超過が回避できないとなると、経営権を手離してでも必要な資金を手に入れるとしている。経営というよりもその場しのぎの「辻褄合わせ」だろう。

目先の「辻褄合わせ」が結局は社内に粉飾体質を広め、その場しのぎの重大な契約変更を許して、会社の存続自体を危うくしている。この体質が残っている限り、本当の再生は難しいだろう。

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磯山友幸

1962年生れ。早稲田大学政治経済学部卒。87年日本経済新聞社に入社し、大阪証券部、東京証券部、「日経ビジネス」などで記者。その後、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、東京証券部次長、「日経ビジネス」副編集長、編集委員などを務める。現在はフリーの経済ジャーナリスト。著書に『国際会計基準戦争 完結編』、『ブランド王国スイスの秘密』(以上、日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)、編著書に『ビジネス弁護士大全』(日経BP社)、『「理」と「情」の狭間――大塚家具から考えるコーポレートガバナンス』(日経BP社)などがある。

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(2017年3月1日フォーサイトより転載)