「米本土射程」ミサイルで米朝「大変」(2)「力の誇示」にこだわったトランプ大統領--平井久志

大統領が「アメリカ・ファースト」を強調すればするほど...。
U.S. President Donald Trump and Russian President Vladimir Putin talk before a session of the APEC summit in Danang, Vietnam November 11, 2017. Sputnik/Mikhail Klimentyev/Kremlin via REUTERS ATTENTION EDITORS - THIS IMAGE WAS PROVIDED BY A THIRD PARTY.
U.S. President Donald Trump and Russian President Vladimir Putin talk before a session of the APEC summit in Danang, Vietnam November 11, 2017. Sputnik/Mikhail Klimentyev/Kremlin via REUTERS ATTENTION EDITORS - THIS IMAGE WAS PROVIDED BY A THIRD PARTY.
Sputnik Photo Agency / Reuters

ドナルド・トランプ米大統領は11月10日、北京からアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が開催されるベトナムのダナンに向かった。

ホワイトハウスのサラ・サンダース報道官は、北京からダナンに向かう大統領専用機(エアフォースワン)内で記者団に対し、ベトナムでロシアのウラジーミル・プーチン大統領との公式会談はない、と明らかにした。両首脳の日程が合わないためだが、APEC会場での接触はあり得るとした。

プーチン大統領とは「立ち話」

トランプ大統領は11月2日の『FOXニュース』とのインタビューで、「(APECでの)プーチン大統領との会談はあり得る。ロシアが北朝鮮問題でわれわれを助けることができるため、プーチン大統領はとても重要だ」と語っていた。

ロシア側も、米ロ首脳会談に積極的に応じる姿勢だった。ロシアのドミトリー・ペスコフ大統領報道官は11月4日に、プーチン大統領はAPECでトランプ大統領に会うことができるし、会えば北朝鮮情勢を論議する可能性が高い、と述べた。また、ユーリ・ウシャコフ大統領補佐官も同9日、米ロ首脳会談が10日にもダナンで行われると述べていた。ペスコフ大統領報道官は10日、米国側の否定的な姿勢にもかかわらず、交渉を忍耐強く続けているとした。

トランプ大統領とプーチン大統領の公式会談は実現しなかったが、写真撮影の際の合間や立ち話など、結局は3回の「立ち話」をし、11日にはシリア情勢に関する共同声明を発表。なんとかシリア情勢の安定に向けた両国の連携をアピールした。

公式会談が実現しなかった背景には、米国内の事情が影響を及ぼしたようだ。国内でロシアゲートを抱えるトランプ大統領がプーチン大統領との親密さを示すのはマイナスという側近たちの判断や、会談場所や時間をめぐる儀典上の葛藤があったようだ。

しかし、ペスコフ大統領報道官は11月11日、米ロ首脳の接触について「(北朝鮮問題についての)詳しい対話はなかった。朝鮮半島の状況は米ロ間の協力と共助の必要性を提起している、というプーチン大統領の発言と、まだ特別な(米ロ間の)協力関係がないことへのプーチン大統領の遺憾の念をみんなが聞いた」とし、「トランプ大統領がプーチン大統領に北朝鮮問題で対話を継続することを望むということを伝えた」と述べた。

米ロ首脳会談における北朝鮮問題は、双方が簡単なコメントを言い合うレベルで終わったということのようだ。

リーダーシップの衰え

トランプ大統領は11月10日、ベトナム中部ダナンで開かれたAPECの関連会合で、アジア政策について初の包括的な演説を行った。

その中で大統領は、米国の環太平洋連携協定(TPP)離脱を正当化し、「相互尊重と相互利益」に基づく2国間協定を追求するとした。また米国の利益を最優先する「アメリカ・ファースト」の方針の下、「自由で開かれたインド太平洋」というビジョンを示し、インド太平洋地域各国との「新たなパートナーシップ」を呼び掛け、関係を再構築する考えを示した。

大統領が「アメリカ・ファースト」を強調すればするほど、それは米国のアジア太平洋地域での関与を弱め、米国のリーダーシップの衰えへとつながる。一方で、中国はアジア太平洋地域での積極的な関与の姿勢を示している。トランプ大統領は「航行の自由」の重要性には触れたが、「南シナ海問題」への具体的な対応については言及を避けた。東南アジア諸国は「自分のことしか考えない米国」の意図を図りかね、それがまた米国の影響力を低下させている。

トランプ大統領は11月12日、ベトナムのチャン・ダイ・クアン国家主席とハノイで会談した。ベトナムは南シナ海問題の当事者であるだけに、さすがにここでは、南シナ海の領有権を巡る問題で関係国の仲裁に当たることに意欲を示した。その後ベトナムを出発し、アジア歴訪の最後の訪問国となるフィリピンの首都マニラに到着した。

大統領は11月13日、今回のアジア歴訪の成果として「貿易問題に関して非常に大きな前進を得た。貿易赤字は迅速かつ十分に削減される」と自画自賛し、北朝鮮問題についての声明を同15日に発表するとした。この時点では、北朝鮮のテロ支援国再指定問題に関する結論を発表する、とみられていた。

11月14日には、日米中ロと東南アジア諸国連合(ASEAN)など計18カ国の首脳らが参加する東アジアサミットが、マニラで開かれた。

だが出席を表明していたトランプ大統領は、会議開始が遅れたとして、急きょ欠席して帰国の途に就くというわがままぶりを発揮。代わりにレックス・ティラーソン米国務長官が出席した。

失速した北朝鮮圧迫戦略

前回の短期集中連載(2017年11月14日「トランプ『アジア歴訪』中間決算」)でも述べたが、筆者はトランプ大統領が北朝鮮に効果がある「『1つのこと』とは何か」を考えながら、このアジア歴訪を見つめてきた。

そして得た結論は、「1つのこと」とは、「力の誇示」ではないか、ということだった。つまり、北朝鮮に米国の力を見せつけることだけが北朝鮮問題を解決する方法だ、と考えているのではないか、ということだ。それは場合によっては、軍事行動を含む可能性もある。しかし、そうした軍事行動を含む具体的な北朝鮮対応策について、日韓中首脳と深い議論を交わしたという兆候は、現時点では出ていない。

トランプ大統領と安倍首脳の日韓首脳会談はわずか約35分だ。通訳の時間を入れれば、実質時間はさらに短い。ゴルフや会食で話があっても、同席者のいる中で、それはトランプ大統領の一方的通告はあり得ても、協議といえるほどのものがあったとは考えにくい。

トランプ大統領の「力の誇示」という思いが最も表れたのが、11月8日の韓国国会での演説だった。大統領はそれに先立つ7日の米韓首脳会談後の共同会見で、「比類なき軍事力を使う用意がある」と北朝鮮を威嚇した。国会演説では、「北朝鮮の専制君主に直接メッセージを送る」「われわれを甘く見るな。試そうとするな」と迫り、その上で「言い訳の時代は終わった。今は強さの時代だ」と強調した。これが「1つのこと」ではないかというのが、筆者の理解だ。米国の『NBC』は11月10日、トランプ大統領が当初予定した原稿は、金正恩政権とこれを支える中国、ロシアをさらに激しい口調で非難する内容だったと報じた。側近の説得で内容を和らげたという。

さらにトランプ大統領は、言葉だけではメッセージにならないと考えたのか、11月11日から14日まで米原子力空母ロナルド・レーガン、セオドア・ルーズベルト、ニミッツの3つの「空母打撃群」を動員し、日本海で演習を展開した。米国の原子力空母3隻がアジア地域で演習を行うのは2007年にグアムで行って以来10年ぶりで、朝鮮半島周辺では初めてだ。

しかし、問題は、トランプ大統領のこうした制裁や軍事力を動員しての「力の誇示」が果たして北朝鮮に通じるかどうかだ。11月29日のミサイル発射を見る限り、その解答はまだ出ていない。

一方で、この「力の誇示」が軍事行動という形で実行され、日本や韓国で犠牲を出しても米国を守るという意味での「アメリカ・ファースト」になりはしないか、という不安は消えない。アジア歴訪の結果を見ると、朝鮮半島情勢の危機は少し先延ばしになったような感じがしている。だが、北朝鮮は今回、米本土を射程内にとらえたとする大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射した。われわれは、依然として、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長とトランプ大統領という2つの爆弾を抱えていることを忘れてはならない。(つづく)

平井久志 ジャーナリスト。1952年香川県生れ。75年早稲田大学法学部卒業、共同通信社に入社。外信部、ソウル支局長、北京特派員、編集委員兼論説委員などを経て2012年3月に定年退社。現在、共同通信客員論説委員。2002年、瀋陽事件報道で新聞協会賞受賞。同年、瀋陽事件や北朝鮮経済改革などの朝鮮問題報道でボーン・上田賞受賞。 著書に『ソウル打令―反日と嫌韓の谷間で―』『日韓子育て戦争―「虹」と「星」が架ける橋―』(共に徳間書店)、『コリア打令―あまりにダイナミックな韓国人の現住所―』(ビジネス社)、『なぜ北朝鮮は孤立するのか 金正日 破局へ向かう「先軍体制」』(新潮選書)『北朝鮮の指導体制と後継 金正日から金正恩へ』(岩波現代文庫)など。

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(2017年12月1日「
」より転載)

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