有権者の82%「議員は休暇を取るに値しない」:深まる「米議会」への不信

米議会での審議を終えて連邦議員は地元選挙区へと戻り、米議会は8月4日から9月7日まで5週間もの長期の夏季休暇に入った。

米議会での審議を終えて連邦議員は地元選挙区へと戻り、米議会は8月4日から9月7日まで5週間もの長期の夏季休暇に入った。今年11月4日に中間選挙の投票日を控え、上院議員100名の3分の1と下院議員435名全員が改選されることになっている。9月1日のレイバーデー明けには選挙キャンペーンが全米各地で本格化するため、9月8日に上院議員、下院議員が審議再開のために再び地元選挙区から米議会に戻ってきても、第113議会で残された審議日数は連邦議会選挙が行われない年と比較すると、極めて少なくなっている。

現在の第113議会は昨年1月に招集されたが、第2次世界大戦後、最も法案の成立数が少ない、成果のない議会となることは避けられない状況である。バラク・オバマ大統領が第113議会で成立を図るよう議会に要請していた銃規制強化法案、包括的移民法改正法案、連邦最低賃金引き上げ法案、大統領貿易促進権限(TPA)法案などの主要法案はことごとく不成立となっており、日の目を見ないままである。

立法府が行政府と対立して法案の成立に消極的であったものとしては、1946年中間選挙で共和党が改選前よりも上院で13議席、下院で56議席それぞれ純増させ、共和党が多数党に復帰した第80議会(1947年1月-49年1月)が有名である。当時、ハリー・トルーマン大統領は自らが推進しようとしていた「フェアディール政策」の中核を成す関連法案成立に野党共和党が抵抗したため、第80議会を「何もしない議会("Do-Nothing Congress")」と揶揄したことは広く知られている逸話である。

トルーマン大統領は「何もしない議会」と野党共和党を批判したが、それでも第80議会では2年間の会期中に900本以上の法案が成立している。第113議会はオバマ政権と野党共和党との対立は益々激しさを増すばかりであり、夏季休暇入りする時点でわずか140本余りの法案しか成立していない。歴史上有名な「何もしない議会」と比較しても、第113議会で成立した法案の数がいかに少ないのかが理解できる。

トルーマン大統領は1948年大統領選挙キャンペーンでは共和党大統領候補であったトーマス・デューイ・ニューヨーク州知事だけではなく、法案成立を阻止してきた第80議会の批判も積極的に展開したことで、自らの大統領職を死守するとともに、上下両院での多数党の立場を共和党からわずか2年で奪い返している。

米議会が長期の夏季休暇に入った中、米議会に関する各種世論調査結果が相次いで公表されている。共和党支持者の視聴者が多いことで知られている保守系メディアのFox Newsは8月3日から5日までの3日間、全米の有権者約1000人を対象にした最新世論調査を実施した。それによると、有権者の実に82%が「米議会は一生懸命働いておらず、長期の夏季休暇を取得するに値しない」と回答し、「米議会は長期休暇を取得するのに値する働きぶり」との回答はわずか14%にすぎなかった。支持政党別では、無党派層の87%、共和党員の82%、民主党員の80%が「米議会は長期夏季休暇を取得すべきではない」と回答しており、支持政党は違っても有権者の間に米議会の働きぶりへの不満が根強く存在していることが分かる。興味深いのは、回答した共和党員の約半数近くの46%が「議会共和党の仕事ぶりを支持しない」と回答していることであり、民主党員の「議会民主党の仕事ぶりを支持しない」との回答32%を14ポイントも大幅に上回っていた点である。

NBC News/Wall Street Journal/ Maristが7月28日と29日の両日、全米の有権者760人を対象に実施した世論調査でも有権者の47%が米議会は「非常に非生産的である("very unproductive")」、25%が「やや非生産的である("somewhat unproductive")」と回答し、両方を合わせると7割を超える有権者が米議会は「非生産的」との厳しい見方をしている(誤差の範囲は±3.6ポイント)。対照的に、米議会は「非常に生産的である("very productive")」との回答はわずか3%、「やや生産的である("somewhat productive")」との回答は20%で、米議会の働きぶりを前向きに評価しているのは有権者の4分の1未満なのである。

さらに深刻なのはWashington Post/ABC Newsが7月30日から8月3日までの5日間、全米の有権者約1000人を対象に実施した最新世論調査の結果だ。この調査では、自らの選挙区から選出されている政治家を「支持しない」とする回答が過去最悪の51%に達するとともに、「支持する」の回答はわずか41%となった(誤差の範囲は±3ポイント)。Washington Postは米議会に関する世論調査を25年間実施してきたが、地元選出の政治家について「支持しない」との回答が50%を上回ったのは今回が初めてとなる。

最近、オバマ大統領は全米各地の遊説で共和党主導の下院を意識して、米議会について「卑劣な米議会("mean Congress")」との批判を繰り返している。今後の中間選挙キャンペーンでオバマ大統領はかつてのトルーマン大統領のように、そうしたメッセージを有権者に発信し続ける可能性がある。だが、オバマ大統領の支持率は40%台前半で低迷し続けており、最近では外交政策に対する批判も厳しさを増しつつある。他方、米議会に対する有権者の不信感も深まっており、中間選挙では投票率の低下という形で有権者の政治に対する不満が明らかになるかもしれない。

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足立正彦

住友商事グローバルリサーチ シニアアナリスト。1965年生れ。90年、慶應義塾大学法学部卒業後、ハイテク・メーカーで日米経済摩擦案件にかかわる。2000年7月から4年間、米ワシントンDCで米国政治、日米通商問題、米議会動向、日米関係全般を調査・分析。06年4月より現職。米国大統領選挙、米国内政、日米通商関係、米国の対中東政策などを担当する。

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(2014年8月8日フォーサイトより転載)

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