「辞任」「解任」続出で迷走するホワイトハウスの「課題」--足立正彦

トランプ政権発足からいまだ半年余りしか経過していない。にもかかわらず、ホワイトハウス中枢の混乱ぶりには目を見張るものがある。

7月下旬からトランプ政権のホワイトハウス人事を巡る迷走が続いている。

ウォール街の投資家であるアンソニー・スカラムッチ氏の広報部長任命を契機としてホワイトハウス中枢の内紛が一挙に露呈し、同氏の広報部長起用に強く反発していたショーン・スパイサー大統領報道官は7月21日に辞任。

後任には、5月からスパイサー氏に代わってホワイトハウスでの定例記者会見を頻繁に担当してきたサラ・ハッカビー・サンダース副報道官(マイク・ハッカビー元アーカンソー州知事の娘)が昇格した。

また、スパイサー氏やスティーブ・バノン首席ストラテジスト兼大統領上級顧問とともにスカラムッチ氏の起用に反発していたラインス・プリーバス大統領首席補佐官も7月28日に事実上更迭され、後任にはジョン・ケリー国土安全保障長官が横滑りし、7月31日に正式に就任した。

そしてさらに驚かされたのは、ケリー大統領首席補佐官が就任するや否や、スカラムッチ広報部長がわずか在職10日の7月31日に解任されたことである。トランプ大統領に対してスカラムッチ氏の解任を求めていたのは、他でもないケリー氏であった。

迷走するホワイトハウス中枢人事

トランプ政権発足からいまだ半年余りしか経過していない。にもかかわらず、ホワイトハウス中枢の混乱ぶりには目を見張るものがある。

ロシア政府が2016年米国大統領選挙に介入していたとして、オバマ政権(当時)が対ロシア報復制裁措置を決定した昨年12月29日のまさにその日、セルゲイ・キスリャク駐米ロシア大使(当時)と電話でトランプ政権発足後の制裁措置の解除について協議していたことが発覚したマイケル・フリン氏は、在職わずか24日で国家安全保障問題担当大統領補佐官を辞任に追い込まれた。

そして今回のスパイサー、プリーバス、スカラムッチ各氏の相次ぐ辞任や解任と、ホワイトハウス中枢の人事は大きく揺れ動いており、トランプ政権の「異常さ」は明白である。

プリーバス氏らの「辞任の伏線」

プリーバス氏は2011年から共和党全国委員会(RNC)の委員長を務めており、当時、RNCで報道担当をしていたのがスパイサー氏である。

プリーバス氏は中西部ウィスコンシン州の地方政治に深く関与しており、保守系有権者の草の根運動であったティーパーティー(茶会党)運動が全米各地に広がった2010年中間選挙では、ウィスコンシン州でも共和党のスコット・ウォーカー州知事候補やロン・ジョンソン上院議員候補の初当選に大きく貢献していた。

また、ポール・ライアン下院議長も同州第1区選出の下院議員であり、ライアン下院議長との関係も良好であり、それだけに、ホワイトハウスと議会共和党との橋渡し役を期待され、プリーバス氏を大統領首席補佐官に起用した背景があった。

しかし、RNC委員長として選挙での政治資金調達や党勢拡大に取り組んできたプリーバス氏には議会折衝の経験がほとんどなく、加えて「共和党内の意見対立」という大きな制約があった。

1月3日に招集された第115議会(~2019年1月)でトランプ政権と議会共和党指導部が最優先で可決を目指したのは、医療保険制度改革法(通称、オバマケア)の撤廃と置き換えを目指す代替法案であった。

だが、オバマケアにより生じている財政支出を削減するには撤廃すべきとの立場の保守派議員と、無保険者を大幅に増加させるという低所得者層の切り捨てはすべきではないとの立場の穏健派議員との間で、共和党内での意見の対立が激化。

その結果、上院では、オバマケア撤廃法案も代替法案も一部撤廃法案も、いずれも共和党議員の一部が離反してすべて否決。ついに7月28日には、上院でのオバマケア見直しを事実上諦めざるを得ない状況に追い込まれた。

共和党がホワイトハウス、上院、下院のすべてを支配しているにもかかわらず優先法案を可決できない現状にトランプ大統領は不満を募らせていたが、それがプリーバス氏やスパイサー氏の在任わずか半年余りでの辞任の伏線であった。

つまり、共和党主導の上院におけるオバマケアの見直しが膠着状態に陥る中でホワイトハウス中枢の人事を巡る混乱が明らかになったことは、決して偶然ではない。

ホワイトハウスへの規律導入

ホワイトハウスと議会との橋渡し役を期待されていたプリーバス氏の辞任で懸念されるのは、トランプ政権と共和党主流派との今後の関係である。

今回、大統領首席補佐官に就任したケリー氏は元海兵隊大将であり、国土安全保障長官として国境管理の強化などに取り組んできた。だが、大統領首席補佐官というポストは、政権の要として、とりわけ議会対策について重要な役割を担う。

ちなみに、元軍幹部が大統領首席補佐官に就任した事例は非常に少なく、ウォーターゲート事件当時、リチャード・ニクソン大統領と、副大統領から後任の大統領に昇格したジェラルド・フォード大統領に仕えたアレクサンダー・ヘイグ氏(第1期レーガン政権で国務長官に就任)以来となる。

トランプ政権下のホワイトハウスは内部対立やメディアに対する意図的な情報のリーク(漏洩)などが日常茶飯事となっており、混乱をさらに助長する結果を招いていた。

こうした状況に対してプリーバス氏は適切に対応できなかったため、トランプ政権の不安定さを有権者に印象付けることになった。まずこうしたホワイトハウスの従来までの状況を変革し、ホワイトハウスに規律を導入することがケリー氏の最初の取り組みとなる。

その一環として、これまでは主要幹部であれば自由に大統領執務室に出入りできた状況を改め、たとえトランプ大統領の長女イヴァンカ・トランプ大統領補佐官であっても、娘婿ジャレッド・クシュナー大統領上級顧問であっても、ケリー氏の許可を必要とするかたちに変更した。

ただ、ケリー氏の不安材料として、議会折衝を挙げなければならない。国土安全保障長官当時の信頼の厚いスタッフを配置するとともに、現在、議会折衝を担当しているマーク・ショート立法担当部長の他に、議会折衝に長けた人物をさらに迎えることも不可欠となろう。

そうした取り組みによって、優先法案であったオバマケア代替法案頓挫からの立ち直りを図り、減税や法人税引き下げを柱とする税制改正などの次の主要な立法課題に取り組むための第1歩としなければならない。(足立 正彦)

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足立正彦

住友商事グローバルリサーチ シニアアナリスト。1965年生れ。90年、慶應義塾大学法学部卒業後、ハイテク・メーカーで日米経済摩擦案件にかかわる。2000年7月から4年間、米ワシントンDCで米国政治、日米通商問題、米議会動向、日米関係全般を調査・分析。06年4月より現職。米国大統領選挙、米国内政、日米通商関係、米国の対中東政策などを担当する。

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(2017年8月2日フォーサイトより転載)

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