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自閉症の遺伝子診断は幻想 フランスの分子生物学者が講演

2014年08月06日 23時12分 JST | 更新 2014年10月06日 18時12分 JST

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ベルトラン・ジョルダン・フランス国立科学研究センター名誉研究部長:分子生物学者。元国立科学研究センター研究部長。遺伝子やゲノムをテーマとする学術論文を多数発表しており、フランスなどのバイオテクノロジー企業のコンサルタントも務める。

フランス国立科学研究センター名誉研究部長であるベルトラン・ジョルダン博士の来日を記念する講演会「自閉症と遺伝」がこのほど都内で開かれた。在日フランス大使館の主催。

分子生物学者で、最新の自閉症に関する遺伝子診断などにも詳しいジョルダン博士は、自閉症の要因には複数の遺伝子や環境などが関係している点を強調。その上で、ほとんど有用性がない自閉症の遺伝子診断を商品化し、利益を上げる企業が出てきている状況に警鐘を鳴らした。

後半では、山﨑晃資・日本自閉症協会長と、日詰正文・厚生労働省専門官も議論に参加。会場からは、「これだけ自閉症のことが知れ渡ると、結婚相手をどうするかなどの話題が出てくる。また、マスコミも面白がって不安を煽る形で喧伝しかねない」という意見も出た。

(以下の記事は、在日フランス大使館が5月30日に日仏会館で開催した講演会「自閉症と遺伝」を一部書き起こしたものです)

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■自閉症の原因 誤った仮説も

私は分子生物学や遺伝学の専門家です。まず自閉症について簡単に説明し、次に遺伝子レベルでどのような研究努力が続けられてきたかを紹介します。最後に今後どのような進展が予想されるのかについて、お話ししたいと思います。

では自閉症の現状についてです。

自閉症の人の行動スタイルには、社会的な人間関係を築けない、コミュニケーションがうまくできないなど、さまざまな特徴があります。

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このスライドは、ウィキペディアに載っているものです。この子どもは、自分のおもちゃを一直線に並べないと眠れません。アヒルを置く位置が気にいらないと、眠れないのです。これは一つの例ですが、ほかにも言葉が理解できない子どもや、知的障害のある子どももいます。

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自閉症の有病率は、ここ数年で急増しています。しかし、自閉症の子どもが本当に増えているのかは定かではありません。というのも、有病率の急増は自閉症の定義が拡大しているためではないかと言われているからです。

たとえば、知的レベルが高いのに自閉症の特徴がみられるアスペルガー症候群、女児に多く見られるレット症候群、言語や対人行動などが退行していく小児期崩壊性障害なども含まれます。自閉症の定義が明確ではないのです。

自閉症の原因についても、さまざまな議論があります。本日は、四つの説を紹介します。予防接種ワクチン説、母子関係説、神経生物学的要因説、遺伝的要因説です。これらの説には、科学的に否定されたにもかかわらず、信じている人が多い仮説もあります。

まず、ワクチン接種が原因だとする「予防接種ワクチン説」です。その根拠は、両親が自閉症の症状に初めて気づくのが、ワクチン接種を行う2歳頃と重なるためです。また、宗教的あるいはイデオロギー的な理由から、ワクチンに何か問題があるのではないかと疑う人もいます。

ワクチンが無害であることは、科学的にすでに証明されています。ワクチン接種を止めた場合と接種した場合を比較した日本の調査でも、自閉症児の発症割合に違いはありませんでした。

2番目の誤った仮説は、「母子関係説」です。

自閉症という用語を作ったアメリカの精神科医レオ・カナー氏は、1940年代の11例の症例報告に、自閉症の子どもを持つ母親の中には子どもに対して冷淡な態度を示す者もいると記載しました。

また、フランスの心理学者フランソワーズ・ドルト氏は、自閉症は後天的に作られるものであって、子どもがアイデンティティーに関わる試練に順応しようとする過程なのだという説を主張しました。要するに、これは子どもと母親の関係が原因だとする説です。

さらにアメリカの心理学者ブルーノ・ベッテルハイム氏は、両親が無意識のうちに子どもを退けようとするために、子どもは自らを守ろうとするのだという「うつろな砦説」を主張しました。すなわち、子どもが幼児性の精神病になるのは、両親がその子の存在を否定するからだという理屈です。

これまで、そんな精神分析的な考え方が、世界中で信じられてきました。現在は、そのような状況は少し変化しつつありますが、治療に当たる臨床関係者の中には、こうした説をいまだに信じている人もいます。

3番目は、子どもに特定の課題を与えた際に、自閉症児と健常児では、活性化する脳の部位が違うことを根拠とする「神経生物学的要因説」です。

しかし、これが原因だとは必ずしも断定できません。というのは、自閉症児の脳にその特徴が見られるのは確かですが、もしかしたら自閉症になったためにその特徴が見られるのかもしれないからです。

■遺伝的影響は強いが

そして、4番目は「遺伝的要因説」です。 これは私の主張する意見でもあります。

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これは、一卵性双生児と二卵性双生児を比較した1985年の論文の図です。□が男性、〇が女性を表し、色が塗られているのは自閉症であることを示しています。そして、図の左側に一卵性双生児、右側に二卵性双生児の家系図です。

この図をみると、一卵性双生児の場合、一方が自閉症だと、ほとんどのケースでもう1人も自閉症です。ところが、二卵性双生児の場合、一方が自閉症でも、もう1人は自閉症ではない例がたくさんあることが分かります。

この一致率は、一卵性双生児は85%、二卵性双生児は10%でした。これは非常に重要な点です。

一卵性と二卵性どちらも同じ日に同じ母親から誕生し、同じ環境で育っています。仮に、自閉症の原因が幼児期の生育環境にあるのなら、二卵性と一卵性の一致率は、ほぼ同じでなければなりません。ところが実際には、一卵性と二卵性の双生児では、自閉症の一致率に大きな差があります。よって、遺伝的な影響が強いと言えるでしょう。

しかしながら、遺伝的要因だけが、自閉症の原因ではありません。

自閉症になる遺伝的可能性があっても、実際に自閉症になるかどうかは、環境にも影響されると思われます。

また、遺伝的要因に限って考えても、その仕組みは複雑です。たとえば、1980年代から1990年代にかけて、遺伝性筋疾患やハンチントン病などの遺伝病の原因遺伝子が解明されました。そこで、自閉症についても、同じような研究が行われたのです。

ところが、自閉症の研究では、染色体のいたるところに関係がありそうな遺伝子があるのに、説得力のある遺伝子はどこにも見つかりませんでした。同じ子どもを調査した場合でも、研究チームによって異なる調査結果が出たのです。よって、その時代の自閉症遺伝子の研究は、研究者たちに大いなる幻滅をもたらしました。

遺伝医学により、遺伝的要因が明確に突き止められた疾患もありましたが、自閉症、糖尿病、高血圧症、統合失調症などについては、大した成果が得られなかったのです。

それはなぜかと言えば、単一遺伝子疾患の場合と、そうでない場合を区別して考える必要があるからです。

単一遺伝子疾患の場合には、両親から特定の遺伝子が伝わるかどうかが原因になります。つまり、原因となる遺伝子が壊れて変異していると、間違いなくその疾患にかかります。非常に明確なメカニズムです。

ところが、自閉症を含む多くの疾患は、単一遺伝子疾患ではありません。

つまり、複数の遺伝子が変異を起こしていると、その疾患にかかる可能性が高くなるのです。しかし、変異したそれぞれの遺伝子の影響を突き止めるのは困難です。いくつかの遺伝子が変異していたからといって、ある特定の疾患に必ずなるという確証はないのです。

■決定的な遺伝子は見つからない

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遺伝子の研究の状況については、まずヒトゲノムの全解読が2002年に終了しました。そして、遺伝子解析のさまざまなツールが登場しました。さらには、2005年ごろから、ゲノムワイド関連解析という、多遺伝子性の疾患を分析する新たなツールも開発されました。

さまざまな解析技術が生まれ、自閉症に関係すると思われる複数の遺伝子が発見されました。

ここでは詳細には触れませんが、自閉症は数多くの遺伝子が関与する非常に複雑な疾患であり、個々の遺伝子がおよぼす影響ははっきりしないことが分かったのです。

しかも、自閉症にはさまざまなタイプがあります。同じ自閉症という名前の疾患であっても、症状はそれぞれ異なるため、自閉症遺伝子の特定はさらに難航しています。

ただ、自閉症に関係があるのではないかと思われる遺伝子の大半は、神経回路に関与しています。また、自閉症を引き起こす唯一の遺伝子があるのではなく、多くの遺伝子が自閉症に関わっていることが分かってきました。

つまり、ある種の変異が重複して起こると、自閉症になりやすくなるということです。そして、先ほど紹介した単一遺伝子疾患とは違って、特定の遺伝子を発見するのは非常に難しいことがはっきりしました。

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私の著書のタイトルは、『自閉症遺伝子~見つからない遺伝子をめぐって』です。このタイトルが意味するのは、自閉症に関係する遺伝子が見つからないのではなく、自閉症になる決定的な遺伝子が見つからないということです。

■メディアはどう報道しているか

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たとえば、研究者が自閉症の原因となる遺伝子を発見したという発表をみてみましょう。実際には、発表が意味するのは、自閉症の人に変異遺伝子が見つかったということであり、自閉症になる遺伝子が見つかったという意味ではありません。さらに詳しく見ると、ある遺伝子の変異により、特定の情報伝達物質が損なわれるという論文であることが分かります。

ですから、元の論文は実際には自閉症の原因とはほとんど関係がないということです。また、世の中には怪しい論文がかなりあるということを申し上げておきたいと思います。子どもに粉を振りかけると自閉症が治るとか、そういった類のものもたくさんあります。

■自閉症の研究の継続を

次に、精神分析的アプローチや行動療法といった自閉症の治療についてお話ししましょう。

精神分析的アプローチの効果は、いまだに明確に証明されていません。子どもに何か指示を与えて、上手にできればご褒美をあげるという行動療法に関しては、限界はあるものの、現在のところ科学的に効果が証明されている唯一の療法だと言えます。その効果は、絶大ではないにしても確実にあります。

ただし、この行動療法には、親や関係諸機関の多大な努力が求められます。一方、家畜に対する調教のようだという批判もあります。

しかし、この行動療法によって、症状が大きく改善したという子どもがかなりいるのは事実です。たとえば、行動療法により通学できるようになった子どもは大勢います。

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要するに、研究を続けることが非常に重要なのです。研究を続けることにより、さまざまな症状の自閉症を分類できます。なぜなら、症状ごとに関係する遺伝子を突き止めることが必要だからです。我々は、こうした研究を基盤にして、薬物療法をはじめとする療法を見出していかなければならないのです。

もちろん、当事者である子どもやその家族・親の声に耳を傾けることも大切ですし、研究の財源を確保することも不可欠です。そして、治療の効果を評価する努力も必要です。

自閉症という非常に複雑な疾患について、研究が何の役に立つのかという疑問が生じるのは当然ですが、こうした研究を続行すれば、いずれ罹患に関与する神経回路が特定される日も訪れるのではないでしょうか。

そうなれば、問題のある神経回路や症状ごとに、それぞれのケースに見合った治療法や対応法が、開発できるようになるでしょう。

これまで、自閉症の原因は、異なるイデオロギーを持つ研究者が個別に研究を進めてきました。しかし今後は、研究者たちが一丸となって協力し合うことが重要なのです。

(前編終了)

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