【精神保健福祉法】 改正趣旨を異例の削除 厚労大臣がおわび

厚生労働省は13日、参議院で審議中の改正精神保健福祉法案について、説明資料にある改正趣旨を削除すると与野党に申し入れた。

野党からの追及に「おわびする」と繰り返す塩崎厚労大臣(立つ人)

厚生労働省は13日、参議院で審議中の改正精神保健福祉法案について、説明資料にある改正趣旨を削除すると与野党に申し入れた。犯罪防止目的の改正ではないことを明確にするためだとするが、審議中に削除するのは異例。同日の参院厚生労働委員会で塩崎恭久・厚労大臣は「このような形になったことをおわびする。法案の内容は変更しない」と釈明したが、野党は「立法事実がないと政府が認めたことになる。法案を出し直すべきだ」と反発している。

犯罪防止目的

18日は厚労委員会の定例日だったが、開催されなかった。野党は立法の根拠となる事実を確認できない限り、法案を審議できないとしている。

厚労省が削除したのは法案の説明資料の「改正の趣旨」にある「相模原市の障害者支援施設の事件では、犯罪予告通り実施され、多くの被害者を出す惨事となった。二度と同様の事件が発生しないよう、以下のポイントに留意して法整備を行う」という部分だ。

説明資料は法案の要点を示したもので、厚労省のホームページにも掲載されている(当該部分は13日に差し替え済み)。安倍晋三首相や塩崎大臣が国会で法案について話す際も「相模原での事件」に言及してきた。

一方で厚労省は「犯罪防止を目的とした改正ではない」と強調してきたが、説明資料と矛盾することはかねて指摘されていた。

その矛盾を解消し、精神医療の充実を図るという面をより明確に打ち出したいというのが厚労省の立場だが、13日の厚労委員会では改正の趣旨を否定的にみていた野党から「びっくりした」「立法事実がないことが明確になった」「法案を出し直すべきだ」といった意見が相次いだ。

塩崎大臣は、元の説明資料が不適切だったことを繰り返し陳謝。しかし、法案そのものは変えないとした。野党は説明資料の一部を削除しても、犯罪防止を目的とした改正であることに変わりはないとして批判した。

特に、措置入院の運用の在り方や患者の退院後の支援などを議論する精神障害者支援地域協議会(保健所設置自治体が設置)を設け、そこに警察が関与するとしている点を問題視している。

石橋通宏議員(民進)は、「犯罪防止目的でない法改正であれば、なぜ措置入院後の患者の支援に警察が関与するのか」と質問し、改正案のベースとなった厚労省の再発防止検討チームの議事録を開示するよう要求した。

本人参加は当然

今回問題となった説明資料には、他にも削除された部分がある。

地域協議会で退院後支援計画を議論する際に、本人や家族が参加することは「必要に応じて」としていたが、同日の差し替え版では「必要に応じて」を削った。厚労省は本人や家族が参加するのは当然だと釈明し、運用上の指針にも明記するとした。

警察が会議に参加することは元の説明資料に明示されていたが、本人や家族の参加はそれに比べて弱いトーンで書かれ、そのことが患者団体などの不安を招いていた。

また、厚労省は個別事例に警察が関与するのは、患者が自殺するおそれがあって医療機関から関与を求められた場合など、例外的なケースに限られるとした。同計画による支援期間は、6カ月以内を目安とすることも答弁で明らかにした。

昨年7月に発生した障害者支援施設「津久井やまゆり園」(神奈川県相模原市)での殺傷事件の犯人は事件前、同市長の命令で措置入院していたが、退院後の通院が途絶えた。

厚労省は退院後の支援が不十分だったと判断。すべての措置入院患者に退院後支援計画を作ることを都道府県・政令指定都市に義務付けることを改正法案に盛り込んだ。

(2017年4月24日「福祉新聞」より転載)

注目記事