自動でベッド傾き寝姿勢変える 夜間の介護負担が大幅軽減

寝返り支援ベッドを入れ、腰痛や仕事のきつさを理由に辞める職員がいなくなった。
福祉新聞

ベッドの左右が上がることで体位変換を支援する

山形県の医療法人社団悠愛会(大島扶美・理事長)は、ベッドの左右が自動で上下することで寝姿勢が変わる寝返り支援ベッドを使い、利用者の安眠確保や褥瘡予防などを実現している。夜間の体位変換をしなくてよくなったことで、職員の精神的・身体的負担は大幅に軽減。腰痛や仕事のきつさを理由に離職する職員が減り、定着率向上に寄与している。

医療法人社団と社会福祉法人の二つの看板をもつ悠愛会は山形市や天童市などに3老人保健施設、1特別養護老人ホームなどを運営する法人。各施設には診療所や在宅介護支援センター、訪問看護事業所・介護事業所等を併設しており、地域医療・介護・福祉の拠点となっている。

自動寝返り支援ベッド導入のきっかけは、2003年に天童市に老健施設(定員100人)と特養ホーム(同)を開設する際、ベッドを選びにフランスベッドホールディングス(株)の展示会に行った大島理事長と大島啓悟・常務理事が寝返り支援ベッドに出合ったことだった。

寝返り支援ベッドは低床タイプでなく、価格も通常の3モーター式の2~3倍した。職員からは転倒リスク軽減のために低床ベッドの導入を求める声が多かったが、大島常務は「転倒のリスクはクッション床を使えば軽減できる。寝返り支援ベッドを入れれば体位変換をせずに済み、職員の負担が軽減される」と導入を決めた。

実際に200台導入し、体位変換が必要な約100人に使ってみると、2時間ごとの体位変換はなくなり、夜勤時に職員が休憩できるようになった。また、体位変換のたびに起こされていた利用者は安眠できるようになり、同社の体圧分散マットレス「インテグラメッド」と合わせて使うことで褥瘡予防や看取にも効果を発揮した。ベッドが傾くことで、ボードによる車いすへの移乗もより簡単にできるようになった。

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ベッドが傾くことで移乗も楽になる

「寝返り支援ベッドを入れ、腰痛や仕事のきつさを理由に辞める職員がいなくなった。夜勤時の負担が減ったことで、現場の雰囲気が和やかになった。利用者は精神的に安定し、職員に怒鳴ることも少なくなり、夜間が静かな施設になった」と大島常務は話す。

両施設のケアに劇的な効果をもたらした寝返り支援ベッドだが、その後同社は生産を中止。使用後10年以上がたち、モーターなどが壊れても修理できない状態になった。しかし、他施設で断られた重度者も受け入れていた両施設では、寝返り支援ベッドなしのケアは考えられない状況だった。

そこで大島常務は、16年2月に同社に再製品化を要望。その熱意を受け同社は再製品化を決め、どうせなら低床でより使いやすい製品にしようと、悠愛会がモニターになり二人三脚で17年2月に新型寝返り支援ベッドを開発した。

新型寝返り支援ベッドの特長は、寝返り角度(手動時は左右25度、自動運転時は20度)、速度、時間などの設定を液晶コントローラーで簡単にできること。電動スイッチ操作により設定時間に体位変換でき、高さも最低320ミリの低床化を実現。壊れやすいコードだけを交換できるようにするなど旧型に比べ、格段に機能が向上した。

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リモコン操作で角度や時間を簡単に調整できる

新型寝返り支援ベッドの完成を受け悠愛会は、3月に山形市と山辺町の老健施設(定員各100人)に200台を導入。体位変換が必要な利用者が約半数いる両施設の職員にとっては、待ちに待ったことだった。

山形市の老健施設の職員は「4人の夜勤者が1人当たり10~13人を2時間ごとに体位変換していた。今は25人が自動運転、25人が手動運転(2時間ごとの体位変換が必要ない人)で新型寝返り支援ベッドを使っている。体位変換がなくなり、本当に楽になった」と語る。 03年から2施設に寝返り支援ベッドを入れていたこともあり、悠愛会の離職率は10%前後と低い。山形市と山辺町の施設に新型寝返り支援ベッドを入れたことで、さらに数字の低下が期待できるという。

「今は介護職員の確保が難しい時代。職員が安全・安心に働ける環境を整えないといけない。寝返り支援ベッドを導入するとさまざまな効果がある。値段が多少高くてもぜひとも導入すべき」と大島常務は話している。

(2017年11月1日「福祉新聞」より転載)

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