【相模原殺傷事件】「福祉施設の防犯対策強化に違和感」 施設の立場で橘会長が提言

「福祉施設にも最低限の防犯対策はもちろん必要です。しかし、過度に防犯カメラや塀を設置する必要は本当にあるのでしょうか」

橘文也・日本知的障害者福祉協会長

神奈川県立の障害者支援施設「津久井やまゆり園」(相模原市)で7月26日に発生した殺傷事件は、19人の死亡者、27人の負傷者を出した。

容疑者が重度障害者の安楽死を容認する考えを持っていたことは社会へ波紋を広げており、福祉施設の防犯体制の見直しに向けた議論も進んでいる。事件に対する思いや今後の団体としての活動について、障害者施設の立場から日本知的障害者福祉協会の橘文也会長に聞いた。

同じ人としての視点を

−−戦後最大規模の殺人事件が障害者施設で起きてしまいました。

協会の会長として、事件の2日後にやまゆり園を訪れて、献花してきましたが、いまだに信じられません。被害に遭われた利用者のことを思うと強い憤りを覚えます。

また、地域に開かれた障害者施設へ、というこれまでの流れに逆行するような事件が起きたことはとても残念です。

−−事件を受け、厚生労働省は今年度の第2次補正予算で、障害者施設での防犯対策を強化する方針です。

最初聞いた時は身構えました。福祉施設にも最低限の防犯対策はもちろん必要です。しかし、過度に防犯カメラや塀を設置する必要は本当にあるのでしょうか。

近年、障害者施設は地域との垣根をなくす取り組みを進めてきました。4年後には東京オリンピックもあります。スポーツや文化芸術の分野以外でも、障害者が今より社会参加する時代になるでしょう。

そんな目指すべき共生社会から後退しないことを望みます。施設で知らない人を見掛けたら犯罪者かもしれないと疑うような流れは避けたい。心はオープンであってほしいと思います。

−−容疑者が元施設職員だったことも衝撃でした。

今回の事件は特異な事例だと思います。容疑者の生育歴を知らないので何とも言えませんが、障害者の命を軽視する発言は、真っ向から否定します。

施設職員なら皆分かっていると思いますが、どんなに重い障害がある人でも日々喜びや悲しみを感じていて、意思を持っています。

ただ、障害があって意思を表示することが得意でないだけです。それでも考えをくみ取り、なるべく本人の意向を実現するお手伝いをすることに施設職員の専門性があると思います。

容疑者にも声なき声に耳を傾けてほしかったですね。意思表示が乏しい人だから生きる価値がないわけでは断じてありません。

−−今後、障害者施設はどういう方向性を目指すべきですか。

行政も含め関係者が一丸となり、障害者への理解と障害福祉の啓発を促進すべきだと思います。ハードではなく、ソフトに力を入れるべきです。

事件を起こしたのは人であり、障害者への差別や偏見が助長されない命の大切さへの啓発が必要だと思います。犯罪を生まない地域づくりです。

小中学校では啓発の授業が行われていますが、高校や大学では考える機会は少ない。最近は障害者雇用も進んできましたが、それでも社会で障害者に触れる機会はまだまだです。

現在、協会の会員は6100施設で、全国どの地域にもあるわけです。会員施設がそれぞれ、町内会の活動を行うなど地域にどんどん入り込んで、障害者への理解を広めてほしいと思います。

偏見や差別をなくす特効薬はありません。大規模な広報ではなく、地道に関係者が取り組んでいかなければならないと思います。

障害があってもなくても、同じ人としてお互いに助け合うという視点が大事だと伝えてほしいと思っています。

(2016年9月27日「福祉新聞」より転載)

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