風俗店の待機部屋で生活相談 貧困支援の「風テラス」

性産業で働く女性を支援する「風テラス」が注目を浴びている。支援者らは「男性の貧困は路上、女性の貧困は待機部屋に現れる」と口にする。

相談にのる徳田さん(左)と及川さん(右)

性産業で働く女性を支援する「風テラス」が注目を浴びている。

ソーシャルワーカーと弁護士がタッグを組み、風俗店の待機部屋で月に1回、無料で生活相談に応じ、関係機関にもつなげる。相談の中身は障害や病気、借金などさまざまで、中には社会的に排除された女性もいるという。

支援者らは「男性の貧困は路上、女性の貧困は待機部屋に現れる」と口にする。

■待機部屋は居場所

東京のJR池袋駅からほど近いマンションの1室に風俗店「池袋おかあさん」の待機部屋はある。壁には「本番行為一切禁止。発覚次第即クビ」の文字が貼ってある。

社会福祉士と精神保健福祉士の資格を持ち独立型の「PandA社会福祉士事務所」を運営する及川博文さんと、弁護士の徳田玲亜さんが、小さな机を挟んで女性と向かい合った。「今日はよろしくお願いしますね」。及川さんが明るく語りかけると、女性は「はい」と小さくつぶやいた。

40代後半というこの女性は、2015年秋に入店。しかしうつ病で外出すらできず、半年で数回しか出勤していなかった。不眠も訴えながら「今は両親の年金と、自分の貯金を崩して暮らしています」とうつむいた。

そのうち女性はせきを切ったようにさまざまな悩みを語り出した。及川さんらは話を受け止めた上で、障害者手帳や自立支援医療、地域活動支援センターの存在などを伝えた。

「もどかしい状況を少しでもよくしたいですね」。30分ほどの面接を終えて及川さんがそう話すと、女性は「また来ます」と少し表情が明るくなった。

風テラスは、一般社団法人「ホワイトハンズ」(坂爪真吾代表)が呼び掛け、15年秋から月1回で活動を開始。誘いに応じたソーシャルワーカーや弁護士5人が、専門性を生かして相談にのる。

現在2社にかかわっており、支援した女性は延べ50人。徳田弁護士は「性産業関係だから特別な相談内容というわけではない。仕事を隠さずに相談でき、問題の深刻化を防げることに意義がある」と話す。

支援は、性産業からの脱却だけを目指していないのも特徴だ。「待機部屋はコミュニティーであり、社会的な居場所になっている。無理やり辞めさせて、収入を断っても問題は解決しない」と及川さんは強調する。

■福祉へのアクセス

風俗店は、なぜ風テラスの支援を受け入れているのか。

「おかあさん」の齋藤明典社長は「普通の会社員以上に稼ぐ自立した女性もいるが、半数以上はメンタル面に問題がある。しかし福祉の素人である我々には解決するすべがない」と理由を明かす。

同店には40~70代の女性が100人ほど在籍しており、兼業も多い。平均月収は約18万円程度という。

面接では応募の動機だけでなく、生活状況を詳しく聞く。時には3時間以上かけて、収入状況や家賃、光熱費、既往歴までヒアリング。例えば、携帯電話代などが高すぎる際は徹底的に原因を洗い出し、改善の提案までする。

また齋藤社長はこれまで、弁護士の紹介や市役所の手続き同行などもしてきた。ある意味、課題を抱える女性へ寄り添うインフォーマルな支援とも言える。

ただ、齋藤社長は「風俗店が女性のセーフティーネットだとは口が裂けても言えない」と言い切る。「女性が一生、性産業で働くことを肯定はしない。しかし、女性が働くために生活をサポートするのはビジネスとして当然だ」と話す。

警察庁によると、15年時点で届け出のある性風俗店は全国に2万1620店。働く女性は30万人以上という試算もあり、齋藤社長は「どの風俗店でも女性の生活支援は課題になっているのではないか」と推察する。

風テラスは今後、さまざまな協力団体を増やしながら「本番行為など法律違反をしていない」「反社会的勢力との関係がない」などを条件に支援する店を広げたい考えだ。

坂爪代表は「性産業の存在は社会的に公認されないが、現実として従事する女性はいなくならない。その前提に立ち、福祉制度のアクセシビリティーを高める活動を続けたい」と話している。

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