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「イギリスにおける国家機密と報道の自由について」(3) メディア周辺のことを考えてみよう

2014年05月04日 18時22分 JST | 更新 2014年05月04日 18時26分 JST

 (昨年末、「マスコミ倫理懇談会」全国協議会の「メディアと法」研究会で、「イギリスにおける国家機密と報道の自由について」という題で講演をしました。以下は講演内容の記録です。)

■情報安全保障委員会の役割とは

 イギリスで秘密保全のための組織がどうなっているのかということですが、組織として一つ大きいものがあるわけではありません。

 国防に関する機密情報については、議会の情報安全保障委員会があります。これは、94年の情報機関法第10条に基づいて設置されました。

 このころから、やっとMI5やMI6の存在を政府が公式に認めるようになりまして、だんだんオープンになったのです。いまはMI5やMI6は自分たちのウェブサイトをもち、ウェブサイトから新しい人を雇うために募集をするほどになっております。

 設置当初は政府の一部で、首相が議員の中から委員を任命したのですが、13年から法律が変わり議会の委員会になりました。首相の指名後に両院が合計9人の委員を任命します。

 議会の委員会になったということは、議会で1年に1回かそれ以上、活動を報告する義務があります。委員会を通して間接的にではありますが、国民の監視を受けているということになります。ですから、議会の委員会になったということは非常に重要なことでした。

 その業務は、国の安全保障などに関わる政府の活動を監視し、情報機関MI5、MI6、それからスノーデン報道で有名になった世界の通信を傍受する政府通信本部(GCHQ)から報告を受けることです。会議の内容は後で書き取ったものが公開されますが、非公開の内容もあります。例えば、MI6という海外で諜報活動をやる組織の年間費用が黒塗りになって出ます。

■NSA報道とメディア

 次に、スノーデンとNSA報道とメディアですが、これも非常に大きな問題です。ガーディアンという一つのイギリスの新聞が政府から圧力を受けながら報道を続けているという意味で、注目に値するのではないかと思います。

 まず、二つ事実を確認しますと、スノーデンさんはいま、情報を盗んだ、窃盗ということでアメリカ当局に起訴されてロシアにいます。

 そして、イギリスのガーディアン紙がアメリカのNSAの機密とイギリスの政府通信本部(GCHQ)の機密情報を、スノーデンさんがリークした情報をもとに報道しております。ガーディアンは、アメリカの機密と自国のGCHQの機密を外に出しています。

 スノーデン・NSA報道が私たちに問いかけているのは、1つには、国家機密をどう報道機関が扱うべきか、という点でしょう。考慮すべき要素がいろいろとあります。

 世論調査によれば、イギリスではスノーデンさんのことを支持する人がたくさんいる一方、国には一定の機密を保持する権利があるという声もかなり多く、政治家の発言はこうした世論を反映したものになっております。

 しかし、アメリカの政治家の反応はかなり違いまして、オバマ大統領は、NSAの情報収集があまりにも大規模で、個人の生活を侵害し、やり過ぎであるとして見直しを命じていますし、アメリカ議会でも見直しに向けていろいろな議論が続いています。

 ところが、キャメロン首相はガーディアンの報道は国益を損なうということで非難しております。

 イギリスのほかのメディアの反応を見ますと、ファイナンシャル・タイムズとか、ほかのいくつかの新聞は、やはり国には一定の機密を保持する権利があるというスタンスを支持するような社説を載せております。そして、それとは別に、プライバシーの懸念の高まりがあります。これほど政府当局がいろいろな個人情報を収集していったらどうなるのか。かなり強い懸念が出ています。

 特筆すべきは、ガーディアンへのプレッシャーが非常に強いことです。6月からスノーデンさんからの情報を基にしたNSA報道が始まったのですが、政府はガーディアンに対し、元情報は政府から盗んだものであるとして返還を求めてきました。ガーディアンはこれを拒否してきたのですが、7月に入り、首相官邸から役人が何人かガーディアンを訪問し、渡さないのであれば情報の入っているハードディスクを壊すように指示しました。ガーディアンは最終的にハードディスクを壊さざるを得なかったそうです。

 しかし、ガーディアンはこういうこともあろうかと、既にアメリカのニューヨーク・タイムズや非営利組織のニュースサイト、プロパブリカに情報を渡していたそうです。このため、ハードディスクを破壊された後も、報道は続けています。

 官邸の人にハードディスクを壊しなさいと言われたときに、実はもうニューヨーク・タイムズにもプロパブリカにも情報があるので、いまここで破壊してもあまり意味がないと言ったそうですけれども、それでも破壊させられたということは、威嚇行為だった感じがあります。

 このハードディスクを破壊させたという話は当時、すぐには外に出ませんでした。8月に、今度は政府が反テロ法を使って、記事を書いた記者のパートナーを拘束しまして、関連情報が入ったと思われる電子機器、例えば携帯電話なりラップトップなり、いろいろなものを没収しました。拘束したり、没収したりする権利が政府側にあったのかについて、いま裁判で闘っているところですが、もう既に没収されていますので警察は何らかの捜査をしているのだろうと思います。

 11月に入り、MI5、MI6、それからGCHQの長官というトップ3人が議会の情報安全委員会で証言をしました。この3つの情報機関のトップが、公に、特に一堂に集まって顔を出すことは前代未聞ではないかと言われております。特にGCHQという通信傍受の機関のトップが実際に顔を見せるということはほとんどなかったのです。

 委員会の委員からいろいろ質問をされた長官らは、ガーディアンの報道で国益が損なわれた、国家の安全保障に損害があったと言いました。情報がアルカイダとかテロリストに渡ったと思われるという発言もあり、それだけ聞いていると本当に大変なことになったなというような感じがします。

 そして、12月には、今度はガーディアンの編集長が委員会に呼ばれまして、報道の経緯などを聞かれました。

■「国益に損害を与える」をどう切り返すか

 イギリスのメディアに対する規制はほとんどないということについて既にお話しましたが、このように議会の委員会に呼ばれて報道についてあれこれ聞かれ、説明しなければならないということ自体、ある意味では干渉であり、かつ困惑させる、恥をかかせることです。かなり大きなプレッシャーがかかっていますから、普通の神経だと謝ってしまったり、国益を損なったのかもしれないと考えたりするようになるのではないかと思います。

 ガーディアンが受けた批判は、ほかの国でも、国家機密を報道すると、同じような批判を受けるわけですが、ガーディアンが、イギリスだけではなく世界にも影響するかもしれない非常に重大な軍事機密やインテリジェンスを、自分の会社の中で、編集部の中で判断する、最終的にはガーディアンの編集長というたった一人の男性が決定するといったことに対する批判がありました。編集長の決定が恣意的、傲慢である、報道によって国益を損じた、あるいは国家の安全保障を危うくしたといった批判です。

 ところが、ガーディアンも反論しました。12月3日、委員会に呼ばれたガーディアンの編集長は恣意的、傲慢じゃないかと言われたことに対する反論として、ほかにいい方法がない、政府が情報を出すのでは遅いし、政府が出すと政府なりの考えがあって出ることになる、と。そうではなくて、独立した、自由な言論の観点から、市民のために、国民のために情報を出す機関というのはメディアしかないのではないか、と主張しました。

 独立あるいは報道の自由という観点から、政府が困るような事実を明るみに出すことは、メディアが責任を持ってやるしかないということで反論したわけです。

 さらに、「国益には損害を与えていない」と主張し、もし損害を与えたというのであれば、その国益や損害とは何か、具体的に言ってほしいと切り返しています。そして、自分がどうやってトピックを選び、どういう裏取り調査をしたのかについて、事細かに委員会の場で説明しました。それを聞くと、非常に説得力がありました。

 例えば、その国益に損害を与えたという点に関しても、以前NSAにいた人物やGCHQにいたかなり高官の人物の証言を得て、報道しても国益に損害はないという確証をとって記事を書いていた。全体には情報がたくさんあるけれども、実際にいままで報道したのはほんの1%だけで、それは自分たちが報道機関として責任をもって、裏をとって報道できるものだけを報道していると説明していました。

 国益を損なう報道をするのは愛国心が少ないのではないかということも聞かれているのですが、編集長は自由な報道、言論が保障されているイギリスを愛している、そういう意味では自分は愛国心のある人物だと言い返しています。

 委員会での1時間ほどの応答内容を見ていますと、議員の側は十分な質問ができず、どちらかというとリアクションのような、世論あるいは一部の保守勢力、情報機関などの「国益に損害を与えた」という発言を、そのまま繰り返しているだけのようでした。

 逆にガーディアンの編集長はなぜ報道をしたかについて自分なりの言葉を使って説明していました。議員の批判に反論し、国民の理解を得られたという意味では、この機会を非常にうまく使ったような気がいたします。

 どの国も安全保障上の機密保持の体制を敷いています。ところが、その秘密保全のための一括した法律がないとされる国は日本以外にもあります。

 例えばイギリスでは、国家機密を保持するための複数の法律や体制が存在しています。ただ、機密情報の公開までの年限が、日本の場合、最長にすると60年ぐらいにもなり得るという報道がありましたので、そういう意味では、日本はちょっと長過ぎるような気もいたします。そして、新聞側の反論として、機密情報の範囲の問題や、あるいは第三者によるチェックがないということ、それから、定義が曖昧で拡大解釈されてしまうこと、これらは非常に真っ当な批判でして、今後、ずっと追求、報道していかなければならない点でしょう。

 しかし、ほかの国でも、機密情報や国防情報について機密の定義や範囲が曖昧なケースはあります。

 ですから、秘密保護法を批判する報道を行うのであれば、定義や範囲が曖昧であるということに加えて、もう少し何か理由をつくって国民を巻き込んでいけば、より深い理解が得られるのではないでしょうか。

■特定秘密保護法案をめぐる議論について思ったこと

 最後に、11月30日に日本に来て、特定秘密保護法案をめぐる議論について思ったことについて話させていただきます。

 特定秘密保護法はもう可決してしまいましたが、今後は、具体的にどういう報道がだめになるのか、実際に安全保障、あるいは国家機密に関する要素を含むような報道をやることでどうなるのかという体験やその過程を報道に生かせないかなと思います。そうすると、話がより具体的になるのではないかと思いました。

 そして、イギリスの例を見ていて、時には報道機関が法律をそのまま守らずに、事実を、真実を明らかにするということも必要かと思います。

 それは時に、パパラッチのように行き過ぎた取材やプライバシー侵害によって被害者を作ってしまう場合もありますが、それにしても姿勢として、イギリスのメディアは法を守ることを最優先しているわけではなく、どうやったら公益のために真実、事実を出せるかという部分を重視しています。

 法律といいましても、今回もそうかもわかりませんけれども、これはあまりいい法律ではないなというものが社会の中ではたくさんあるのではないかと思います。間違っているもの、悪いものだったら変えなければいけませんので、それを必ずしも守る必要がないかもしれない。例えば法律を踏みにじってでも出すべき情報は出すというような心構えで、これからも報道をやっていただけたらなと思いました。

 そして今回、法律が成立するまでの過程がかなり力任せのような感じがあったかと思います。

 イギリスの場合ですと、イラク戦争開戦に対して非常に大きな、数百万人規模の反対デモがありました。それでも政府は戦争に踏み切ってしまった。そういう非常につらい歴史がありますが、それが後で抑止力になって、先日、シリアに武力攻撃をする一歩手前まで行ったのですが、国民?