グーグルの広告ビジネスをざっと見る(2) ー自分に関係がある広告、モチベーションの秘密

グーグルが展開するインターネット広告サービスの中核と言えるのが、アドワーズとアドセンスである。3者がハッピーになれる広告とは

(グーグルの広告ビジネスを概観する原稿を日経広報研究所が出している「日経広報研究所報」 2014年2-3月号に出しています。以下はそれに補足したものです。昨年末時点の情報をもとにしています。)

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グーグルが展開するインターネット広告サービスの中核と言えるのが、アドワーズとアドセンスである。

■3者がハッピーになれる広告とは

2000年に開始したアドワーズは、企業などが製品・サービス・ビジネスに関連するキーワードのリストとともに広告を出稿する仕組みだ。グーグルを使って検索する利用者がリストにあるキーワードを入力すると、これに付随した広告が検索表示画面に連動して掲載される。広告の掲載位置や料金は入札で決まり、最も一般的なクリック単価制を採用した場合、利用者が広告をクリックした時だけ料金が発生する。広告主は、掲載先のウェブサイトや地域(国、都道府県など)を指定できるのも利点だ。

サイトにコードを埋め込むことで、広告を通してサイトを訪れた見込み客数や、実際に購入や申し込みに至ったかどうかといった情報も取得できる。

アドセンスのサービス開始は03年からで、広告が検索結果画面ではなく、利用者のウェブサイトに関連して出てくる。利用者は、自分が運営するサイトのどこに掲載するかを指定し、広告の種類を選択する。広告コードをサイトに掲載すると、広告主がリアルタイムオークションで広告枠に入札し、最高額の広告が常にサイトに表示されるようになる。大きな広告予算を持たない企業でも気軽に使えるため、参加企業が見る間に増えていった。

利点として、競合他社や不適切な広告をフィルタリングできる、さまざまな広告フォーマットを選択できる、パフォーマンス報告と分析ツールの「グーグル・アナリティクス」を参考に改善が図れるなど。また、広告主は一度広告コードをウェブに追加すれば自動的に広告が表示されるようになるので、その後は何もしなくても収益が上がるといったメリットもある。

グーグルについての著作「イン・ザ・プレックス(In the Plex)」を書いたスティーブン・レビーによると、最適な検索結果を出すことを目指すグーグルにとって、アドワーズの仕組みは同社らしいサービスで、「広告の質」を示す最初の試みとなった。「グーグル、広告主、そして特に利用者の3者全員がハッピーになれる」。自分に関係ない広告がサイトに出れば、利用者は不満を持つ、だからグーグルは「無関係な、いらいらさせるような広告を出さない仕組みを構築することを最優先した」としている。

■増益基調も、クリック単価下落が悩み

グーグルの財務状況に目を向けてみたい。12年決算は、売上高が501億7500万ドルで、前年に比べ32%増加した。営業利益は8・7%増加し、127億6000万ドル。純利益も10・3%増の107億3700万ドルだった。

12年に買収したモトローラ・モビリティを除く売り上げは460億390万ドルで、21%の増加(2014年1月末、売却を発表)。

10月に発表した13年度第3四半期(7-9月)決算によれば、売上高は前年同期比12%増の148億9300万ドル、純利益は36%増の21億7000万ドルと好調を維持している。

グーグル直営サイトを通じたアドワーズによる収入は22%増の93億9400万ドル(売上高137億7200万ドルの68%)で、アドセンスプログラムを通じたパートナー経由の収入はほぼ横ばいの31億4800ドル(同23%)。それ以外の9%は「その他の事業収入」で、85%増の12億3000万ドル。グーグル・アップスや携帯機器用OS(基本ソフト)のアンドロイドなどだ。

ペイドクリック(利用者が広告をクリックした数)は前年同期比26%増と、過去一年で最高の伸び率を記録した。半面、クリック単価は8%、前期比でも4%減った。単価が低いモバイル広告への移行が進んでいるのが要因と言われる。

ペイジCEOによると、グーグルが所有する動画投稿サイト、ユーチューブへのモバイル機器からのトラフィックは、2年前は10%足らずだったが、現在は40%前後に増えた。同社が携帯電話を製造するモトローラを買収したのも、モバイル強化の一環だ。13年2月にはクリック単価の低下に対抗するため、スマートフォン、タブレット、デスクトップの広告を統合するサービスを始めている。

■全能か無能か

グーグルが広告会社として成功した背景に、インターネットの急速な発展・普及といった時代の大きな流れがあったことは否定できない。

「世界中の情報を記録・整理する」目的を掲げて、検索エンジンに優れたアルゴリズムを採用し、最新技術を駆使したサービスを次々と展開しながら、利用者の情報を絶え間なく収集してきた。

検索などのサービスを世界規模で拡大した結果、地球上に張り巡らせたネット広告の大きなプラットフォームが出来上がった。個人や中小企業に対し、手持ち資金が少額でもネット上に広告を出せるシステムを提供し、市場を拡大させている。

米オムニコムと仏ピュブリシスの合併は年間50億ドルの経費削減につながるうえ、メディア購入部門の拡充で広告主への貢献度合いが高まるのがねらいと言われる。

しかし、この合併策も移り変わりの激しい広告業界で万全の策とは言えないと、英エコノミスト誌は警鐘を鳴らしている。同誌は13年8月3日付記事で広告会社の将来像を分析し、オムニコムの社名をもじって、見出しに合併が「全能か、無能か(Omnipotent, or omnishambles?)」を掲げた。

「無能」となるかもしれない要素として、エコノミスト誌はグーグルやフェイスブックのようなネット企業はサイト利用者について豊富なデータを持ち、広告主は広告会社を通さずに直接モノやサービスを売りたい顧客に結びつくことを可能にした点を挙げる。

テレビや新聞といったマスメディア広告が伸び悩むなかで、デジタル広告市場は拡大している。その要因の一つは、広告主が広告を掲載するまでの過程が簡略化され、迅速に出来るようになったことだ。かつて広告出稿には広告代理店が欠かせなかった。広告主とメディア企業の間には広告代理店が介在し、仲介役を果たしていたが、ネット広告市場ではこのスタイルが万能でなくなっている。

一般企業などが魅力的な広告作品を独自に制作するところまで、広告市場が大きく変わるかどうかは分からない。広告会社は今後も存続するだろうが、巨大化が生き残り策と言えるかどうかは疑問である。

■フラットで自由な発想生む職場

グーグルの広告ビジネスの発想法やイノベーションの生み出し方について、筆者がかつてグーグルの関係者に行ったインタビュー(「週刊東洋経済」2008年9月27日号)の一部を当時の編集者の許可を得て紹介したい。

相手はグーグルの欧州及び新興市場向け製品とエンジニアリング部門のバイス・プレジデント、ネルソン・マトスで、スイス最大の都市チューリッヒにあるグーグルのエンジニアリング・調査開発センターに勤務していた。

マトスはグーグルの検索サービスは他社サービスとは「質が違う」と説明、その要因として「カバーする地域の広さ、インデックス数の大きさ、クロール(ソフトウエアなどで自動的にウェブページを収集する作業)の頻繁さ」を挙げた。

さらに会社組織が「非常にフラット」で「透明性が高い」と強調し、従業員ならだれでもCEOや創業者に連絡をとって議論することが可能で、全ての従業員の達成すべき課題を相互に確認できるといった体制を説明した。このシステムが会社の意思決定を迅速にし、各種サービスの開発などを効率化している。加えて「技術力が高く、起業家精神にあふれる人材を採用する」ことも、イノベーションを生み出す鍵になっている。

以下はマトスとの一問一答である。

―グーグルのような検索サービスをほかの企業が何故できないのか

「まずできないだろう。検索エンジンの結果の質が違うからだ。また、それぞれの地域や言語に応じた検索サービスを提供しているーこれほどの規模では他社はできない。第3として、グーグルのインフラの規模の大きさがある。検索エンジン業界で、おそらく最大のインデックスを使っている。どのウェブサイトをどれぐらいの頻度でクロールすればどれぐらいの質の高い検索サービスを提供できるのかを何年にも渡って研究してきた。他の検索エンジンはグーグルほど頻繁にはクロールしていない」

―製品開発やR&Dなどの面で、グーグルはほかの会社とどこが違うか

「大きな違は会社の構造だ。グーグルは非常にフラットな組織体制を持つ。会社の中のコミュニケーションがスムーズに縦横に進む。会社の最高経営責任者や創業者たちに誰でもが連絡を取れ、議論できる。会社としての意思決定が非常に早く、ものごとが効率的に進む」

「次に、雇う人材が違う。技術能力が高く、起業家精神にあふれる人を採用する。内部の仕組みも違う。プロジェクトは少人数のチームで手がけるので、良いアイデアが非常に早いスピードで発展して行く」

―エンジニアたちの「効率性」の達成をどのように行っているか

「グーグルには他社と違う6つの要素がある。(1)「エンジニアのレベルが高い」、(2)「技術上の知識が豊富なだけでなく、起業家精神にあふれ、20%の勤務時間を独自のプロジェクトにつぎ込める人を選ぶ、(3)従業員同士のネガティブな競争をなくするために、透明性を重視する-すべての内部情報に誰でもがアクセスできるようにしている。(4)4半期ごとの達成目標がすべての従業員に設定されている。これは最高経営責任者から秘書職までの全員だ。ネガティブな競争がなくなり、共同で働くことができる」

―それでも競争が起きそうになったらどうするか?

「良い・悪いなどの主観的決定をするには、データでの裏づけを示す(5)。データで良し悪しを判断できない場合はユーザーに焦点を合わせる。ユーザーにとって良いことかどうか。最後(6番目)の秘訣はスピードだ。ネットの世界ではスピードは本当に重要な要素だ。早く開発して、市場に出し、フィードバックを元にアップデートし、また市場に送り出すー何度も。とにかく早く動くことだ」

―世界中に散らばるエンジニアたちを統括する役目を担うと聞く。どのようにして「管理する」あるいは仕事の動機付けをしているのか?

「モチベーションを与える必要がない。理由は、エンジニアたちが自分たちでモチベーションを見つけているからだ。グーグルは非常にフラットな組織になっている。そして、非常に技術力に優れた、かつ自分でアイデアを発想・開発できる人を雇う。そうすると、社内で、私がエンジニアのところに行って、『ある言語で検索をしやすくするにはどうしたらいいか考えて欲しい』と言わなくてもいい。エンジニアが私のところにやってきて、「ユーザーが検索ワードを入力する時、途中まで入力しただけで、検索が始まるサービスを作ったらどうか」と言う。私がやるのは、『それはいいアイデアだ。よしやってくれ』と言うだけだ」

「ただ、折を見て、方向性を示すこともある。世界でどんな技術上の挑戦があるか、すべてのエンジニアに情報を出している。一旦、全体的な方向性を示すと、エンジニアたちは勝手にどんどんアイデアを考え出してゆく」。

マトスは現在、チューリッヒでの勤務を追え、米サンフランシスコのグーグル・オフィスで働いている。(つづく)

(2014年3月2日「小林恭子のメディア・ウォッチ」より転載)

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