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中国における糖尿病の疫学及び予防コントロール戦略

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1. 糖尿病の疫学


中国第5回全国糖尿病疫学調査によれば、糖尿病の罹患率は持続的に上昇しており、2007-2008年には9.7%にまで達しました(表1参照)。その特徴は下記のようなものが挙げられます。

(1)2型糖尿病が大半を占める。
2型糖尿病が90.0%以上、1型糖尿病が約5.0%、その他のタイプの糖尿病は僅か0.7%を占めています。都市部の妊娠糖尿病の罹患率は5.0%程度となっています。

(2)前糖尿病状態(IGR, Impaired Glucose Regulation)の罹患率も増加傾向にある。
1994年の調査結果によれば、25から64歳の集団での耐糖能異常(IGT)は2.12%でしたが、2008年にはIGTの罹患率は15.5%にまで達しました。2008年に新規診断を受けた糖尿病患者の中では46.6%が、空腹血糖<7.0 mmol/L(約126 mg/dL)で経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)後2時間血糖値≥11.1 mmol/L(約200 mg/dL)となりました。前糖尿病状態の集団の中では、70%がIGTと診断されています。

(3)経済発展の程度も糖尿病罹患率と関わっている。
1994年の調査では、高収入グループの糖尿病罹患率は低収入グループの2-3倍でした。最新の研究では、発展した地域の糖尿病罹患率は依然として発展途上地域より高く、都市が農村部より高いことが示されています。

(4)診断されていない糖尿病患者の比率は先進国より高い。
2007から2008年に全国で調査された20歳以上の成人糖尿病患者の中で、新規に診断された糖尿病患者数は全体の60%を占めていました。以前の調査より低下していますが、先進国より遥かに高い数値です (米国では約48%)。

(5)糖尿病合併の心・脳血管障害の頻度が高い。
中国では糖尿病患者の平均の疾病経過は短く、糖尿病性網膜病変及び糖尿病性腎症のような特異的な合併症は、将来的に大きな問題になると考えられます。

さらに、上海市の糖尿病罹患率も持続的に上昇し、2013年には15.67%にまで達しています(表2参照)。

表1 中国における全国糖尿病疫学調査状況概括表

調査年度(診断基準)調査人数(万)年齢(歳)糖尿病罹患率(%)IGT 罹患率 (%)スクリーニング法
1980(蘭州基準)30全年齢0.67-尿糖 + 蒸しパン食2時間後血糖値スクリーニング・ハイリスク群
1986(WHO1985)1025-641.040.68蒸しパン食2時間後血糖値スクリーニング・ハイリスク群
1994(WHO1985)2125-642.282.12蒸しパン食2時間後血糖値スクリーニング・ハイリスク群
2002(WHO1999)10≥ 18都市部4.5農村部1.8空腹時血糖障害2.7, 1.6空腹時血糖スクリーニング・ハイリスク群
2007~2008 (WHO1999)4.6≥ 209.715.5OGTT

表2 上海市疫学調査状況概括表

年度サンプルサイズ調査対象年齢(歳)診断基準診断方糖尿病*(%)前糖尿病状態*(%)
200212329≥ 35WHO1999OGTT10.138.38
20097328≥ 35WHO1999OGTT13.2812.61
201318736≥ 35WHO1999OGTT15.6716.01

* 2010 第 6 回全国センサスによる。

2. 糖尿病の危険因子


中国の糖尿病の蔓延に関する主な危険因子としては下記が挙げられます。

(1)都市化:経済発展に伴い、中国の都市化のプロセスは大幅に加速しました。中国での全人口に占める都市部人口の割合は、2000年の34%から2006年の43%にまで上昇しました。

(2)高齢化:中国における60歳以上の高齢者比率は、年を追って増加し、2000年は10%でしたが、2006年には13%にまで増加しました。その他の要素を補正した解析後でも、年齢が10歳増えるごとに、糖尿病罹患率は68%増えるとされています。

(3)生活様式の変化:生活上の運動量は明らかに減少しましたが、カロリー摂取量は減少しておらず、総エネルギー摂取に占める脂肪摂取率も明らかに増えました。これと同時に、生活リズムの近代化により、人々は長期に渡ってストレス環境にさらされることになりました。これらの変化は、糖尿病の発症と密接に関わっている可能性があります。

(4)肥満と過体重比率の増加: 2007~2008年の調査対象の中で、WHOの診断基準での過体重は25.1%、肥満は5.0%を占め、1992及び2002年と比べて大幅に増加しました。

(5)アジア人の疾患感受性:性別、年齢及びBMIを補正後、白人と比べたアジア人の糖尿病のリスク比は1.6とされています。先進国及び各地域の中国系移民の糖尿病罹患率及び発症率は白人より高いとされており、中国人が糖尿病の疾患感受性集団であることが示唆されています。

(6)患者の生存率増加:糖尿病の各種の合併症危険因子に対するコントロールレベルの改善及び合併症に対する治療レベルの向上に伴い、糖尿病患者の合併症による死亡リスクは明らかに低下しました。

3. 糖尿病の予防と管理の原則


上海では下記の原則が掲げられています。
 (1)政府主導、部門協力、社会参加。
 (2)重点強調、分類指導、効果注目。
 (3)予防を主とし、予防と治療を結びつけ、社会に広く浸透させる。

4. 糖尿病予防コントロール戦略


また、上海では下記に挙げる予防コントロール戦略が行政側で立てられています。

(1)事前チェックを推進し、前向きに全国民の健康な生活様式を推進する。合理的な食事を科学的に指導し、減塩・低脂肪・低糖・低カロリーの健康な食品を積極に押し広める。運動フィットネス環境を積極に作り出し、各種の公共体育施設の開放レベル及び利用率を徐々に向上させる。タバコ規制を入念に強化し、世界保健機関の《タバコ規制フレームワーク公約》を実効し、引き続きタバコ規制のための広報や教育レベルを強化する。

(2)サービスを展開し、高リスク集団を適切に同定・管理する。糖尿病病高リスク集団(血糖、血圧、血中脂質の高い集団及び喫煙、アルコール依存症、肥満、体重過多等の集団)の同定及び管理を行う。各機関は、身体検査を適切に実施し、条件が適合する機関では、血圧・血糖等の健康セルフサービスの提供地点を設立する。基層医療衛生機構は、健康教育、予防、保健、医療、リハビリテーション等の総合サービスの職域を全面的に遂行する。

(3)予防と治療をガイドライン化し、糖尿病診療・リハビリテーションの効果を向上させる。診療技術基準及びガイドラインに基づき、病院はガイドライン化された診断、治療及びリハビリテーションを提供すると同時に、患者及び家族に対しコンサルティング指導及び科学的な知識を普及させるための広報を強化する。糖尿病の予防とコントロールにおいて、漢方医学と西洋医学を融合させるという原則に基づき、漢方医学の「利便性、漢方医学的な診察、安価」及び「未然防止」の特徴を十分に発揮すること。

(4)職責を明確にし、有効な連携に取り組み、慢性疾患の予防と治療を強化する。糖尿病の予防とコントロールネットワークを完成させ、上下の連動と適材適所の責任ある共同体を作り上げ、予防と治療の結びつきを促進させる。衛生行政部門は、業務方式を革新し、管理レベルを向上させる。専門員は、予防・治療業務の職責を遂行し、予防コントロールの職能を強化し、サービス能力を向上させる。

(5)実演的な指導を入念に実施し、糖尿病総合予防コントロール能力を向上させる。慢性疾患の総合的な予防コントロールのモデル区を積極に創設し、適切に技術を応用し、地元に歓迎される予防コントロール戦略、措置及び長期的な効果と管理方法を発展させる。政策ガイドを通じて環境のクオリティを向上させ、緑地面積及びフィットネス活動の場を増やし、健康な環境を建設する。

(6)資源を共有し、疫学調査の情報管理の完成度を高める。既存の資源を統一的に計画して利用し、糖尿病の疫学調査と情報化管理レベルを向上させ、初期糖尿病状態、罹患、死亡及び危険因子と合併症調査データベースを作り上げる。住民健康アーカイブ及び区域衛生情報化プラットフォームの構築と結び付け、糖尿病情報の収集、分析及び利用を強化する。

参考資料
《中国慢性病予防治療計画(2012-2015年)》
《中国糖尿病予防治療ガイド(2013)》
上海市疾病予防管理センター